67.シーサーペント
港町に来て2日目。
ドワコは目を覚ました。隣ではメルディスがまだ眠っていた。両手には柔らかい感触が2つ。とりあえず揉んでおくか。モミモミ。
「あん」
メルディスが可愛い声で鳴いた。元々はペッタンコだったそれは、ドワコの魔法で驚異的な成長を遂げた。作ったのは私だから好きにしても良いよね?と無茶苦茶な結論を出して両胸の柔らかさを朝から楽しんだ。
朝のひと時を楽しんでいると外が騒がしくなった。その騒ぎでメルディスも目を覚ました。
「ご主人様。おはようございます。外が騒がしいようですね。」
「そのようだね。何かあったのかな?」
急いで支度をして宿屋の外に出てみた。港から少し離れた所に巨大なウミヘビのような生き物が船に絡みつき次々に沈められている。
「なにあれ?」
「シーサーペントですね」
ドワコの言葉にメルディスが答える。
「シーサーペントは海に住む巨大な魔物で、航行する船などを襲う事で知られています。ただ、それは外洋での話で、こんなに陸地の近くまで来ると言う話は聞いたことがありません。」
陸地の近くで見られるのは珍しいらしい。海沿いには沢山のやじ馬が集まっている。
「海軍が出たぞ。これで安心だ。」
誰かの声で見物している人たちは城側にあるらしい軍港のある方角を見た。ドワコとメルディスもそれにつられて視線を動かした。
装甲を施し、船首には衝角が付けられた船が多数出港していった。大きさは昨日見た商用船と同じくらいの大きさなので少し心許ない気がする。シーサーペントに接近していき一定距離まで来たところで弓矢による一斉斉射が行われた。
「「「「おーーーー」」」」
と歓声が上がる。だが、シーサーペントには攻撃が効いていないようだ。弓矢を斉射しながら近づいていき、今度は魔法による攻撃が始まった。
「「「「おーーーー」」」」
またも歓声が上がる。この国の海軍には攻撃要員として魔導士が乗っているようだ。
「それぞれの船に魔導士が乗っているってすごいね」
「それだけ魔導士の数が確保されていると言う事でしょうか」
ドワコの驚きにメルディスも同意する。しかし魔法攻撃も効いていないようだ。そしてシーサーペントが反撃に出た。初撃で1隻の船が簡単に沈められた。
「「「!!!」」」
見ていた人たちは圧倒的なシーサーペントの攻撃力に驚いている。
次々に海軍の船は沈められていく。残った船は距離を保ちながら弓矢や魔法による攻撃を続けている。しかし、船の速力が遅いため簡単にシーサーペントに取り付かれ沈められていく。しばらくすると海軍は壊滅し船の残骸と脱出した兵士たちが浮いているだけの状態となった。さらにシーサーペントは浮いている兵士たちをも飲み込んでいく。
この光景を見ていたドワコは何とも言えない気持ちになったが、他国なので手が出せないのでグッと助けたい気持ちを抑えた。
「ご主人様・・・辛いですよね」
ドワコを悲しそうな目でメルディスは見ていた。
「ちょっと・・・こっちに向かってきてない?」
誰かの声でふと先ほど戦闘が行われていた海域を見たがシーサーペントの姿が見えなくなっていた。探してみると、こちらの方に向かってきているように見えた。少し距離が離れているので付近に地上部隊がいれば展開可能だが・・・どうなんだろう・・・。
「ここは私たちが守ります。皆さん安全な所へ避難してください。」
ドワコが声のする方向を見るとドワコくらいの身長の少女の一団が現れた。
「「「魔法少女隊だ」」」
周りにいた人の言葉から『魔法少女隊』と言うらしい。軍服を着ている所から軍属なんだろう。
ドワコとメルディスは少し離れた場所から様子を見ていた。
「魔法少女隊って?」
「私にもわかりません」
ドワコの質問にメルディスはわからないと答える。
「お前さんたち魔法少女隊も知らんのかね?」
隣にいた見物しているおばちゃんが言った。
「隣の国から来ているのでこの国の事情には疎くて・・・良かったら教えてくれますか?」
「魔法が使える成人していない少女だけを集めて組織した魔導士隊だよ。噂では国王が趣味で作ったとか・・・おっとこれは失言だったかな。今のは内緒ね。」
「聞かなかったことにしておきますね」
この世界での成人は15歳だ。趣味で魔法少女を集めているって・・・あっ、それでエリーが行きたがらなかった訳だ。エリーはマルティ王国でも上から数えた方が早いくらいの魔導士になっているので、それをここの国王が知ったら何をされるかわからないと読んだんだろうと納得した。
と余計な事を考えているうちにシーサーペントが魔法の射程内まで入ってきた。
「総員構え」
海岸に横一列に並んだ魔法少女隊は一斉に詠唱に入る。
「放て」
合図とともに一斉に魔法が斉射された。国王が直々に組織したと言われるくらいなので、中には中級魔法も混じっている。若干ダメージが入ったように見える。そしてシーサーペントが反撃に移る。大きく海面を尻尾でたたき大波を発生させる。それが魔法少女隊に襲い掛かる。避けきれなかった隊員が数人流されていく。ただ陸の方へ向かう波だったので海に引きずり込まれることは無かった。即座に立ち上がり持ち場に戻ったが、そのうちの1人がどこかで打ち付けたかピクリとも動かない重症のようだ。
さすがに目の前でこのような事が起きればドワコも放っておけなかった。深い傷を負った少女に駆け寄り怪我の状況を確認する。
「大丈夫ですか?」
ドワコが尋ねるが返事がない。
確認して即座に魔法書を取り出し「ハイヒール」を唱えた。
まばゆい光と共に負傷した少女は全回復した。
「どこのどなたかわかりませんが、ご支援ありがとうございます。」
そう言い残し前線に復帰していった。
こうして魔法と大波の応酬が続いたが、徐々に魔法少女隊が劣勢に立たされていく。魔力切れだ。人数が多いので最初の斉射以降は再詠唱時間を考慮して数人のグループに分かれて魔法攻撃を行っていた。しかし何発撃っても平気な顔をしているのはドワコぐらいで、他の魔導士は魔力を消費していくため長期戦になると不利になっていく。
形勢が不利になったのを悟った見物していた人たちは逃げ出していった。
残ったのはドワコとメルディスと魔法少女隊の面々だけだ。
「はぁはぁ・・・あなたたちも、お逃げなさい。ここはそう長く持ちません・・・。」
かなり苦しそうな表情で逃げるように促す。だが、ドワコは軍属でも年端の行かない少女たちを残して逃げるなんて言う選択肢は無かった。
「そう来ると思っていました」
次にドワコが言うセリフを察したメルディスが嬉しそうに言った。
「助太刀させていただきます。」
ドワコが宣言した。
そして即座に2人は魔法少女隊の前に出た。
「あなたたち危ないですよ。早く逃げてください」
隊員の言葉を無視してメルディスが魔法書を持ち詠唱を始めた。
「ファイア」・・・「ウォーター」・・・「ウィンド」・・・「ストーン」・・・「ファイア」・・・
4属性魔法を順番に詠唱し、魔法が途切れないよう撃ち続ける。
それを見ていた魔法少女隊の隊員が驚く。
「4属性持ちですって?」
通常の魔導士は1属性か2属性しか使えない。ところがメルディスは4属性使うことが出来る。魔法能力に秀でるエルフだからと言えばそれまでだが、一人でも途切れない魔法攻撃をするのは相手としてはやりずらい。
その間にドワコは魔法陣を形成し詠唱を進めていく。
「・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・カマイタチ。」
ドワコは風属性の上位魔法カマイタチである。風が刃となって相手に襲い掛かる。
シーサーペントは切り刻まれ海に沈んでいった。切り刻んだ隙間から少し前に飲み込んだと思われる兵士が何人か確認できたのでワイバーンを召喚し一人ずつ回収した。全員は無理だったが3人ほど救助することが出来た。だが3人共息をしていない。すでに亡くなっているようだった。ドワコはあきらめず蘇生魔法「リザレクション」を唱えた。1人は亡くなってから一定時間が経過していたようで失敗したが、2人は蘇生に成功した。
ドワコは「カマイタチ」、「リザレクション」と上位魔法を使ったので、それを見ていた魔法少女隊は驚きと尊敬の目で見ている。
ドワコは蘇生できなかった兵士に手を合わせた。メルディスもドワコと同じように手を合わせた。蘇生に成功したのは、一人が立派な鎧を着た将官クラスと思われる兵士と、もう一人は魔法少女隊と同じくらいの年齢の少女だった。
「「「王子!」」」
魔法少女隊の隊員が蘇生した一人を見て一気に集まった。将官ではなくて王子だったようだ。前線で指揮をしているとは指揮官としては先頭に立つタイプなんだろう。とドワコは思った。
放置されたもう一人の少女の所へ行き容態を聞いた。
「大丈夫?痛い所とか無い?」
「はい。大丈夫ですシーサーペントを迎撃するために船で接近したのですが、反撃に合い海に投げ出されてしまい、その後の記憶がありません。どうなったのでしょうか?」
少女がドワコに聞いてきた。流石に食べられて死にましたとは言えないので結果だけを教えた。
「大丈夫ですよ。すでに倒しましたので安心してください。」
それを聞いた少女は安心したように眠りについた。そしてドワコは平らな所に寝かせて王子と呼ばれた人の所へ行った。
魔法少女隊に囲まれている王子。
「シーサーペントはどうなった?」
王子は隊員に状況説明を求めた。
「あちらの方が魔法で倒されました。そして亡くなられた王子を蘇生魔法で生き返られせくれました。」
ドワコの方を向き隊員の一人が言った。
「なんと蘇生魔法と。どこかのご高名の魔導士様かとは思いますが、国を救った上に私の命まで救っていただいたとは、感謝だけでなく何かお礼をしなくてはなりませんね。ぜひ私どもの城にお越しください。」
眠って放置されていた少女をドワコはお姫様抱っこしたまま、メルディスと一緒に城へ案内された。




