28.開店
いよいよ今日はシアの店である「アリーナ銘品館」がオープンする日だ。
今日は沢山の人が来るのを見込んで冒険者ギルドに警備の依頼を出してある。
ギルドより2人の冒険者が派遣されており、店の警備にあたっている。
「やっとで開店の日になったわ。今まで準備を手伝ってくれてありがとうね。」
「シアにはお世話になってるからね当然だよ」
「今日は頑張ろうね」
3人は準備を終え開店時間を待つ。店の前にはそれなりの列が出来ている。ドワーフたちの制作したものは展示品もあるが基本的に対面販売、アリーナ村で作られた特産品などは現物をカウンターに持って行って清算する方式を採用している。
「お待たせしました。只今をもって『アリーナ銘品館』を開店いたします。どうぞお入りください。」
シアが開店を告げドアを開ける。
並んでいた客が店内に入って行く。店舗はかなりの広さがあるので並んでいた人が全部入っても収容出来るほどの広さがある。アリーナ村の特産品を物珍しく吟味する者も、ドワーフが製作した武器、防具、道具などの展示品をゆっくりと見ている者、お目当ての品物を即購入して帰る者など様々である。
やはり、この町ではここでしか入手できない武器、防具は人気だ。アリーナ村まで行かないと購入できなかった新品の武器、防具、さらにお金に余裕のある人向けの高級品まで揃えてある。幅広い冒険者や騎士などが商品を吟味して購入していく。
このような感じで営業時間があっと言う間に終わった。
「お疲れ様。今日はありがとうね。」
シアはドワコとエリーに向けてお礼を言う。
「沢山お客さんが入ってよかったね」
「ちょっと疲れたけど楽しかったよ」
それぞれ感想を述べる。
「かなりの品物が売れて在庫が少なくなったし、明日からは私一人で大丈夫だと思うから。」
「わかったよ。また困ったことがあったら言ってね。」
明日からは一人で店を切り盛りするらしい。大丈夫かな?
ドワコ達はシアの家で夕食を済ませ、上の階にあるドワコの家に戻った。
「エリー、手伝ってくれてありがとうね。」
「ドワコさんの頼みなら断れないよ」
「非常に言いにくいんだけど・・・あしたちょっと別のお仕事のお手伝いお願いできるかな?」
「何かわからないけど良いよ」
「良かった。それじゃよろしくね。」
翌日、ドワコとシアは城の前に来ていた。
「えーっと。ここお城だよね。」
「そうだね」
結局、仕事の内容をエリーに伝えることなく城まで来てしまった。手伝いを頼んでおきながら内容を切り出せないドワコであった。
「とりあえず中に入って」
貴族用の入口へ向かうドワコ。それに続くエリー。
「ここって貴族用の入口だよね???」
エリーが不安げにドワコに尋ねる。
「大丈夫だから」
顔なじみの衛兵のおじさんがいる。
「おやドワーフのお嬢ちゃん久しぶりだね。今日はお連れもいるんだね。どうぞー。」
どこかの貴族へ出入りしているドワーフだと思っている衛兵のおじさんは、顔なじみなったドワコを特に検査をするわけでもなく通す。エリーもドワコに付いていく。
「ドワコさん顔パスで入れるってすごいね。お城の中は初めてだからドキドキだよぉ。」
ドワコと共に城の中を進んでいくエリー。そしてドワコの控室まで来た。
「それじゃこの部屋に入るよ。私の控室だから遠慮しないでね。」
ドワコの控室に入る。特に私物とか置いてあるわけではないが、部屋のクローゼットには何種類かの衣装が置いてあるが、その中から聖女用の衣装とメイド服を取り出す。(ドワコ用の衣装になぜかメイド服があるのか不思議だが突っ込まないほうが良さそう)
「エリーはこれを着てね」
メイド服をエリーに渡す。ドワコ用の服だが、身長が同じくらいなのでたぶん着れるはずだ。
「これって使用人の服だよね?着ればいいの?」
「そうそう。今日のお仕事は横に控えているだけで良いから。」
「わかりました。それじゃ着替えますね。」
ドワコも聖女用の服に着替える。見習い用のローブとは違い青と白が半々くらいの割合の服になっている。もちろんフード付きだ。
「ドワコさん。その服って聖女様の服だよね?」
メイド服に着替えたエリーが言う。
「内緒にしててごめんね。少し前からこの役をするようにって言われちゃってね・・・」
「と言う事は聖女様の従者を私がするの?」
「まだ従者をやってくれる人が見つからなくて・・・一人だと格好がつかないから隣にいてくれるだけで良いから。」
「お役に立てるかわからないけど頑張ってみる」
エリーが納得してくれたようで安心した。
ドワコはエリーを従えて聖女の執務室へ入る。先日来たときは色々物が置いてあったけれど執務用の机と居椅子、応接セットなど調度品を除くと書類などは消え何もない状態になっている。
コンコン。ノックと共に前聖女が入ってくる。
「ドワコ久しぶり。この前は大変だったね。」
「やっぱりあなただったんですね。この前は助けていただいてありがとうございます。」
「カマセーは新しい集落を見つけては重い税を課して住民を苦しめていたからね。国でも何とかしたいと思ってたんだよ。あら?エリーじゃない久しぶり。」
横に控えていたエリーに気が付くとエリオーネが言う。
「ご無沙汰しています。今日は従者を頼まれまして横に控えさせていただいております。」
「正式じゃないって事かな?エリーなら従者でも任務を果たせると思うよ?頑張ってね。」
「ありがとうございます」
「それでカマセーはどうなんったんですか?」
その後の事を知らないドワコはエリオーネに質問する。
「まあ本人も罪を認めちゃったからね・・・部下が勝手にやったとか言えば多少は罪が軽くなったんだろうけど。財産没収で下級貴族へ降格、管理権を持っていた集落はすべて国の管轄になったよ。」
「そうなんですか」
「国としては膿を出したという事で良かったけど、地下牢に入ることになってしまってごめんね。」
「気にしてないから大丈夫ですよ」
「ドワコさん地下牢に入ってたんですか?」
エリーが慌てて聞いてくる。
「色々とあってね。そのおかげで仕入れ先を確保できてシアの店が成功した訳だから良しとするしかないかな。」
「そう言えばシアのお店の御用達の看板ってエリオーネ様から手配された物なんですか?」
「理由はどうあれ何日か拘束させてしまったお詫びで、せめてもの罪滅ぼしね。」
「国王陛下にもお礼を伝えてもらえると助かります」
「わかりました。伝えておきますね。それじゃわたくしは失礼しますね。」
エリオーネは退室し、ドワコとエリーの2人になった。
「私の知らない間にドワコさん大変なことになってたんですね」
会話の内容から察したエリーがドワコに言う。
「たまたま、あの集落を見つけていなかったら大変なことになってたよ。結果オーライっていうところかな。」
会話の断片でおおよその見当を付けたエリーであった。
そのあと、久しぶりに執務室に来たために仕事が溜まっていた。次回まわる集落の選定作業や、参加する行事の打ち合わせなど担当者を変えながら執務を行っていく。横に控えているだけで良いと言っていたが、エリーも状況を判断して的確に動いてくれた。
「エリーお疲れ様。たぶん今日の仕事はこれで終わりだと思う。」
「少しはお役に立てましたか?右も左もわからない状態で仕事していたので・・・」
「十分すぎるくらいでしたよ。次もお願いしたいくらいです。」
「そう言ってくれると嬉しいです。次も頑張りますね。」
エリーは次も頑張ってくれそうだ。本当にいい子だ。
控室に行き、いつもの服に着替えて城を後にする。




