63.久々の聖女様登場
翌日、ドワコとエリーは城の中にある聖女の執務室に来ていた。
「それで、今日は神殿で何をすればいいのでしょう?」
ドワコがエリーに今日の予定について尋ねた。
「神殿に申し入れをしたのが昨日なので、治療をしてもらう為に集まる人は少ないと思います。今回の目的は引き抜きです。」
「え?」
ドワコは驚いた。堂々と引き抜きだというエリー。そこまでして確保したい人物が神殿にいるという事だ。
おそらくエリーが狙っているのは昨日、正体を明かしたシスターだと思う。
「ドワコさんが思っている通り、確保したいのはシスター・メロディです。彼女には新しく作る神殿の管理を任せようと思います。」
「管理を任せるだけならこんな手の込んだことしないよね?何か別の目的がありそうだけど?」
「まあ、領地に連れて行けばわかると思いますよ。楽しみが減るので本当の理由は今は内緒です。」
そう言ってエリーは話を打ち切った。
仕方ないので、聖女服を着て準備を始める。
「ドワコさん。この服借りてもいいですか?」
ドワコが見習いの時に着ていた見習い聖女服を持ってきて聞いてきた。
「別に構わないけど、着ても大丈夫なのかな?」
「見習いは聖女様の独自の判断で付けることができます。正式に聖女の座を譲る場合は王様に報告しないといけませんけど、そうで無い場合は報告は不要ですよ。」
「そうなんだ。」
エリーはその場で服を脱ぎだし着替え始めた。
「どうしてここで着替えるの?」
「そうした方がドワコさんが喜ぶと思って。うふふん。」
そう言って慣れた手つきで着替えた。
着替え終わりドワコとエリーは二人ともフードを被った状態で城の通路を歩いている。
「2人でフードを被って歩くと怪しい人に見えるね」
エリーがそんな事を言ってくる。誰かに止められはしないかドキドキしながらドワコは歩いた。そのまま貴族用の門に行き城の外へ出た。その時、衛兵は敬礼をするだけで特に声はかけてこなかった。
徒歩で神殿を目指しているが、道行く人に声を掛けられる。聖女の任務は通常なら馬車での移動となる為、町の人たちと触れ合いながら移動するのも悪くないと思った。
「聖女様こんにちは」
「今日はどちらへお出かけになられるんですか?」
極力、返事を返しながらゆっくりとした歩みで神殿に着いた。
そしてドアを開けて聖堂に入った。そしてシスター・メロディが気が付いたようでドワコの前まで駆け足で来た。
「ようこそいらっしゃいました。聖女様・・・と準聖女様?」
「私ですよ」
他に誰もいないのを確認してエリーは自分のフードを取って見せた。そしてすぐにフードを被りなおした。
「エリーさん?準聖女様だったんですね」
「違いますよ。今日は変装の為に着ているだけです。そのままの状態で行くと神殿長に余計な詮索されてしまいますからね。安心してください。聖女様は正真正銘の本物ですから。正体を知っているのは他にはあなただけですので、しっかりとサポートお願いしますね。」
「はっ、はい」
「それでは神殿長へ取次ぎをお願いしますね」
「かしこまりました」
シスター・メロディは神殿長に取り次ぐために奥へ入って行った。
少ししてから大勢のシスターたちを連れて神殿長が姿を現した。
「ようこそいらっしゃいました。聖女様、準聖女様。今日はよろしくお願いします。」
神殿長がドワコとエリーに対して丁寧なあいさつをした。
「それでは早速、診療の方を行いますね。」
準聖女が付いてくると言うのは予想外だったらしく、大急ぎで診察用の机と椅子とベッドがもう一組用意された。
「私は駆け出しの見習いなので、まだ重傷者を見る事が許されておりません。軽症者の方のみの診察となりますので予めご承知の上で誘導の方をお願いします。」
エリーは横にいるだけだと思っていたが診察をするようだ。ドワコは大丈夫なのかと不安に思った。
町中を歩いて来たために、神殿に聖女が来ている事を知った住民たちが、診察の必要がある人に伝えていたようで、それなりの人数が神殿に集まった。まとめてエリアヒールで治療しても良いと思ったが話を聞くのも聖女の仕事と言う事で、一人一人診察を行っている。ドワコは慣れたものなのでサクサクと診察を進めているが、隣で診察しているはずのエリーが気になるが衝立があり隣の様子がわからない。
少し休憩と言って隣の様子を見に行った。
「そうですか。ここが痛むんですね。それでは魔法で治療しますね。・・・。はい治りましたよ。」
「ありがとうございます」
「次の方どうぞ」
魔法で治療と言いながら真似事をしただけで実際には魔法が発動していない。これは「病は気から」と言う事を実践しているのだろうか?次の患者は治療が必要に見える。
「今日はどうされました?」
「馬車にひかれてしまって、足の骨が折れてしまったようです。」
「それは痛かったですね。もう安心ですよ。魔法で治療しますね。・・・。・・・。・・水の癒し。」
患部が淡く光り怪我が治っていくのがわかる・・・エリーいつの間に「水の癒し」が使えるように?「水の癒し」は水属性の中級魔法だ。状態異常を取り除き僅かに回復も行える。回復量は僅かだが光属性以外の唯一の回復魔法だ。簡単な骨折位の治療ならこれでも治すことが出来る。
「はい治りましたよ」
「ありがとうございます」
エリーは再詠唱可能時間までの小休憩に入った。
「聖女様。私の事が気になって見に来てくれたんですね?」
「まあ心配だったからね」
「でも次の人が待っていますよ?そろそろ戻った方が良いかもしれません。」
エリーが診察に戻るように言った。二人で作業を続け並んでいた全員を診察して治療した。
「お疲れ様でした。聖女様、準聖女様。」
そう言ってシスター・メロディはドワコとエリーにお茶を出した。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ドワコとエリーがお礼を言って受け取った。
「それにしても治療の光景を拝見しましたが、お二人とも、とても素晴らしかったです。」
神殿長がドワコとエリーの所へやって来た。
「そう言っていただけると有難く思います」
「それで突然神殿に来られると聞いて驚きましたが、今回はどのような御用件で?」
神殿長が本題を切り出してきた。ここから先はエリーに任せる事にした。
「そうですね。ドワコ領に建設される予定の神殿ついてのお話です。」
「その話は昨日決まったはずですが・・・お耳が早いですね」
「聖女様はその新しく建設される神殿に派遣されるシスターを指名したいと考えておられます」
「なんと。聖女様より直接ご指名いただけるシスターが当神殿にいるとは大変光栄です。どのシスターをご所望でしょうか?」
「聖女様はこちらのシスターを指名したいと申しおられます」
そう言ってシスター・メロディを指名した。
「わっ、わたしですか?」
シスター・メロディは自分が指名されるとは思ってなく驚いている。
その場にいた他のシスターたちも、なぜ指名されるのかと不思議に思っている。
「お言葉を返すようですが、この娘は孤児でして幼少の身より神殿で面倒を見ておりますが、なかなか生活に馴染めないようで、いまだにシスターとしても半人前でございます。相応の家柄や身分も保証されておりませんので神殿を任せるには荷が重いかと思われますが・・・。」
「その辺はご心配されなくても大丈夫です。神殿を任せながら女神様が直接シスターとして一人前になれるようご指導されるとの言葉を聖女様は受けております。」
「なんとそうであったか。女神様直々にご指導いただけるとは、なんと光栄なことだ。シスター・メロディよ。聖女様の命によりドワコ領へ行ってくれないか?」
「はい。多少不安もございますが、行かせていただきます。」
エリーが無茶苦茶な理由で話を付けてしまった。まあ一言付けておかないといけないよね?
「シスター・メロディ。新しくできる神殿の事をよろしく頼みましたよ。」
「はい。お任せください。」
こうしてドワコ領に新しく建設される神殿に配属されるシスターが決まった。




