62.城下町の神殿
ドワコが気を失っていた間、何か変わった事が起こらなかったかとエリーに聞いた。
「えっと、そう言えば城下町の神殿から面会の要請が来ています。いかがしましょう?」
「神殿か・・・結局、城下町の神殿には行ったことが無かったね。どうしたらいいと思う?」
「そうですね。直接行ってみるのも良いかも知れませんね。大事を取って今日、明日、仕事は入れてませんので。」
「それじゃドワコさんも大丈夫そうなので、早速出発しましょう。」
すでに出かける準備はしてあり、まとめられた物をアイテムボックスへ入れるだけとなっていた。エリーは初めから行くつもりでいたようだ。
身支度を整えて、エリーは2日ほど出かける事を皆に告げ、ドワコと一緒にワイバーンで城下町を目指した。
「初めてきたけど、大きな神殿だね。」
ドワコが神殿を見上げて言った。
「そうですね。この国は独自の神様を祭っていて、他国の物とは異なるんですよ。」
「そうなんだ。前にアリーナの村の神殿で見た女神像が関係あるのかな?」
「そうですよ。大いに関係あると言うか、この国の神様と呼ばれる方ですよ?」
エリーの説明を受けながら、神殿の中に入った。
「ようこそ神殿へ。今回はどのような御用でしょうか?」
シスターがドワコとエリーを見つけ話しかけてきた。
「私たちは、ドワコ領から来ました。面会の要請を受けていた件で来ました。」
「ドワコ領・・・ですか?聞いたことない地名ですね。すみません。神殿長に確認をして来ます。」
エリーが用件を伝えたが、シスターは理解できなかったようで神殿長に確認すると言って奥へ入って行った。ドワコとエリーは聖堂で待つことにした。聖堂の真ん中には女神像があり、その前には祭壇が備え付けられていた。天井には絵が描いてあり、何かと戦っている絵が描かれてあり、その先頭には人々を導いている様子の女神様が描かれていた。
そして少し経つとシスターが戻って来た。
「お待たせしました。ドワコ領の使いの方ですね。こちらへどうぞ。」
シスターに案内されて神殿長の部屋まで案内された。部屋に行くまでに何人かのシスターとすれ違った。アリーナ村の神殿とは違いそれなりの人数が神殿内にいるようだ。
「神殿長、お連れしました。」
「入ってくれたまえ」
ドワコとエリーは中に案内された。
「初めまして。ドワコ領の使者の方々。私はこの神殿の神殿長をしておる者だ。」
使者と言うから構えていた神殿長だったが、相手が子供だと知り少し強気になったようだ。
「早速ですけど、神殿からドワコ領の領主様への面会要請が来ていましたので、詳細をうかがいに来ました。」
エリーが用件を切り出す。
「そうか。わざわざすまんな。我が国に新しい所領が出来た訳だが、信仰心を示すためと布教するための拠点となる神殿を建設してもらいたい。と言う内容なのだが・・・。見た感じ年端の行かない子供のように見えるが、本当に使者の物なのか?」
「私たち使者とは言っていませんけど?」
「なんと」
エリーの言葉に神殿長は案内したシスターを睨みつけた。シスターは恐怖の為かガタガタと震えている。
「使者ではなく、領主直々に来ました。私は従者のエリー。そしてこちらの方が、ドワコ領領主のドワコ様です。」
エリーがドワコを紹介する。
「はじめまして。神殿長。ご紹介を受けましたドワコ領、領主のドワコです。」
神殿長とシスターは目が点になった。
「領主様直々に当神殿にお越しになるとは・・・ささ早くお茶の用意をして来なさい。」
手のひらを返したように対応が変わった神殿長を面白そうに見ているエリー。神殿長はシスターにお茶の用意をさせた。
「どうぞ」
シスターはテーブルにお茶を並べた。応接間にはドワコとエリーが隣あって座り、テーブルを挟み向かい側には神殿長、その後ろにはシスターが控えている。
「ドワコ領の砦は私たちが祭る女神様にとっても関係が深い聖地なのだが、我々の希望としては女神様を祭る祭壇を作りたいのだが、軍事施設の為に神殿側では手が出せない状態で今日まで至っている。まあそれは仕方ないが・・・新しくできた所領にはぜひ神殿を建設してもらいたい。と言うのが神殿側の願いです。」
「要望は承りました。ちなみにエリーはどう思う?」
「神殿ですか・・・今の所必要ないので、要らないような気がします。」
「なんと申すか」
エリーの言葉を聞いた神殿長は領主様の前と言うのを忘れて激怒した。
「女神様ご本人がいらっしゃるのに、女神様を祭る必要が無いですよ?女神像なんて置いたら本人が恥ずかしさのあまり転げまわってしまいますよ。」
エリーはちらりとドワコの方を向いて言った。
「女神様がご降臨されているとな?」
「まあ、そういう事になります。ただ、本人は恥ずかしがり屋なのでそっとしておいてあげてください。」
「わかった。それが女神様の意向と言う事ならそうしよう。」
「まあ妥協点として、女神像を置かない方向で神殿を建設すると言う事でしょうか。ドワコさんそれでいかがでしょうか?」
「まあエリーがそう言うなら、そうしましょう。」
ドワコは女神像を置かない形での神殿の建設を神殿長に約束した。
そして、神殿長室を後にしたが、ドワコとエリーは神殿にまだいた。シスターに神殿を案内してもらっている。名目上は領主様が新しい神殿の建設にあたっての視察をすると言う事になっている。
「こちらが宝物庫です」
シスターに案内されてドワコとエリーは宝物庫に入った。
「400年前に行われた魔物との戦いで、当時は勇者様と呼ばれていた女神様が、降り立ち兵士たちに武器や防具を授けたそうです。その一部がここに展示してあります。」
経年の為にボロボロになっているが、ドワコはこの武器や防具に見覚えがあった。
「ドワコさん気が付かれました?」
そっとエリーがドワコに言った。
「経年劣化はしてますけど、私の作った武器ですよね?」
そして次の部屋に移動する。
「この部屋は伝説の天才魔導士と呼ばれた魔導士様と女神様が、共に魔物の軍勢と戦ったお話が記されています。」
シスターの説明を受けてドワコが書かれている文章を読んでみると・・・覚えがあるが、かなり脚色された内容の物が記されていた。
そして次の部屋に移動する。
「ここは戦闘で亡くなった者たちを生き返らせたと言う伝説について記されています」
女神様が人々を生き返らせている所の絵が描かれ説明文が記されている。特に当時の王様を蘇生させたことを称賛する文章が長々と書かれていた。
そして次の部屋に移動する。
「この部屋には勇者様が聖女様となられた話について記されています。あわせて後に神格化されて女神様となった経緯についても記されています。」
ここから先はドワコが知らないことが書かれている。なるほど・・・後日談のようで見ていて楽しい。
そして最後の部屋に移動する。
「こちらが歴代の聖女様の肖像画になります」
初代の所を見ると・・・かなり脚色されたドワコの顔が書かれていた。見る人が見るとわかる程度で普通に見ただけでは同一人物とはわからないだろう。
「やっぱり本物のドワコさんの方が良いですね」
エリーは肖像画とドワコを見比べて言った。
歴代の聖女の肖像画を見て回り優しそうな顔をした前々聖女様の隣には王子様・・・前聖女様の肖像画が飾ってあった。
「今の聖女様の肖像画がありませんね?」
あっても喜ばないが、無いと仲間外れにされているように感じたドワコが言った。
「実は今の聖女様はこの神殿にお越しになられた事が無いんですよ。今まではその時代の担当絵師の方が書かれているのですが、姿をお見せにならない以上、書くことが出来ないそうです。」
ドワコの疑問にシスターが答えた。
「内緒ですけど、聖女様は今、神殿に来ておられますよ?」
エリーがそっとシスターに教えた。
「聖女様が神殿にいらしてるんですか?どちらの方にいらっしゃるのでしょうか?」
神殿の者でも今の聖女様を見た事がある人はごく僅かだ。シスターはすごく知りたそうにエリーに尋ねた。
「聖女様のドワコさんでーす」
「えっと、聖女様ですか?先ほど領主様と言っていた気がしますが?」
「エリー言っちゃって良いの?」
ドワコは心配でエリーに聞いた。
「大丈夫ですよ。人には口外しないはずですし、今後の為にも教えておいた方が良いと判断しました。」
「領主様兼聖女様です。他の人に言っちゃダメですよ。言うと女神様が怒りますよ?」
面識があると言い切ったエリーから女神様の名前が出てビクッとしたシスターだった。
「それで、シスター・メロディ。」
「はっ、はい」
シスターは教えていないはずの名前を突然エリーに言われさらにビクッとした。
「明日、今日も来てますけど、次は正式な形で神殿の方へ参りますので、受け入れの手配をするように神殿長の方へ伝えておいていただけますか?」
エリーが突然、訪問についての話をした。明日の予定は決まったようだ。
「かしこまりました」
シスターと別れドワコとエリーは神殿を後にした。
「ドワコさん。女神様の秘密がわかりましたか?」
「はい。このタイミングで神殿に行こうとしたのが良くわかりました。」
次第にエリーの手のひらで操られている気分になるドワコだった。




