30.メイド服を作ってみました
前半は別視点からの話になります。後半から戻ります。
少し時間をさかのぼり、前日、ドワコとセバスチャンが広場のベンチで話をしている頃、派遣会社では、担当の男性職員がドワコの家に派遣するメイドの選定作業を行っていた。
「えっと・・・次の依頼は・・・っと」
「商業地区アリーナ銘品館の上にある居住区域でのメイド業務。年齢不問、未経験者可、やる気のある人。募集人員2名、住み込み可。」
「ほうほう・・・やる気のある人なら誰でも良いって言う条件だな。勤務先が商業地区のアリーナ銘品館か・・・この前、開店したお店だな。評判は良くて、広い店舗を若い娘3人で回しているって聞いたな。おそらくお店の手伝いも含まれるんだろうな。」
この派遣会社は商人の家から下級、中級、上級貴族の家で働く使用人など、幅広く人材を紹介している。上のランクになるほど紹介料も上がり、利益率の問題で貴族向けに重点を置いているため、商人向けはあまり人材が豊富ではない。担当者がどうしようか考えていた所に面接をやって欲しいとの受付からの要請が来た。
入って来たのは集落から出て来たばかりだと言う姉妹だった。
「えっと働き口を探しているのかな?」
渡された経歴の書かれた紙を見ながら担当者は改めて姉妹に聞いた。
「はい。ここから少し離れた場所の集落で生活をしていましたが、両親が亡くなり、集落では収入も無く満足な暮らしが出来なくなりました。そこで妹と一緒に城下町に出て仕事を見つけようと思いました。そして、この派遣会社の事を教えていただいてここに来ました。」
姉の方がそう答える。なかなか苦労しているんだと担当者は思った。
「経験はありませんけど、メイドの仕事を紹介していただくと助かります。」
妹の方がお願いをしてくる。(何とかしてあげたいのは山々だけど・・・こんな条件で雇ってくれるところが・・・)と先ほど処理をしていた書類の事を思い出す。
「きみたち住む所はあるのかね?」
「「ありません」」
「そうか、やる気がある人なら年齢不問、未経験者可、住み込み可、募集人員2名・・・と言うピッタリな条件があるが行ってみるかね?」
「「ぜひお願いします」」
「それじゃ、明日の朝、この先の商業地区に『アリーナ銘品館』と言う店がある。そこへ行ってくれ。詳細については先方で聞いてくれ。それじゃこれ支度金だ。今晩はゆっくりと宿で休むといい。」
担当者は支度金を姉妹に渡す。
「「ありがとうございます」」
(これでこの依頼はOKだな)
担当者は仕事の1つが片付きホッとした。
本来なら、上級貴族へメイドを派遣する場合は、貴族出身の者か、それ相応の知識と技能を有したメイド経験者を派遣しなければならなかった。派遣先が『アリーナ銘品館』だったので、受付の者は身分を確認せず商人向けの依頼書を作成して担当者に渡してしまっていた。このミスに気が付くのは後日、ドワコの執事であるセバスチャンが抗議に来たことで発覚する。
そんな事になっている事は知らず、姉妹が派遣会社を後にした。
「おねえちゃん。仕事先見つかって良かったね。住み込みだから寝る所にも困らないよ。」
妹のジェシーが言った。
「まだ紹介だけだから、正式に雇ってくれるかは別の話だよ。」
と姉のジェーンが言う。
「支度金も貰ったし今日は宿に泊まって明日に備えようね」
「そうだね」
姉妹は安めの宿に泊まり夜を明かした。
翌朝、指定されたお店を目指す。
「おねえちゃん。なんかこの辺りの店すごく高級そうな立派なお店ばかり。」
「そうだね。こんな所で働かせてもらえるのか不安になってきた。」
しばらく歩くと高級そうなお店の並ぶ区域に指定されたお店があった。
看板には『アリーナ銘品館』と書かれている。入り口付近にかけられている小さな看板を見て姉妹は驚いた。
『マルティ王国 御用達』
国との特別な取引を行っています。と言う事を示す看板が掲げられている。これは国からの指定を受けなければ掲出できない看板だ。
「本当にここで良いの?かなり格式高そうなんだけど・・・」
「指定されている以上、入るしかないよね?」
恐る恐る2人はお店の中に入った。店の中はとても広く、開店前だったようでお客さんもいない状態だった。
「いらっしゃーい。今日はどのような御用で?」
店員と思われる女性が話しかけてきた。姉のジェーンと変わらないくらいの年齢かな。美人でスタイルが良く思わず同姓でも見てしまうくらいだ。
「派遣会社の紹介で参りました。ジェーンと言います。」
「同じく妹のジェシーです。よろしくお願いします。」
「私はこの店の店主でシアって言います。よろしくね。」
店員だと思っていた人は店主さんでした。こんなに若い人が立派なお店を経営していることに姉妹は驚く。
「あなたたちがドワコさんの言っていたメイドさんね。ちょっと待っててね。」
シアが店を出て上の階へ上がっていった。少ししてお店に戻って来た。
「それじゃ案内するから付いてきて」
2人は上の階に案内された。
そして、時間はドワコとセバスチャンが運営資金の相談をしていた所に戻る。
しばらくして服を選んだ2人が上がってきた。
「特に指定しなかったけど、気に入ったものがあった?」
ドワコが聞いた。
「はい。おかげさまで」
ジェーンが答えた。
「えっと確認だけど・・・姉妹でいいよね?」
「はい。私が姉でジェシーが妹です。」
(間違っていなかったようで良かった。)
「それじゃ部屋に案内するから付いてきて」
ドワコとセバスチャン、ジェーン、ジェシーの4人は4階にある使用人の個室へ来た。
「それじゃセバスチャンはこの奥の部屋で、ジェーンとジェシーは・・・2人部屋もあるけど個室がいいよね?ここからここまでが一人用個室だから好きな部屋使ってね。3人共住み込みで良いのかな?通うなら個人の荷物置きとして使ってね。」
聞いたところ3人共住み込みになるようだ。
「それじゃ荷物を置いて、着替えたら2階に降りてきて。」
「「「かしこまりました」」」
ドワコは先に降りて今後の予定を考える。
(今日は各部屋の案内だけでいいよね。本格的には明日からかな)
少し経つと荷物を置いたセバスチャンが下りてきた。さらに少し経ち、着替え終わったジェーンとジェシーが下りてきた。
「今から部屋の案内をしますね。と言ってもほとんど使っていない部屋ばかりなんだけどね・・・。」
居間、応接間、客間、炊事場、ドワコの部屋など家の中を案内していった。一通り案内が終わった。
「それじゃ今日はここまでね。あとは自由時間で構わないから。生活で使う物もあると思うから、このお金を使って揃えておいてね。」
3人にお金の入った袋を渡す。
(中にはそれぞれ金貨が5枚入っていて後で開けてびっくりした姉妹だった)
「そうそうジェーンとジェシーはこの後、応接間に来てね。セバスチャンは入って来たらダメだよ?」
「かしこまりました」
セバスチャンはこれから何をするか察したようだ。
3人は応接間に入る。
「それじゃメイド服の寸法測るからちょっと我慢してね」
ドワコは自作のメジャーを取り出す。女性の体に触る事の耐性がないドワコだったが測らないことには服が製作できない。顔を真っ赤にしてそう割り切って作業を行った。
「ありがとう。これで大丈夫だと思う。それじゃ夜には戻ると思うから後の事はお願いね。」
そう言うとドワコは家を出て行った。
「なんか顔を真っ赤にして照れてるご主人様って可愛かったかも」
「だね~」
ドワコがいなくなったのを確認した2人は、小さなご主人様の新たな一面が見られて満足したようだった。
ドワコはアリーナ村の自分の工房にいた。新しく加わった二人のメイドの服を作るためだ。
工房に来たと同時にエリーが来た。
「なんとなくドワコさんが来るような気がして来ちゃった」
(あなたはエスパーさんですか?最近行動が神がかってきている気がするんですけど・・・)
「今日、新しいメイドが2人入ってきてね。その服を作ろうと思って。」
「それじゃ私も手伝うね」
「ありがとね」
2人でメイド服を2着作っていく。先ほど測った寸法を元にボディーと呼ばれる木製の人形を作り(これはクリエイトブックに載っているのですぐ完成)、布を巻き付け裁断していく。仮縫いを終えてアイテムボックスにしまった。あとは本人に合わせて調整をして本縫いをして完成だ。デザインは元居た世界で何回か行った事があるメイド服を着た女性が給仕をする喫茶店の制服だ。黒を基調としたフリフリしたメイド服だ。靴はクリエイトブックに載っている物で手早く製作した。
「手伝ってくれてありがとうね。それじゃ城下町に戻るね。」
「はいー。またね。」
エリーと別れてドワコは城下町の自宅へ戻った。
今日から夕食が準備されている。特にマナーは気にしないので皆で食べようと提案したが、セバスチャンに却下された。一人寂しく食事をとった。
使用人も食事を終えたところでジェーンとジェシーに声をかける。
「2人共ちょっといい?」
「「はいなんでしょう?」」
「今からメイド服を完成させちゃうから少し時間頂戴」
「「かしこまりました」」
2人は返事をし応接間へ行く。
「それじゃこれ着てみて」
仮縫いがしてあるメイド服を2人に渡す。
「もうここまで完成してるんですか?すごいですね」
その場で2人は服を脱ぎだす。
「わーわー」
慌ててドワコは後ろを向いた。
「着替え終わったら言ってね」
着替えが終わり2人のメイド服を微調整していく。修正箇所をピンでとめ脱いでもらう。
今度は脱ぐ前にドワコは後ろを向いた。
「ありがとう。明日までには完成すると思うから、今日は休んでいいよ。お疲れ様。」
「「それでは失礼します」」
2人は嬉しそうに部屋から出て行った。
それからドワコは自分の部屋にミシンを出し、本縫いを行い2着のメイド服を完成させた。




