38.城下町の武器屋
ドワコは王妃から解放され、その足で城下町にある自分の家に戻った。
「お帰りなさいませ。お嬢様。」
「「おかえりなさいませ」」
セバスチャン、ジェーン、ジェシーの3人の使用人が出迎えてくれた。一カ月ぶりに帰って来たと言う気持ちになる。
「長い間、家を空けてしまってごめんなさい。変わりはありませんでしたか?」
長期間不在にしたことをドワコが詫びを入れる。
「特に変わりはございません。エリーより人脈を作るために、一カ月くらい戻ってこないと思いますが、心配しないで通常の業務を遂行してください。との手紙をいただいておりましたので特に心配はしておりませんでした。」
セバスチャンがそう言った。アリーナ村でサムズアップをして見送ったエリーの事を思い出す。こうなる事を予想していたのでは?と思うくらい先々まで見えているのではないかと考えてしまう。
とりあえず今日は色々あったので休むことにする。ここ一カ月、王妃様と一緒に寝ていたので一人で寝られるか心配だったけどいつの間にか眠っていた。
翌朝、朝食を済ませ、下の階にある『アリーナ銘品館』に顔を出す。
「ドワコさん久しぶり~。人脈作りの旅に出てたんだって?いい人と巡り会えた?」
「・・・まあね」
(さすがに王族と知り合いになりました・・・なんて言えないよね)
いつの間にか従業員も増え、お店として機能しているように見える。
「いつの間にか従業員増えたんだね」
「そうだね。さすがに私ひとりじゃこの店回すのは無理だってわかったよ。」
ざっと見た感じでは店内に10人程度の授業員がいる。裏方を含めればもう少し居そうな感じだ。
「私がいない間、商品の仕入れとか問題起きなかった?」
「ドワーフの集落の方も良くしてくれて仕入れは問題なくできてるよ。今は専門の買い付けをする人に任せているけどね。」
「あと、忙しいところ申し訳ないけど、ドワコさんにひとつお願いがあるんだけど・・・」
「どんなお願い?」
「今度、武器屋組合の会合があって各店から2名ずつ出席しないといけないんだって。私は出るけど、ドワコさんも出てくれると嬉しいな。」
一応ドワコは『アリーナ銘品館』の店舗を貸している大家と言う事になっている。賃貸料だけでは申し訳ないと言うシアの申し出で、売り上げの一部をドワコに収めている。この店自体の売り上げがかなりあるため、ドワコも個人資産だけでもかなりのお金持ちになっている。そう言う訳で中々断る事も出来ない。
「わかったよ。商売については専門外だから役に立てるかはわからないけどね。」
「ありがとう。ドワコさんがいれば心強いよ。」
そして武器屋組合の会合が行われる日となった。
「ドワコさん今日はよろしくね」
「はい。それでどこで会合があるの?」
「中級貴族のセコイゼー様の屋敷だって」
「んー。貴族様と聞いて、なんか嫌な予感がする。」
「徒歩で行く?それとも馬車を手配する?」
「そんなに遠くないから徒歩で良いと思う」
高級商業地区に『アリーナ銘品館』はあり、貴族の居住区からも近いところにある。確かに歩いてもあまり時間はかからない。シアの言う通りにして徒歩でセコイゼー邸へ向かった。
セコイゼー邸に到着し、門番に取次ぎを頼み、中へと案内された。
「わたし中級貴族のお屋敷に入るのは初めて」
シアが物珍しそうに家の中を見回す。
「まあ私も中級貴族のお屋敷は初めてかな」
本人が知らないこともあり、実は自分が上級貴族の屋敷に住んでると言う認識はシアには無かった。まあ中級貴族の屋敷は・・・ないよね。
今日の会議が行われる広い部屋へと通される。先に何軒かの武器屋の主人と連れが席に座っていた。
しばらくすると全員がそろったようだ。マルティ城下町には武器屋と呼ばれる店が6軒ある。『アリーナ銘品館』を含めると武器を扱うお店は7軒になる。席順は新参者のシアとドワコが下の席となり、上の席が一つ空いている。おそらく中級貴族のセコイゼーの席だと思われる。
少し時間が経過したところで全員が席を立った。シアとドワコも合わせて立つことにした。すると扉が開き、貴族らしい服装をした男が入って来た。これがセコイゼーなんだろうと思う。
「この度は我々武器屋組合の集まりに場所をお貸しいただき誠にありがとうございます」
武器屋組合の代表者がセコイゼーに挨拶をする。
「まあ気にするな。皆の者ご苦労である。城下町にある武器屋が相互に協力し合いながら互いに利益を出せるように意見を出し合ってくれたまえ。」
セコイゼーが皆に向け挨拶をする。
「それでは会議に入ろうと思う」
司会役だと思われる武器屋の主人が話を切り出す。
「まず、今回よりこの組合に参加することとなった『アリーナ銘品館』の店主、挨拶を頼む。」
まあ、最初は新参者の紹介からだろうなとドワコは思った。
「皆様初めまして。ご紹介にあずかりました『アリーナ銘品館』の店主をしています。シアと申します。このお店はアリーナ村にある『武器と防具の店』の支店と言う扱いになっています。田舎から出てきて、まだまだ経験不足ではありますが、皆様どうぞよろしくお願いします。」
シアが挨拶をする。
「わざわざ田舎から出てこらんでもよかろうに・・・」
「田舎者は田舎者らしく殻に閉じこもって商売しておればいいのに・・・」
聞こえるか聞こえないかぐらいの声で話声が聞こえる。どうも好意的には受け入れられていないようだ。
「それでは挨拶も終わったところで議題に入るとしよう」
「まず、最初に1店舗を除き売り上げが減少している点だが・・・。今までは各店で中古品の武器を足並みをそろえ高値で売ることで利益を出していた。ところが、とある村で新品の武器を格安で売る不届きな店が出現し、その村にまで行って購入する顧客が出だし、客を奪われた。それまでは距離の利点があったが、さらにそこで儲けたお金を使いこの町にも支店を出してきおった。そして我々の客を根こそぎ奪われてしまった。これは由々しき事態である。」
(これってシアの店の事だよね?)
「さらにこの国には鍛冶屋が存在せず新品の武器を入手することが困難だったはずだ。しかし、その店はどこからともなく新品の武器を調達し、我々の販売する中古品の価格を下回る金額で販売している。」
「まずその入手経路を公開し、すべての店で公平に販売するべきだと考える。いかがかな?『アリーナ銘品館』の店主。」
「我々の店としましては、独自の生産ルートを確保して販売を行っています。また、これは契約により独占権が認められています。また、生産コスト、販売コストを含めて利益が十分出るような価格設定となっています。よって他の店との歩調を合わせて、高額で販売を行う事は出来ません。」
シアは要求に対してはっきりと拒否をする。
「なんと。生産から行っているとな?」
どこかから仕入れていた物だと思っていた店主たちは、生産から行っていたことを知り驚きの表情をしていた。
「そうです。私の店には専属の鍛冶職人たちが付いております。」
シアはチラッとドワコを見た。
「残念だが、その鍛冶職人たちは私が預かる事にしよう。そして公平に武器を生産させ、市場を安定させる。これは決定事項とする。そして私には稼いだお金の中から十分な上納金を収めてもらう。」
この話を聞いていたセコイゼーは強引に貴族特権を発動させ鍛冶職人を囲い込もうとする。
貴族特権を発動されては平民のシアでは話が出来なくなってしまう。
「どうしよう・・・ドワコさん」
「まあ、あとは私が引き受けるよ。任せて。」
公平な取引を望むだけなら譲歩する余地はあると考えていたドワコだったが、セコイゼーが上納金欲しさに貴族特権を発動させたことに怒りを覚えたドワコは反撃に移る。
「えっと、発言させてもらってよろしいですか?」
「どうぞ」
司会の許可を取りドワコが発言する。
「ありがとうございます。まず『アリーナ銘品館』に共同出資者がいる事はご存知ですよね?」
「それはどこの商人だ?」
セコイゼーが聞き返す。
「アリーナ村の領主様である上級貴族のジム様です。」
「なんと」
セコイゼーが貴族の自分より格上の共同出資者がいる事に驚く。
「それと、この城下町では唯一、マルティ王国御用達の認可を受けている武器を扱う店だとご存知ですか?」
「武器屋が御用達の許可を持っているだと?」
「ここまで言っても、まだ私たちの店に対し不利益になる事を押し付けると?」
ドワコはセコイゼーを追い詰めていく。
「だが、鍛冶職人たちは関係ないだろ。後ろ盾がいる以上、店の経営については口を出す気はない。」
鍛冶職人については確保が出来ると判断したセコイゼーは鍛冶職人だけでも囲い込もうとする。そこでドワコはトドメをさす。
「残念ながらその鍛冶職人たちが住む集落は、とある上級貴族様が管理権を行使できる場所となっています。『アリーナ銘品館』はその上級貴族様を通じての専属契約となっています。中級貴族様にどうこう言われる筋合いはないと思いますが?」
「なっ」
ドワコはハッキリと言い放った。事実を知ったセコイゼーは言葉を失った。
「ドワコさん、それって本当の事?」
「そうだよ。だから安心して大丈夫だよ。」
「ええぃ。こいつの言っている事は大嘘だ。捕まえて鍛冶職人の居場所を吐かせてやる。皆の者出合え、出会え。平民の分際で中級貴族である私に刃向かったと言う事で何とでもなるわー。」
半分自棄になったセコイゼーは言い放った。呼び出しに応じたセコイゼーの私兵たちがドタドタと部屋に入って来てドワコとシアを囲む。
「ここで引き下がれば不問にするけど、これ以上するなら容赦はしないよ。」
ドワコは愛用の鉄のハンマーを取り出し構える。
「シアさんは危ないから後ろに下がっていてね」
「お前たち、やってしまいなさい。」
セコイゼーの合図とともに大乱闘が始まった。
シアを後ろに配置して守るようにドワコは陣取る。襲い掛かる私兵たちを鉄のハンマーで吹っ飛ばしていく。もちろん手加減はしている。勝負は呆気なくつき、倒された私兵と武器屋の主人たちが床に転がっている。残るはセコイゼーのみとなった。ドワコは床に思いっきり鉄のハンマーを叩きつけた。その衝撃でセコイゼーは気を失った。
「片付いたみたいだし、シアさん帰ろっか。」
「このまま放置しても大丈夫なのかな?」
「大丈夫、大丈夫。」
ドワコとシアは転がっている人を放置したまま、セコイゼー邸を後にして店に戻った。
後日、収益悪化で武器屋組合は解散し、城下町にある『アリーナ銘品館』以外の武器屋は店を閉めた。セコイゼーは簡単に自分が組織した私兵団が倒された事で、『アリーナ銘品館』の小さな用心棒(だと思っている)に恐怖し、しばらく屋敷から出てこなくなった。




