47.エリーの日常
今回はエリー視点でのお話です。
昨日、夢を見た。
メルディスと名乗るエルフ女がドワコさんに喧嘩を仕掛ける夢。
今日、夢を見た。
今日起こる事、そしてあの日の出来事を・・・。
あの日の出来事は今までに何度か夢で見ている。でもその先の出来事の夢は見たことが無い。
ドワコさんと初めて会った日も夢を見た。本当はあの日の予定は家の手伝いをするはずだった。でも、夢の事が気になり、無理を言って森へ山菜取りに出かけた。当時の夢の内容はおぼろげな内容だったが、森へ行かなければならないような気がした。そしてドワコさんに出会った。
それ以降もドワコさんが関係する出来事については夢を通じてある程度、先がわかるようになってきた。初めの頃は不明瞭なところが多かったが、日か経つにつれ細かいところまで見えてくるようになった。だが、あの日以降の事は全く見えてこない。それが不安だ。あの日はそんなに遠くない時に起こる事はわかっている。その後の自分の身の振り方を何度も考える・・・。
夢の中で考えても仕方ないので意識を覚醒する。
今はドワコさんのベッドに潜り込んでいる。もう日課になっているのでドワコさんも気にしていないようだ。密着してドワコさんのぬくもりと甘いにおいを楽しむ。もうドワコさん無しでは生きて行けなくなっている自分が少し怖い。
ドワコさんが起きそうな感じだったので慌てて離れる。そして目を覚ました。
「おはよ。エリー。」
「おはようございます。ドワコさん。」
最近は日常の光景となった朝の挨拶で一日が始まる。
ドワコさんの朝の支度を手伝い、すぐに食堂へ移動する。食堂では当番の兵士が朝食の用意をしている。
「おはようございます」
「おはよう。エリーさん。」
この砦に来て程なくして朝食の用意を手伝うようになった。ドワコさんは少し濃いめの味付けが好きなので、好みに合わせるために調整できるようにと手伝いを始めた。その味付けは兵士たちにも受け入れられ、今では楽しみの1つになっているようだ。支度を終えたところで、昨日この砦に来たエルフの女性メルディスの部屋に行く。
そっと部屋に入り寝顔を拝見する。均整の取れた顔に長い耳と銀色の長い髪、そして男なら誰でも見てしまうようなスタイル・・・なのだが、毛布を抱き枕のように抱えてよだれを垂らして寝ている光景を見ると残念すぎる感じがする。
「もしもーし。朝ですよぉ?」
つついてみるが起きる気配が無い。エリーは長くぴんと張った耳元に息を吹きかけた。
「ひゃっ」
メルディスは何が起きたのかと飛び起きた。
「おはよう」
「おっ、おはようございます。エリー様。」
「そろそろご飯だから支度してね」
「はい。起しに来てくれてありがとうございます。」
「それじゃまた後で」
エリーはそう告げてドワコのいる部屋に戻った。
「ドワコさんそろそろ朝ご飯お時間です」
「そっか。いつもありがとう。」
ドワコのその言葉を聞くだけでエリーは幸せな気持ちになる。
(今日も一日がんばろっと)
朝食を終え、ドワコさんは出入国カウンターの様子を見に行っている。今日の担当はケイトが行っている。彼女はあまりしゃべらないので、未だに親しい交流が出来ていない。だが、あの日までには何とかしないといけないと思っている。これは今の課題となっている。
そして私はと言うと、カーレッタと一緒に魔法の訓練をしている。今の所、水属性の下級魔法、闇属性の中級魔法まで使用できるが、もう少しスキルアップしたいと考えていた。闇属性については色々とあるようなので、今の所、使えることはドワコさん以外は知らないので、今回の目的は水属性魔法の強化が課題となる。それと、ついでにメルディスも連れてきている。彼女は火、水、風、土の4属性の下級魔法が使える。エルフは元々魔力が高く中級魔法クラスなら普通に使えるらしい。が、メルディスは下級魔法止まりだ。そのためにエルフの村では居心地が悪くなり村を出たようだ。
「カーレッタ様はどのような魔法が使えるのですか?」
エリーがカーレッタに尋ねる。ドワコさんが絡んでいない事については夢による先読みが出来ないので尋ねなければならない。ここは少し不便だなとエリーは思った。
「私はですね。火属性の下級魔法と風属性の中級魔法が使えます。魔法能力が家の中で一番高くて、妾の子である私はそれを疎まれて、この砦に放り込まれてしまったんですけどね。」
そんなところまで聞いていないのに自分の家庭環境まで話すカーレッタ。だが、今後の為にもカーレッタとは交流を深めて仲良くしておかなければならない。比較的、この砦に来た時から仲良くやっているので、そこは心配していない。
「えーっとこの方は、ドワコ様の奴隷の方・・・でしたっけ?」
一緒に連れて来たメルディスを見て聞いてきた。
「はい、ご主人様とエリー様の奴隷のメルディスです。よろしくお願いします。」
「エルフの方は初めてだったので昨日見た時はびっくりしました。カーレッタですよろしくね。」
「一応言って置きますけど、自称奴隷ですから・・・」
エリーが補足で付け加える。奴隷同然の扱いを受けている者はいるが、他国では奴隷制度が存在している所もあるが、基本的にマルティ王国では奴隷制度と言う物が存在しない。なので自称と言う言葉を使う。ドワコさん自体、元から奴隷にするつもりが無さそうなのでメルディスの思いも組んでそういう事にしておく。
「それじゃ今日も魔法の練習を始めましょう」
カーレッタがそう言うとエリーも気持ちを切り替えた。
基本的にやる練習は少し離れた的に攻撃魔法を当てると言う物だ。
「メルディスさんはどれくらい魔法が使えますか?」
カーレッタがメルディスに尋ねた。
「火、水、風、土の下級魔法が使えます。」
「基本属性全部使えるんですねうらやましい」
魔法攻撃を行う場合は使える属性が多くなる程、有利になる。それは同属性魔法は続けて打つことが出来ず、その再使用できるまでの時間を埋める形で他の属性の魔法を使い、攻撃を絶やさないようにできる。中級魔法が1つ使える人と下級魔法が複数使える人とでは後者の方が魔法のみを使う戦闘では有利になる場合が多い。
エリーの場合、攻撃で使用できるのは水属性だけなので一度使用してしまうと、次に魔法が使用できるまで時間が空いてしまう。剣などの戦闘能力は全く無いので、それが命取りになる。
カーレッタが『ファイア』、『ウィンド』を詠唱し的に当て、続けてエリーが『ウォーター』を発動して的に当てる。その後にメルディスが『ファイア』、『ウォーター』、『ウィンド』、『ストーン』を続けて詠唱し的に当てる。これを繰り返し訓練をしていった。
「先ほどから見ていたのですが、エリーさんの魔法は詠唱の言葉が無いんですね。それと魔法書が私が今まで見たものと違いますね。」
「そうですね。下級魔法は魔法名を言うだけで発動されます。この魔法書は新品なので・・・発動方法が若干異なったり違って見えるのかも?」
カーレッタの質問を受け、エリーが自分の魔法書を見せる。少し古びた魔法書を持つカーレッタとメルディスと違いエリーの魔法書は綺麗でほとんど汚れなども無い。
「「新品の魔法書?」」
2人が驚く。それもそのはずである。魔法書の製造技術はすでに失われているはずだ。今入手できるのは、代々受け継いだ物、商人などを通じて購入した物、魔物が落としていった物など入手手段が限られている。その為に魔法が使える人は極端に少ない。各国はそう言う事情から魔法が使える者を優遇し囲い込もうとする。
「魔法書が製造できるとなると、魔術師を取り巻く環境が大きく変わってしまいますね」
魔法が使える者が増えれば当然、優遇されたものが無くなると言うのが目に見えてわかる。これ以上聞かないほうが良いとカーレッタは思った。
(まあドワコさんの作る魔法書は、読める人がいないので入手できても使いこなせるかは別なんですけどね・・・)
昼食後、広場に移動し兵士の訓練にドワコさんと参加している。
ドワコさんの厳しい訓練により兵士たちの能力は超人的に向上した。今ではドワコさんに吹っ飛ばされ壁に叩きつけられても立ち上がってくる者もいるくらいだ。エリーも最初の頃に比べ、気絶した兵士を叩き起こすために用意するバケツの数をかなり減らした。
それでも怪我人は毎回出る。その度にドワコさんが回復魔法で治療を行う。
そして夕食の用意をしている兵士を手伝い、ドワコさん、ケイト、カーレッタ、メルディスと見張りを除いた兵士のみんなで夕食を取る。相変わらずドワコさんの周りには兵士たちが集まっている。交流の場も大事なので私は輪の中には入らず、残った者と一緒に少し離れた所にいる。デマリーゼとカレンとベラは貴族のプライドがあるようで平民との食事には顔を出さない。と言うより同じ砦にいるはずなのに姿も滅多に見かけないような気がする。今の所、この3人とはまだ交流をする必要が無いので、こちらから行動することは無い。
夕食を終えて、入浴を済ませる。ドワコさんと一緒に入り体を洗ってあげるのも日課になっている。そして同じベッドに入り一緒に寝る事で一日が終わる。
明日も頑張らないとね。
次回からはドワコ視点のお話に戻ります。




