36.盗賊団
思った通りの展開になってしまった。
ドワコは盗賊団と遭遇するのではないかと内心思っていた。
「貴様ら、この馬車におられる方をわかって襲ってきたのか?」
護衛の騎士が盗賊団に向かい問いかける。
「知らねーな。少なくともお金を沢山持っている貴族様が中にいるのはわかるがな。けっけっけっけ。」
盗賊の一人が答える。話の内容からして意図的に聖女一行を襲ったのではなく、ただの物取りのようだ。
「捕まえて身代金いっぱい貰えるぜー。ヒャッハー!」
向こうはやる気満々のようだ。
「お嬢様どうしましょう・・・」
ジェーンとジェシーはこの先どうなるか不安になっている。ドワコもこの世界に来てから対人戦はやった事がないのでどうしようか対応を考えていた。場合によっては死人が出る可能性もある。・・・ただ長く考えられるほどの時間の余裕はない。大人しく拘束されてもメイド姉妹がどのような扱いを受けるかを考えると、拘束される訳にはいかない。戦うしかないという判断に至った。
「私が前に出ます。護衛の方は馬車の守りを守りをお願いします。おそく側面にも何人か隠れていると思いますので注意してください。」
ドワコは盗賊団に聞こえないように護衛騎士に用件を伝える。
何か作戦があるのだろうと護衛騎士の2人は頷く。
「御者さんはこれからも起こる事で馬が暴れないように気をつけてください」
「ジェーンとジェシーは馬車の中で大人しくしていてください。決して外には出ないように。」
ジェーンとジェシーが返事をする前にドワコはローブのフードをかぶり馬車から降りた。
馬車と盗賊団の間に入り告げた。
「私を聖女と知ってこの様な事をしたのか?そうでなければ立ち去るが良い。」
「おぅおぅ。聖女様だとよ。こりゃ大当たりだぜ。とっ捕まえて隣の国に売りつければ高く買ってくれそうだ。」
「引き下がってはくれないようですね」
「あっありまえだ。こんな金になる者を逃がすわけないだろ。」
「交渉決裂ですね。捕まえられるものならやってみなさい。」
「やろうども。かかれー」
盗賊たちが襲いかかる。ドワコに接近するまでの僅かな時間を使い馬車の前にワイバーンを召喚する。移動の際に必要になるため何度も召喚しているので、慣れたものでわずかな詠唱時間で発動できるようになった。
ほかの召還魔法は上級魔法だがこれは中級魔法になる。そのためワイバーンは召喚獣としてはあまり強くないが、大きいので牽制には使える。強くないと言っても召喚獣の中での比較であって、盗賊団では相手にならない。
「ワイバーンだと」
盗賊団も驚いているが護衛騎士も突然現れたワイバーンに驚いている。御者はドワコの指示を守り馬を落ちつかせようと頑張っている。
ワイバーンに馬車の護衛をするように指示をだす。魔法書をアイテムボックスに収容し、愛用の鉄のハンマーを取り出した。ワイバーンを配置したことで馬車を襲って人質を取るよりも聖女であるドワコを直接捕まえる方が得策と盗賊団に思わせる。
ワイバーンは馬車の左側の茂みに向かい尻尾を振り払った。茂みに隠れていた盗賊数人が吹っ飛ばされていった。即座に口から炎を出し盗賊に炎が降りかかる。護衛騎士の2人も盗賊を馬車に近づけさせないように奮戦する。
ドワコも愛用の鉄のハンマーを構える。この鉄のハンマーはゲーム時代から使用していた武器でドワコの身長くらいある大型の武器だ。重量もそれなりにあるが、木の棒を振り回すかのように軽々と扱っている。手始めに鉄のハンマーを振り払い3人まとめて吹っ飛ばす。本気でやるとミンチが出来上がるので手加減はしてある。そのまま盗賊の集団に入り、バッタバッタと吹っ飛ばして回る。聖女と言っても見た目が小さい女の子のように見えるため盗賊団は容易に捕まえることができると考えていた。ところが予想以上に聖女は強く、全く歯が立たず倒された盗賊の山ができていった。最後にリーダーと思われる盗賊が残った。ドワコとリーダーが対峙する。
「この化け物がー」
「化け物とは失礼ですね」
拘束するのは難しいと判断して、最初の3人が吹き飛ばされた時点で全員が武器を構えて襲い掛かっている。リーダーが剣を振り下ろしドワコに襲い掛かる。ドワコは剣を狙いハンマーをすくい上げるように振り上げた。ハンマーは剣に当たり刃先が折れ、そのまま2撃目でリーダーを吹き飛ばす。
戦闘が終わり、その場に倒れていた盗賊を全員を拘束した。盗賊団に重傷者は出ているが、幸い死者は出なかったようだ。こちら側は護衛の一人が軽い怪我をしただけで済んだ。
一ヵ所にまとめられた盗賊は全部で18人いた。怪我をした護衛の騎士を治療してから盗賊の尋問を行う事にした。
「聖女様を襲うとどうなるかお前たちはわかってやっているんだろうな?」
「・・・・・」
護衛騎士の問いかけに拘束された盗賊は答えられなかった。
脅して金品を奪うだけのつもりが、欲を出してしまい返り討ちにあってしまった。この先、裁きを受ける事を考えると恐怖で声が出なくなっていた。聖女を襲うと言う事は国に反逆するのに等しい行為になるからだ。
ドワコは「何かあったら使ってください」と丈夫な縄をエリーに持たされていた。その縄で盗賊手を縛り数珠繋ぎにしていった。このような状況になるのを予想していたかのような準備の良さに何とも言えない気持ちになった。
歩けるように盗賊団にエリアヒールをかけて回復させる。護衛騎士2人が先頭に立ち、盗賊団を2列に並ばせて城下町を目指し歩く。その後ろには返り血をあびて赤黒く染まったローブを着たドワコが付き監視の目を光らせた。ドワコの後ろにはメイド2人を乗せた馬車が付いている。本来ならばドワコは聖女なので馬車に乗るべきであるが、人数不足のため監視を買って出た。血で染まったローブを着ているドワコは邪神のような姿になっていて、別の意味で盗賊たちを恐怖で震え上がらせた。
特に抵抗されることもなく城下町前まで戻ってきた。途中で伝令に走らせた護衛騎士が衛兵の一団を連れて来て盗賊団を引き渡した。引き渡しの際に変わり果てた聖女様の姿を見て、「聖女様お怪我はございませんでしたか?」と声もかける事を忘れるくらい動揺した衛兵たちだった。
衛兵たちと別れドワコは馬車に乗り、聖女一行は城へ戻った。
後日談だが、盗賊団は隣の国から流れてきた者たちだった。アジトの場所を自供させ、討伐部隊が組織され盗賊団は壊滅した。




