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44.兵士の訓練

砦の業務は、隣国を監視し、必要があれば外敵が自国へ侵入するのを阻止する役目と、入国、出国の手続きを行う業務を行っている。


今日はケイトが出入国の業務をしている。業務を行う場所は入り口付近に設けられ、待合所と受付用の窓口があるだけの簡易的なものになっている。マルティ王国から出国するときはここで出国の手続きを行い、マルティ王国の砦と隣のムリン国の砦を繋ぐ一本道を通り、ムリン国の砦で入国手続きを行いムリン国へと入る。マルティ王国へ入国するときはその逆になる。比較的に両国の関係は良好なので審査も甘いようだ。ちなみに一本道を通らなかった場合は、砦から兵士が出動し状況確認を行わなければならないそうだ。


この砦は主に使われる流通のルートから外れているため、稀に商人や冒険者が通るくらいだそうだ。先程からケイトの仕事ぶりを見ているドワコだが、窓口に座って持ち込んだ本を読んでいる。・・・暇そうだ。これは下級貴族の仕事らしく順番で回ってくるそうだ。ドワコは上級貴族なので、この仕事は回ってこないが、業務内容を知る意味で見学している。エリーは食堂で手伝いをしているので、今はドワコとケイトの二人きりだ。


何か話しかけようと思ったけど、読書をの邪魔をしては悪いかなと思いやめておいた。

結局、ドワコが見ている間は誰も手続きに訪れることもなく昼食の時間となってしまった。


昼食後、ドワコはエリーを連れて広場に行った。そこでは兵士たちが剣の訓練を行っていた。


「みなさん。ご苦労様です。」


ドワコが話しかけると、兵士たちが手を止めて敬礼をした。


「楽にしてください。しばらく見学させていただきますので、気にせず訓練を続けてください。」


「「「はっ」」」


と、ドワコが兵士たちに伝え訓練を再開した。


「えい」


「やあ」


模擬戦をやっているようだが、動きが鈍い。


「ちょっと良いですか?」


ドワコが練習を止める。


「いかがされましたか?」


兵士の一人がドワコに聞いた。


「皆さん動きが鈍いように感じますが、指導する方とかはいませんか?」


「我々は入隊した時に簡単な訓練を受けただけで、その後は特に何も受けていません。ここにいる上司である貴族様はそういう経験が無いようで指導を受けたこともありません。」


「それじゃ。私が稽古をつける事にします。」


「隊長が・・・ですか?」


「昨日見た人もいたと思いますけど・・・胸は無いけど、胸は貸しますよ。」


兵士たちが視線を外し笑いをこらえている。


「冗談は置いておいて、早速始めちゃいましょう。」


「そう言うと思って持ってきました」


エリーが訓練用の木刀を持ってきた。


「さすがエリー。気が利くね。」


「それほどでも・・・ありますよ?」


ご機嫌なエリーだった。


「それじゃ、一人ずつ私に打ち込んできなさい。訓練なので遠慮はいりません。本気で来てください。」


最初の兵士とドワコが木刀を構えた。


「はじめ」


エリーが合図をすると兵士が木刀を打ち込んできた。


「あまいっ」


ドワコは軽く受け流した。


「どんどん来なさいな」


「はっ。やっ。とう。」


兵士が何度も攻撃を入れるが、ドワコはすべて受け止める。


「あーこれは・・・6人全員でかかってきなさい」


いつの間にかエリーに木刀を渡されていた他の5人も攻撃に加わった。

カン・カン・カン・・・と心地よい木の当たる音がする。

ドワコはすべての攻撃を受け止めたり避けたりして、1発も攻撃を受けていない。


「連携が取れてませんよ。こんな攻撃では当たりません。」


スタミナが切れ、兵士たちが次々に倒れていく。その間、ドワコは一切攻撃をしていない。


「それじゃ少し休憩にします」


ドワコがそう言うとエリーが水の入ったコップを兵士に配った。


「どうですか?これからも一緒に訓練してみますか?」


「「「はい。隊長。」」」


兵士たちは疲れていたが、今までのまともに戦えないような飾りで来た貴族たちとは違う、自分たちを引っ張ってくれる本当の意味での隊長が来たと実感し喜んでいた。



その光景を少し離れた場所で見ていた人物がいた。


「あのドワーフ娘、気に入りませんわ。」


そう言い残すと取り巻きの2人を連れてどこかに消えていった。



夕食は平民も貴族も同じ場所で取るようになっている。

ドワコの周りには兵士たちが集まっている。

昨晩の件が効いたようで、兵士たちの緊張はかなり和らいでいるように見える。


「隊長って冒険者やってるんですか?ランクはどうなんですか?」


「今、銀ランクかな」


ドワコが答えた。別に隠す事でもないしね。


「銀と言えば中堅クラスですね。自分は前にギルドカード作ったんですけど銅止まりなんですよ。」


「ムッフー。私も銀ですよ。」


エリーもさり気なく銀ランクだとアピールしている。まあ本当の事だけど。


「エリーさんも銀ランクの冒険者なんですか。すごいですね。」


「そう言えば隣の砦から少し行った所に村があって、そこはダンジョンで栄えた村なんですよ。もちろん冒険者ギルドもありますよ。」


1人の兵士が言った。


「今度の休みにでも見に行ってみようかな?」


「それじゃ私も付いていきます」


ドワコが次の休みの事を言うとエリーも付いていくと言っている。


「最近は訪れる冒険者も減ってダンジョンは閑散としているらしいですよ」


兵士が言うにはかなり廃れているようだ。

とりあえず暇つぶしに見に行く事にして、危険だったら途中でやめればいいとドワコは思った。


すこし離れた場所でケイトとカーレッタは様子を見ている。デマリーゼとカレンとベラの姿は相変わらず見えない。



就寝時間になったのでエリーにお休みの挨拶をして寝る事にした。・・・がモゾモゾとベッドに誰か入って来た。


「うひゃ」


ドワコは思わず声を上げた。


「来ちゃいました。昨日はドワコさんを兵士の皆さんに譲りましたけど今日からは私の番です。」


エリーが入って来た。結局一緒に寝る事になった。

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