66.港町
ドワコは今、ドワミの工房に来ている。
ある物が完成したと言う連絡を受けたからだ。
「ぱっぱらぱっぱぱっぱらぱっぱぱっぱらぱっぱっぱ~♪れいぞーうこぉー」
変なファンファーレの後にドワミがだみ声で完成した物の名前を言う。この演出要らんでしょ?ドワコが内心突っ込みを入れる。ドワコはアイテムボックスに入れておけば食べ物が劣化することが無いが、他の人ではそうは行かない。ドワコも冷たいものが食べたり飲みたくなる時もあるので必要な物と考えていた。
完成したのは魔動機を使った圧縮式の冷蔵庫だ。家庭用と車載用の2タイプだ。家庭用は各家庭で使えるように小型化されたもので、車載用は魔動車の荷台に乗せられ新鮮な食材が運べるようになっている。さらに出力を上げた冷凍庫も製作した。これも家庭用と車載用の2タイプ作り合計4タイプが製作された。
「仕組みさえわかれば簡単だね。これは使えそう。」
製作を担当したドワミが言った。確かに冷媒さえ確保できれば仕組み自体は簡単だ。とりあえず砦と飲食店、あとは食材運搬などで使ってもらおうと思う。もちろん神殿にも置くように手配した。
それと動力を魔動力に変換する発魔機と言う物を開発した。魔動機に動力をかけると魔石燃料から取り出されるエネルギーと同様の物が発生する。便宜上、魔動力と名付けた。それを他の魔動機に魔導線つなぐと魔石燃料のように使用することが出来る事がわかった。これにより風力、水力などで魔動力を得る方法が出来た。すでに砦と付近の農業地帯には発魔用、発電用の風車が取り付けられている。これにより安定したエネルギーが得られるようになった。現在は山奥にダムを建設して水力による発魔、発電によるエネルギー調達の準備をしている。
そして、何日か経ち、今日はドワコはドワコ領の南側にある諸国連合に属しているブリオリ国を目指している。大量の製品を輸出しようと思うと海路での輸送が一番適しているが、ドワコ領には船を入れられる港や運河が存在しない。一番最寄りの港がブリオリ国にあるブリオリ港だ。マルティ王国と諸国連合は比較的良好な関係なので人や物資の移動についてはあまり制限を受けない。販路拡大のためにはぜひ港を押さえておきたいと言うドワコの考えだ。他国へワイバーンで行くのは問題になるので、今回は馬車で移動している。ドワコ領の砦までは舗装された道が整備されているので馬車での移動も快適だったが、ブリオリ国に入った途端に道が悪くなり、移動速度が落ちた。
「やはり国境を越えてからの道の整備必要だなぁ」
ドワコが言った。
「そうですね。ご主人様の言われる通りです。」
メルディスが言った。ドワコの他の同行者はエルフの自称奴隷メルディスと御者の3人だ。お忍びでの訪問なので同行者を絞っている。と言ってもメルディスを連れてきているだけで目立っているのだが・・・。
いつもなら付いてきそうなエリーは「あの国には行きたくないですぅ」と言い同行していない。
「ご主人様と二人きりでお出かけなんて幸せです」
出発してからメルディスはドワコにべったりと引っ付いている。最初は気にしていた御者さんも国境を超えるころには関心を示さなくなった。今回持って来た荷馬車は、数日前に完成した保冷機能の付いた荷馬車だ。海から採れる新鮮な食材の輸送テストも兼ねている。上手くいけばドワコ領でも魚などの海産物を食べる事が出来るようになるはずだ。
この荷馬車は保冷機能の他に魔動機による動力アシストも付いている。ある程度重い物を積んでも動力アシストがあるため馬には負担がかからないようになっている。しかも魔動機の出力を上げて使用すれば悪路でもある程度の速度が維持できるようになっている。さらに、外から見ると普通の幌付きの荷馬車にしか見えない。今回の為に作ったような仕様になっている。
だが緩衝装置が入れてあるとは言え荷馬車なのであまり乗り心地は良くない。乗っている人は所々段差でバランスを崩してしまう。
「あれ~」
馬車の揺れに耐えられなかったメルディスがドワコに抱き付いてきた。そしてそのまま押し倒された。
「ご主人様ぁ。私もう我慢が出来ません。」
メルディスは自分の服を脱いでドワコの服も脱がしにかかる。御者は見て見ぬふりをしている。外からは幌が掛けてあるので見えないようになっている。今回は邪魔者がいないので、ここぞとばかりメルディスは攻めに入る。
「だれだー。こいつを人選した奴はー!!」
ドワコの悲痛な叫びが荷馬車の中から聞こえて来た。
ちょうど途中に宿屋のある集落があるのでここで一泊する予定だ。
荷馬車から降りたドワコはゲッソリと疲れ切っていて、反対にメルディスは綺麗な肌がさらに艶々になっていた。
「ご主人様。今日はここで一泊ですよ。宿泊の手続きしてきますね。」
メルディスは今にもスキップしそうな勢いで宿屋に入って行った。
「領主様も大変そうですね・・・」
御者がドワコを残念な目で見ながら言った。
夕食は魚料理が出た。・・・と言っても焼き魚だが・・・。この世界に来て初めて食べる魚だった。
「焼いただけでも十分美味しいなぁ」
ドワコはそのままでも食べられるが、醤油などの調味料が欲しいなと思った。
(料理関係の知識は全く無いからなぁ・・・こればかりは自己解決は無理そうだ)
夜はドワコとメルディスは同じ部屋で寝る事になった。これもメルディスが宿泊手続きをする時に意図的に決めてしまったようだ。今晩寝られるかなぁ?
この宿にはお風呂が無いので体を拭いて終わりになる。隣で手をワキワキさせたメルディスが準備している。
「それではご主人様。お体を拭かせていただきますね。」
メルディスがドワコの体を拭いている。どさくさに紛れて色々な所を触ってきたり揉んできているのは注意した方が良いのかな?・・・と思ったけどやり返すことにした。
「それじゃ。今度は私が拭いてあげるね。」
そう言って攻守交替した。とりあえず背中から始めて、首を拭き、ふと目を上げるとピクピク動いている耳が気になった。
(これってどうなってるのかな?)
ドワコは興味がわいたので長くピンと張った耳を触ってみた。
「ひゃうぅ」
メルディスがビクンと跳ね上がった。反応が面白くて色々角度を変えたり強弱をつけて触ってみる。ついでに耳を軽く噛んでみた。
「もうだめぇ・・・」
そのままメルディスは倒れ込んでしまった。ここまでやって何だが、耳は弱いらしい。
おとなしくなったので後は手早く拭いて終わらせた。
(これで少しはやり返せただろう・・・)
そしてドワコとメルディスは一つしかないので同じベッドで寝る事にした。
「私、今とても充実した生活をしています。エルフの集落を飛び出して海を渡って、ブリオリ港からこの地に入りました。エルフの集落ではダメエルフと嘲笑され、ブリオリやムリンではエルフに関わりたくないと言う雰囲気が伝わってきました。ご主人様はエルフだと言う事も気にせず接してくれた上に、衣食住を提供してくれてとても感謝しています。それに砦のみんなも好意的に接してくれています。」
真面目モードになったメルディスはこれまでの事を振り返りながらドワコに語った。
「エルフの寿命は長いので、振り返ってみれば一瞬の出来事かも知れません。でも今を大切にしたいと思います。そして・・・」
メルディスが溜めに入った・・・これはマズいかも。
「ご主人様にいっぱい愛してもらいますぅぅ」
そう言って抱き付いてきた。ドワコの身長がかなり低いこともあり抱き枕状態だ。でもメルディスの柔らかさや温かさに触れてドワコは次第に眠りについていった。
「ご主人様、お疲れだったのかな?」
小声でメルディスはつぶやき、ドワコの頬に軽く口づけをしてそのまま眠りについた。
翌朝、良く寝られたのかドワコはとても気持ちのいい朝を迎えた。寝てから何かされたのではないかと確認したが、何かあったような形跡は無かった。隣ではメルディスがまだ眠っている。しばらく寝顔を見ている事にした。均整の取れた顔なので何かの芸術作品を見ているような気持ちになる。
(見た目は超絶美人なのに普段の残念さが評価下げまくってるんだろうな)
ドワコはそんな事を考えていた。
「おはようございます。ご主人様。」
メルディスは目を覚ましたようだ。
「おはよう。メルディス。今日もよろしくね。」
朝食後、宿を出発してブリオリの港町を目指す。地図で確認した感じではそろそろ到着するのではないかと思う。しばらく進んでいくと海が見えて来た。そして開けた所に街が見えて来た。ブリオリの港町だ。町のはずれには大きな建物が見える。おそらく国王のいる城だと思う。
滞在予定の宿に到着し、宿泊の手続きを終わらせる。そして御者にお礼を言う。
「御者さん。ありがとうございました。出発までは特に仕事はありませんので、ご自由に過ごしてくださいね。」
そう言って御者と別れて港を視察することにした。
「メルディスは他の所から船に乗ってここに来たんだよね?」
「はい。この先に船着き場があります。」
少し進むとメルディスの言う通り船着き場があった。今回は乗る予定ではないので見るだけである。比較的小さな船で動力は手漕ぎのようだ。20人ぐらいの漕ぎ手が左右に分けれ、それぞれが大きなオールを漕いで進むようだ。
「メルディスもこういう感じの船に乗ったの?」
「そうですね」
「これで外洋出ても大丈夫なのかな?」
「かなり揺れますよ。大波が来たら中に海水が入ってきますし。」
(自分の領地なら改善の余地ありと判断するけど、他国だから手が出せないね)
「結構大変な思いをしてここまで来たんだね」
ドワコとメルディスは旅客用から貨物用の船着き場に移動した。
そこでは船への積み込み作業が行われていた。船の大きさ的には先ほど見た旅客用とあまり大きさが変わらない。同じく20人くらいの人が左右に分かれて漕ぐことで進むようだ。
「風の力で進む帆掛け船って言うのは無いのかな?」
「なんですかそれ?初めて聞きました」
メルディスは知らないようだ。
この感じだと船は旅客用と貨物用に完全に分かれているようで、貨客船のような両方乗せられるタイプはなさそうだ。やはり船が小さいためだろうか・・・。
今度は店屋を回る事にした。ドワコに一番馴染みのある武器屋へ行ってみる。
「へい。らっしゃい。ゆっくり見てってくんな。」
店主の威勢の良い声がする。店内にもそこそこ客がいて賑わっているようだ。商品も若干高めだが新品武器なども置いてあった。
「やはり外国から物が入ると新品の武器も入ってくるわけだね」
メルディスに言ったつもりが店主が聞いていたらしく話に入って来た。
「おうよ。うちはこの地方は珍しく新品の武器防具を扱ってるんだ。この地方には鍛冶屋はおらんが船で他国から入れることが出来るからな在庫は豊富だ。」
鼻高々に店主は言った。確かに少し前までならそうなのだが・・・隣の国が武器を製造していると言う事を知ったらどう動くのか気になった。
「知ってますか?隣の国では新品の武器や防具が安価で売ってるんですよ。」
「隣の国・・・そんな所あったかな?」
隣の国と言ってピンと来ないようだ。宣伝も必要だなとドワコは思った。
続いて服飾関係の店を回ってみた。今後、工場が完成すれば大量の布が出回る事になる。在庫状況や価格などを調べて歩いた。
そして今日の予定が終わり宿へ戻ってきた。
夕食は海産物がメインだった。味付けしなくても食べられるのがドワコは気に入った。やはり食生活の改善のためには海産物が入る流通ルートを作らないといけないと思うドワコだった。
そしてお互い体を拭きあってベットで寝る事にした。歩き疲れたのもあって2人はここでも同じベットに入ってすぐ眠りについた。




