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賢者になったドワーフ娘(仮)  作者: いりよしながせ
ドワーフの領主様
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59.納品

最近、復興作業の方が忙しく『アリーナ銘品館』に納品する物が滞りがちになっているという報告を受けた。


作業をやろうとするタイミングでドワコが仕事を持ってくるのが原因だったようだ。

言われて思い当たる節があったのでドワコは反省し、急遽フル生産体制で納品分を完成させ、ワイバーンを使って納品に行く事にした。今回はエリーは別の用事があるようで今回はドワコ1人で向かう事になった。


城下町の近くにある森に降りてそこから徒歩で『アリーナ銘品館』を目指した。そして到着するとお店にはシアの姿は見えなかった。店も以前のような活気が無く、知らない店員達が暇そうに雑談をしていた。


「こんにちは・・・納品に来たんですけど・・・」


「おい、ドワーフ遅いじゃないか。いつまで待たせるんだ。品物が無い状態で客足が減ってこっちは大迷惑だ。」


「遅くなってすみません。えっとシアさんはいませんか?」


「前の店主か?実家に戻ったんじゃないか?それより早く納品してくれ。」


「すみません。ちょっと用事を思い出しましたので、いったん失礼します。」


「おい。まてや!」


ドワコは嫌な予感がして『アリーナ銘品館』を後にしてアリーナ村に向かった。そして近くの森で降りて武器屋を目指した。


「こんにちは。おじさん。シアさんいますか?」


「おう。いらっしゃい。シアなら奥にいるぜ。入ってくれ。」


武器屋の主人に案内されシアのいる部屋に案内された。


「あっ。ドワコさんごめんね・・・ゲホゲホ。お店乗っ取られちゃった・・・。従業員の中に変なのが紛れ込んでいたみたいで・・・。」


「そんなことがあったんだ。なんか体調悪そうだけど大丈夫?」


「なんか変な薬を飲まされたみたいで、それからあとの記憶が曖昧でいつの間にかお店を奪われる形になっていて、そのまま実家へ送られてしまったみたい。気が付いたら実家にいて、確認してみると店の権利が別の人に変わっていたみたい。それで、お父さんが村長に掛け合ってアリーナ村からの出荷は止めてもらったの。でもドワーフの集落には連絡することが出来なくてごめんね」


「少し前にお店に納品に行ったら様子がおかしかったから、納品せずにここに来て正解だったみたい。とりあえず薬の効果を無効化させるね。」


ドワコは魔法書を取り出し、状態異常を取り除く魔法「水の癒し」を唱えた。

シアが淡く光り薬の効果が無効化されていく。


「あれ?治ったみたい。ドワコさんありがとー。」


シアがドワコをむぎゅーと抱きしめた。胸の感触が久しぶりで心地よい。


「治療できたみたいで良かった。でも乗っ取った奴は許せないね。心当たりとかは無い?」


「店員に悪意を持ったものが紛れていたと言う事しかわからなくて・・・」


「そっか。手掛かりなしか・・・とりあえず村長の所へ行って何か情報を掴んでいないか確認してくるよ。」


「それじゃ私も一緒に行くよ」


ドワコとシアが店を出ようとした時、武器屋の主人が止めた。


「おい。シア大丈夫なのか?」


「ドワコさんが治してくれたから元気になったよ」


「なんと。娘を助けてくれてありがとな。」


「いえいえ。色々お世話になってますから気にしなくても良いですよ」


シアが元気になった事を伝え村長の屋敷へ向かった。



「ワゴナーさんこんにちは。村長に取次ぎをお願いできますか?」


「これはドワコ様。少々お待ちください。」


村長の執事であるワゴナーが中に入り確認をしてきた。


「お待たせしました。どうぞこちらへ。」


ワゴナーに案内されてドワコとシアは村長の執務室に入った。


「こんにちは。村長さん。」


「ドワコか。聞いたぞ、何でも王様から領主に任命されたそうだな。しかも魔物に襲われ破壊された所領の復興作業と言う大仕事も任されているとか・・・」


「さすがですね。もうそこまで知っておられるとは。」


「まあ同じ領主同士これからもよろしく頼む」


「こちらこそ。まだまだ新米の若輩者ですけど、よろしくお願いします」


村長こと領主のジムとドワコは固い握手をした。

その話を横で聞いていたシアが固まっていた。


「えっと・・・ドワコさんって領主様?」


「まあそういう事になってるみたい」


「この国の所領ってここだけですよね?」


「少し前に新しいところが出来たんですよ。そこを任されたんです。」


ドワコがシアに説明した。


「そうでしたか・・・貴族様とは知らずに色々とご迷惑を・・・」


「そこは気にしなくていいよ。今まで通りでいいから。」


シアが畏まったがドワコは今まで通りの接し方で構わないと伝える。


「えっと、それで今回こちらにお邪魔したのは、アリーナ銘品館についてです。」


「ドワコが来たと聞いてその話だろうとは思ったよ」


「それなら話は早いです。何か情報をお持ちでないですか?」


「そうだな。店の権利書を奪われたと言う事は知っているな。どうもその裏である貴族が動いていたようだ。」


村長が有力な情報を持っているようだ。


「その貴族と言うと?」


「中級貴族のセコイゼーらしいが中々しっぽを掴むことが出来ん。」


「あー。前にボコボコにした貴族かな。恨み買っちゃったみたいですね。」


「知っている奴なんだな」


「そうですね。前にアリーナ銘品館に無理難題を吹っ掛けてきたので返り討ちにした記憶があります。」


「それで恨みを買った訳だな」


「おそらくお店を潰さないといけなくなると思いますけど、この村の名前が付いているのでちょっと手を出しにくいですね。」


「それは気にしなくても良いぞ。すでにこちらからは商品の出荷を止めておるしな。」


「わかりました。それでは遠慮なく潰しにかかります。」


「セコイゼーを懲らしめてやってくれ」


「わかりました」


話を終えて村長の屋敷を後にした。


「これから城下町に向かうけど、シアさんはどうしますか?」


「私も行きます。自分のお店は最後まで見届けないといけませんので。」


「わかりました。それでは城下町まで移動することにします。」


「それじゃ馬車の手配をしてこないと・・・」


「その必要は無いです。いったん村を出ましょう。」


シアを森の中に連れて行く。


「ドワコさんこんな森の中で何をする気ですか?」


ドワコはワイバーンを召喚した。


「あー。これ前にお城に飛来して大騒ぎになった魔物ですよね。ドワコさんの物だったんですか?」


「いえ・・・たぶんそれは違う方のです・・・」


(さすがにエリーのだとは言えないしなぁ)


「それじゃこれに乗って城下町まで移動します」


ドワコの後ろにシアが乗る。後頭部に何か柔らかい感触が・・・。そのまま飛び立つ。


「うわぁ飛んでる飛んでる」


「それじゃしっかりつかまっていてくださいね」


城下町の近くの森に降りて徒歩で城下町を目指す。


「ものすごく早く着くね。馬車だと3日かかるのに・・・」


「そのままお城に行くけど大丈夫?」


「おっお城ですか?」


急にお城に行くと言われシアが動揺する。


「無理そうなら他で時間を潰してもらうけど・・・」


「いえ、行きます」


シアは決心したようだ。

城の貴族用の入り口に行きいつもの衛兵さんと話をする。


「おっ嬢ちゃん。今日は違う別嬪さんを連れてるな。」


「でしょう?でもおじさんにはあげないよ?」


「こりゃ手厳しい」


「それじゃ中に入らせてもらいますね」


「はいどうぞ」


衛兵さんと軽く冗談を言いながら城の中に入った。とりあえず話の通しやすい王子様の部屋を目指す。

入り口の前で取次ぎをしてもらう。


「どうぞこちらへ」


扉を開けて中へ案内された。


「1カ月ぶりでしょうか王子様」


「ドワコよ、よく来てくれた。後ろの方はシアさんでしたよね?」


「失礼ですけど、お会いしたことがありましたでしょうか?」


シアの名前を王子様が知っている事に驚いた。

確かに会った事はあるけど、その時は女装してたでしょ・・・と突っ込みを入れたくなったドワコだった。


「おっ・・・そうだったな。お初にお目にかかります。」


王子様もその事に気が付き慌てて言い直す。


「それで今日の用は?」


「はい。アリーナ銘品館がとある貴族に乗っ取られまして・・・。」


「なんと。それは初耳だ。」


「そこで共同出資者のアリーナ村の領主様にも許可をいただき店を潰すことにしました」


「それで私に何かしてほしい訳だな?」


「はい。マルティ王国御用達の認可の取り下げをお願いします。」


「そうか、実質的な取引は無くても、元々は店を守るために認可したものだったからな。お守りが効かなかったのは残念だ。わかった。早急に手配しよう。」


「ありがとうございます」


「でも残念だな。国内では入手困難な品物を多数扱っていたと聞く。今後はどうするつもりだ?」


「このようになっている事を知ったのは、少し前なので具体的な方策はまだ決めていませんが、当面は私の領地に足を運んでもらえるようにジョディの村と、元々販売していたアリーナ村のみで販売して城下町では当面販売を自粛しようと思っています。」


「そうか。城下町での入手が出来ないのは残念だが、領地の活性化のために逆に利用する訳だな。」


「そうなります。それと認可の件はよろしくお願いします。」


王子様との話を終わらせて、用件が終わったのでドワコとシアは城を後にした。


「さて、家賃の取り立てにでも行こうかな。」


ドワコは次に貸店舗なので土地と建物の所有権を持っているドワコが反撃に出る事にした。家賃などについては契約書を交わしておらず、口約束で金額を決めていたので融通を聞かせる事が出来る。早速その足でアリーナ銘品館に行った。


「すみません」


「あっ、さっきのドワーフ。とっとと納品しろ。」


「残念ながら納品は出来なくなりました。今回は別件で来ています。」


「なんだと?」


ドワコと店に入った時に対応した柄の悪いおっさんとにらみ合った。


「ここの責任者をお願いします。家賃の支払いが未納になっていますので早急にお支払いください。」


「家賃ってここの建物はうちの所有のはずだが?なぜ家賃を払う必要がある?」


「いえ、この土地と建物は私の持ち物なので賃貸契約を結んで貸し出しているはずですよ?」


先ほど作った賃貸契約書を見せる。書式は合っているので正式な物となっている。


「残念ながら、契約不履行で今後の商品の出荷は出来ませんし、家賃が払えないようなら早急に退去してください。」


そして同じタイミングで城からの使いの者がやって来た。


「城からの通達である。ただ今の時をもってこの店に認可されていた御用達を解除する。以後は御用達の看板の掲出を禁止する。」


そう言って共に連れていた作業員に御用達の看板を外させた。


「ちょっと。待ってくれ。今責任者を呼んでくる。」


慌てて柄の悪そうなおっさんは店の奥へ入って行った。


「なんか私がいた時に働いていた人いなくなってるけど大丈夫かな」


ドワコの横にいたシアが言った。


「どうかな。単に辞めさせられただけならまだいいとしても、嫌がらせとか受けたとかだと許せないね。」


ドワコも感情を出さないように言った。

少し経ち、責任者と言う者が出てきた。ドワコとシアには面識がない人物だった。


「あなたは何か勘違いされていませんか?この建物はとある中級貴族様の所有する物件ですよ?」


「なるほど、セコイゼーですか。」


「こらっ、平民ごときが無礼な。セコイゼー様と言え!」


呆気なく尻尾を出した。責任者を名乗る人物。


「それと、城からの使者のお方。何かの手違いではありませんか?当店が御用達の認可取り消しになるようなことをしましたでしょうか?」


「残念ながらこれは王様からの通達である。私に言われてもどうする事も出来ない。」


そう言って城の使者の者は帰っていった。


「さて、御用達の認可も取り消されて、仕入れルートも潰され、どうしますか?」


「・・・。」


ドワコが責任者に対して問いただした。


「お前たち、何をしている。」


誰かが連絡をしたのかセコイゼーが店内へ入って来た。


「ここはワシの店だ。何を意味の分からいことで揉めてお・・・」


最後まで言おうとしてドワコとシアを見て固まった。


「セコイゼー。なかなか良い度胸しているな?」


ドワコが怒りを込めてセコイゼーに言った。


「シアさんに薬を飲ませて店を奪い取るとは許せない。」


「何を平民風情が言っておる?お前の持ち物だって?仮にそうだったとしてもワシが貴族特権で簡単に奪い取ってやるわ」


「これは私に対する敵対行為と取って良いのかな?」


「当たり前だ、平民の一人や二人ワシの力に掛かれば何とでもなる」


ドワコはひと暴れするつもりでいたが、思わぬ助っ人が来た。


「残念ですが・・・そうは行きません」


「何者だ?」


セコイゼーが振り返る。そこには10歳くらいの少女が立っていた。


「なんだ子供か」


「何だとは失礼です。私はこう見えても成長期なんですよ。」


「それと、ドワコさんとお姉ちゃんまた二人で楽しい事してるし、私も混ぜてくださいよぉ。」


入って来たのはエリーだった。


「そこの中級貴族、ドワコさんに対して失礼ですよ。」


「なんだと?」


「敵対するとの言葉をいただきましたので、国家反逆の罪で拘束させていただきます。」


エリーが合図すると第一騎士団の方々が店内に入って来た。


「嬢ちゃん。なかなか楽しそうな事してるじゃないか?」


第一騎士団隊長のバーグだ。


「バーグさんどうしてここに?」


「お前さん所の娘さんが国家反逆の現行犯捕まえに行きませんか?って誘ってくるから面白半分に来てみたら楽しいことになっててな。聞いてしまったのは仕方ないな。本来は警備兵の仕事だが・・・こいつらを拘束しろ。」


セコイゼーと店内にいた従業員全員が拘束された。そのままロープで引っ張られて城に連れていかれた。


「それじゃたまには騎士団にも顔を出してくれな?」


そう言ってバーグは城に戻っていった。

改めて店内を見てみると、商品はほとんど置いてなく、棚のみとなっている。これで良くあれだけの人数を雇えたなとドワコは感心した。


「エリー。少し見ない間に立派になったね。」


シアがエリーを抱きしめた。


「お姉ちゃんも大変だったね。薬を飲ませるなんて本当に許せないんだから。」


「でも謎なのが、どうしてドワコさんに敵対すると国家反逆になるのかが不思議なんですけど。」


「それはですね。ドワコさんがある役職に就いていて、その役職の者に敵対した場合、国家に背く行為となるくらいの権限があるんですよ。まあ本来はドワコさんが申告しないと罪に問われないんですけどね?そうでないと、私なんてすでにこの世に居ませんからへへっ。」


自虐的に笑いながらエリーが言った。確かに言われると前に色々されたような記憶が・・・。


こうしてアリーナ銘品館の乗っ取り事件も解決したわけだが、その損害も大きくアリーナ銘品館は閉店することになった。幸いなことに売上金などは乗っ取られる前にたまたま別の所に移動させていたために無事だった。シアはその資金を元に新たな商売を始めるのだろうとドワコは思った。



そしてセコイゼーは何かしらの処罰を受けたようだが、その後どのようになったかはわからない。

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