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50.避難民

ドワコは昨日届いた大量の物資の確認作業を行っていた。


あまりにも数が多いため、ケイト、カーレッタ、手の空いている兵士の総動員で作業を行っている。

デマリーゼと顔を合わせるとトラブルが起きそうな気がしたので、エリーは謹慎という形で自室で待機してもらっている。


あり得ない量の食料品以外にも、毛布やサイズがバラバラの衣服、薪、食器などまである。何故か武器や防具も入っているが、弓が少し多めと矢が大量に入っている以外は、この砦で必要な人数分しか入っていない。しかもこれはアリーナ銘品館で販売している新品の武器と防具だ。辺境の砦なので兵士の装備はあまり良い物ではない。これはすぐに兵士達に配り使ってもらう事にした。


食料や毛布、衣類などを種類別に分けて置いていく。

なんとか分別も終わり、作業に入っていた人たちは休憩をしていた。


「これだけ物資があれば戦争が起こっても、しばらく耐えられそうですね。」


カーレッタが冗談ぽっく言った。その言葉を聞いてドワコは思った。

もし、これがエリーが誤発注ではなく意図的に大量に物資を発注していたとすると・・・。エリーはこの先、何か起こると予想しているのでは?という考えが出てきた。


ちょうどその頃、見張りの兵士が駆け込んで来た。


「大変です。ジョデイの村から火の手が上がっているようです。」


「「「なんだって」」」


ドワコ達はあわてて城壁に上がりジョデイの村がある方角を見た。

火の手は一箇所だけでなく複数個所で上がっているようだ。煙が村全体から出ているのではないかと思えるくらい沢山の煙が上がっている。


「火事でしょうか?」


ケイトがドワコに聞いてきた。


「ここで見るだけだとわかりませんね。火事かそれとも・・・。」


一番近い村でも他国になる。こちらの砦から偵察のための兵を動かすと武力侵攻と取られる恐れがある。今の時点では城壁からは目視で確認するしかなさそうだ。


「念のために今の時間より警戒体制とする。各自、装備品を準備しておいて下さい。」


ドワコがいつでも動けるように部下たちに指示を出した。その指示を受け兵士たちがあわただしく動き出した。


新しい防具と武器を装備した見張りを除いた兵士達とデマリーゼ、カレン、ベラ、ケイト、カーレッタが城壁に集まっている。


「知っての通りジョデイの村で何かが起こっているようです。あちらの国内の問題ですので今の所は様子を見ている状態です。ただの火災なら良いのですが・・・他の要因の場合は砦としての行動を起こさないといけなくなるかもしれません。現状が把握できるまで総員待機とします。」


「「「了解しました」」」


ドワコたちは城壁の上で様子をうかがっていたが、今度は隣の砦の様子がおかしくなってきた。どうやら戦闘が行われているようだ。その様子を見ていた者たちに緊張が走った。


「一体何処の軍が攻めて来たのでしょうか?私たちの国では無いはずですけど、周りの国は同じ諸国連合なので外敵はいないはずですけど。内戦でしょうか?」


カーレッタが言った。


確かに敵対している所がない以上、内戦の可能性もある。ただ、砦を囲んでいる人の大きさがおかしい。小さいのもいれば大きいのもいる。まさか・・・」


「魔物ですね。他にもいそうですが、ゴブリンとオークを確認できました。」


ケイトが確信したように言った。


「魔物ですって!」


デマリーゼが叫んだ。

その時、向こうの砦からこちらの砦に向かって馬に乗った1人の兵士が向かってくるのが見えた。伝令かもしれない。


「こちらはムリン国、西の砦からの伝令だ。マルティ王国、東の砦の隊長へ面会を求める。」


砦の門で伝令の兵士が叫んだ。まだ、門は開いたままなのでそのまま入って来れば良いのにとドワコは思ったが、口にはしなかった。


「それじゃ。ここまで案内をお願いします。」


ドワコは兵士の1人に伝令の兵士を連れて来るようにお願した。

少し経ち、伝令を連れた兵士が戻ってきた。


「連れてきました」


「ごくろうさま」


「お忙しい申し訳ありません。西の砦の責任者ライモンド様の命により伝令に参りました。お目通りいただき感謝します。」


「それでご用件は?」


デマリーゼが高圧的な態度で伝令に向かい問いただした。


「はっ。ただいま我々の砦は多数の魔物の攻撃を受けております。幸いジョデイの村に魔物の軍勢が到着する前に情報が入ったために村の住民は砦に避難を完了しております。また、その前に我が国の城と隣接する町が魔物の軍勢に襲われたようで壊滅。一部の住民を連れ撤退した部隊が砦に合流し共に守備を固めている状態です。」


伝令が状況を報告している。やはり魔物との戦闘が行われているようだ。


「私が砦を出までの情報になりますが、敵の数はおよそ2000、こちらの守備は砦の守備隊が約10名、撤退してきた部隊が約100名です。」


「2000ですって?」


デマリーゼが驚きの声を上げた。この砦の守備も非戦闘員のエリーを除くと16名しかいない。どう考えても勝てる勝負ではない。


「現在、村、町から逃げてきた避難民がおよそ300人います。その人たちをこの砦で保護してもらいたい。と、ライモンド様からの伝言です。また、可能ならば我が軍も撤退させてほしいとの事です。」


確かにあちらの簡易的な砦に比べ、こちらは昔に建てられた戦いを意識して作られた強固な砦だ。この砦はその思想で建てられている為に無駄に広く現行の守備隊では守るのは厳しい。だが、ムリン国軍を加えれば守備が可能な人数になる。このまま行けば魔物の軍勢はマルティ王国へと侵攻する恐れもある。それは断固として阻止しなければならない。避難民の収容を行うのは当然で、答えは出ているようだ。


「私がこの砦の隊長を任されていドワコと言います。申し出の件、承知しました。避難民の収容、兵の収容共にお引き受けします。」


「感謝します。我々の砦はいつでも放棄できるように準備してあります。受け入れの方をよろしくお願いします。」


伝令の兵士が自分の砦に向かい合図を送った。門が開き護衛をする兵士が取り囲む中、避難民が移動を開始した。ただ、護衛をしている兵士が魔物との戦闘をしながら道を切り引いている為にその歩みは遅い。


「それでは城壁の護衛を残し避難民の収容に向かいます。あと城に伝令を。」


一人でも戦力は残しておきたいが、城に対し伝令を出さなければ魔物の軍勢がここを突破した場合、対応が遅れてしまうのは命取りになる。


「私が行きます」


そう返事をしたのはエリーだった。


「ドワコさんを除けば私が一番早く城に行くことができます」


「一番早くって何を根拠にそんなことが言えるの?あなた謹慎中ではなくて?」


デマリーゼがエリーに対して言うがエリーが言い返す。


「有事の際にそんな事言っていると死ぬよ?」


「・・・」


エリーの迫力に圧倒されデマリーゼが黙ってしまった。


確かにワイバーンを使えば他の兵士たちより圧倒的に早く現状を城に伝えることができる。ただ、そのあとのエリーが村人としては生きて行けなくなるという心配もある。だが、今回は多くの命がかかっている。そこまで気にできるほどの余裕がない。


「わかった。それじゃエリーお願い。それと、ここは戦場になるから城の伝令の任務が終わったら私の家で待機してください。」


「わかりました。私がお助け出来るのは、ここまでのようです。どうか命は大事にしてください。」


ドワコを抱きしめてクンカクンカと匂いを嗅いでから離れた。

そしてエリーが広場に行ってワイバーンを召喚した。


「ワイバーンだと?」


「なんだこの大きい魔物は」


「味方なのか?」


砦にいた者が突然現れたワイバーンに驚く。

エリーはワイバーンに乗って飛び立っていった。


「なに?エリーちゃん闇属性魔法使えたの?」


魔法の心得があるカーレッタは、闇魔法が使える者はこの国にはいないと言う事を知っている。信じられないような様子で小さくなっていくワイバーンを見て言った。


エリーを見送ったドワコは行動に移ることにした。


「それでは、ケイト、カーレッタ、と他4名は城壁にて砦の守りと門の開閉をお願い。残りの者はデマリーゼ、カレン、ベラにそれぞれ兵士2人を付け3人を一組にして行動。計3班を作り、砦へ移動して来る避難民の誘導と護衛をお願い。私は先行して単独で突入して殿を務めます。城壁の防御はケイト、誘導と護衛はデマリーゼの指示に従うように。」


「「「了解しました」」」


それぞれに指示を出し、配置に着いた。


ドワコは広場でワイバーンを召喚した。

さすがに2匹目なので驚きは少なかったが、多少の動揺は見られた。


「エリーちゃんだけでなくドワコ様まで・・・あの人達って一体何者?」


カーレッタの呟きが聞こえたが返事をする時間も惜しいので、ドワコはワイバーンに乗り隣の砦を目指した。


デマリーゼとカレンとベラは馬に騎乗しているが、兵士たちは徒歩での移動となる。遅い方に速力を合わせる以上、行軍速度は騎馬より遅くなる。むこうの砦まで500m程度しか離れていないのにもかかわらず、遠く感じる。


ドワコはワイバーンを操り少し上昇して戦況を確認した。

砦に取り付いている魔物は、ごく一部で半分以上は砦の後方、ジョディの村付近にいる。今ならまだ避難民を移動させることが出来そうだ。そのまま下降し砦の門付近に降り立った。


ワイバーンには最後尾付近を守るように指示し、少しでも時間が稼げるように配置した。

ワイバーンを見たムリン国の人たちは驚いていたが、ドワコが乗っているのを見て味方だと判断してくれたらしい。降り立った所にライモンドがやって来た。


「隊長殿、ご協力感謝します。」


「いえ、困ったときはお互い様なので・・・。こちらの受け入れ準備は出来ています。案内役の者は配置してありますので安心して当方の砦まで進んでください。殿は私がします。」


「隊長殿自らとは感謝します」


双方軽く挨拶をすると、ライモンドは部隊の指揮に、ドワコは敵を引き付けるために魔物の群れに突入していった。


一発目に「ファイア」、「ウィンド」の複合魔法を範囲一杯に展開させ魔物を削る。魔法書を収納しカタナを装備して手当たり次第に魔物を切り裂いていく。この一連の動作で魔物が50体程度消えた。


ドワコの動きにムリン国兵士が驚く。


「なんだこのありえない強さは」


「マルティ王国の辺境砦の隊長くらいでもこれほどの人材なのか」


兵士たちが騒めくがライモンドが大声で言う。


「マルティ王国が加勢してくれている。今のうちに砦を目指すぞ!」


「「「おー!!」」」


兵士たちの士気が高揚したようだ。最後尾がムリン国の砦を出たのでドワコは最後尾に着く。その間も迫ってくる魔物をバッサバッサと切り捨てていく。最後尾はマルティ王国との境界を抜け、合流したデマリーゼたちが護衛に入った。


「そのまま進んでください」


デマリーゼが避難民たちを誘導している。まだこの辺りまでは魔物も来ていないので、マルティ王国側は境界付近に布陣したままで避難民たちを先に進ませている。


今の所、相手はゴブリンばかりなのでそれなりの訓練を積んだムリン国の兵士でも十分対応できている。ところがゴブリンより大きいオークが混じって来るようになると部隊が劣勢に立ち始めてきた。


極力オークの対処はドワコがやっているが数が多すぎて打ち漏らしが出てくる。ムリン国の兵士がバタバタと倒され始めた。


「怪我人を収容・・・砦に急がせろ」


ドワコもオークの対処が手いっぱいで回復まで手が回せない。


「させませんわ」


オークに襲われた避難民との間に割り込みデマリーゼが剣をふるった。だが、力差がありすぎてデマリーゼの剣はオークの持つ棍棒に弾き飛ばされた。


「きゃっ」


デマリーゼにトドメを刺そうとしたオークが倒れる。


「「ご無事ですか」」


デマリーゼに付いていた兵士2人がオークを倒してデマリーゼを助け出した。


「たすかりましたわ」


デマリーゼは予備の剣を出し次の魔物を求めて移動した。



避難民の先頭の方が砦に到着したようだ。続々と砦の中に入って行く。


ワイバーンが炎を吐きゴブリンを牽制している。だがオークに一撃を食らい倒れた。これ以上出しておくのは厳しいと判断しワイバーンを戻した。そこにカレンとベラが兵士を連れてワイバーンのいた辺を守り出した。カレンとベラは苦戦しているようだが、連れている兵士が善戦しているおかげで戦線を維持している。そこにデマリーゼの部隊が加わりマルティ王国軍は一ヵ所に集まっている状態となった。


避難民の半分くらいが砦に入った。だが戦線も後退していて魔物の集団はすでにマルティ王国の国境を越えて入ってきている。砦より支援の弓矢が飛んでくるようになった。先に合流したムリン国の兵士も城壁に上がり支援攻撃に参加しているようだ。


「デマリーゼ様、前に出過ぎですお下がりください。」


兵士が制止するが聞こえなかったようでデマリーゼが孤立した。オークの攻撃が馬に当たりデマリーゼは落馬した。


デマリーゼは複数のオークに囲まれガタガタと震えている。恐怖のあまり失禁したようだ。諦めかけたその時に、ドワコが割って入り囲んでいたオークを一瞬にして切り捨てた。


「デマリーゼ大丈夫?」


「はっ、はいっありがとうございます。」


「それじゃそのまま後退してくれ」


ドワコが迫りくるゴブリンとオークを切り捨て自分の体を盾にして守りながら仲間たちのいる場所まで後退する。


「「デマリーゼ様」」


カレンとベラが駆け寄った。


「もうすぐで避難民の最後尾が砦の中に入る。みんな一緒に入って門を閉めて守りを固めてくれ。私はここで敵を食い止める。これは命令だ。早くしなさい。」


ドワコが最後の命令をする。


「「「「はい」」」」


言いたい事がありそうだったが命令と聞き皆は仕方なく了承する。

ドワコだけが門の前に陣取り敵を切り捨てていく。

そしてその間に門が閉められ避難民と護衛に出ていたデマリーゼたちの収容が終わった。


「さて、どこまでやれるかな・・・。」


このような状態では魔法は詠唱が無い下級魔法しか使えない。それを考えた戦いをしなければならない。

多人数を相手にできるようにカタナを収納し、鉄のハンマーを取り出した。手当たり次第に魔物を殴り倒す。城壁の上からはドワコの支援になるようにケイトの指示で矢が飛んできている。


あれからどれくらい経ったかドワコにはわからなくなっていた。相当数の魔物を倒した気だけはする。一瞬の隙をついて魔法書に持ち替え「ヒール」をかける。そして鉄のハンマーに持ち替え魔物を粉砕していく。正直疲労がかなり溜まっている気がする。ふと周りを見ると範囲攻撃魔法が掛けられたようだ。周りの敵が少なくなっていた。そしてドワコの体が宙に浮いた。


「なっ」


「もう。ドワコさん無理しすぎですよぉ。」


ご立腹のエリーの声がした。何かに掴まれて宙に浮いているようだ。そのままの状態で城壁の上に下ろされた。そして掴んでいた物の正体を確認した。エリーが乗ったワイバーンだった。

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