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賢者になったドワーフ娘(仮)  作者: いりよしながせ
ドワーフの聖女様
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26.ドワーフの集落

その夜は、ドワーフの集落で暮らしている人々で盛大な宴会を行っていた。


ドワコがアイテムボックスに入れていたお酒を出した所から始まった。いつでも飲めるようにと入れておいた物だ。お世話になるドワミの家で飲もうと出した物だが、広場でみんなで飲もうという事になった。ドワーフは酒が大好きな種族らしい。アイテムボックスに入れていた結構な量のお酒は全部出した。各家からも食べ物やお酒を持ち寄り盛大に同族の来訪を歓迎してもらった。


「ドワーフって言うのはなぁ・・・いかに立派な髭を生やしているかが大事なんだ。お前さんは髭がないな。まあがっかりしなさんなって。」


隣にいたドワーフのおじさん(見た目が同じなので年齢不明だけど)が話しかけてきた。


驚いたことにドワーフは女性も髭が生えるらしい。確かにドワミは猫のヒゲのような物が生えているし、他の女性を見ると男性と同じような立派な髭を生やしている者もいる。ちなみにドワコは髭がない。そのためにフードを被ると外見がヒューマンのように見える。ドワーフは基本的に身長が低いようで皆ドワコと同じくらいの身長だ。この世界に来てヒューマン以外の種族を見たことが無かったのもあり、沢山の小さいものが動く光景には違和感を感じるドワコだった。


「それじゃ追加で食べ物出しますね」


食料もある程度持っていたので一部を除き供出する。突然目の前に大量の食糧が出現し、集まっていた皆が驚く。


「おまえさん、アイテムボックス持ちか。旅の者にしては軽装だなと思っていたが納得だ。まあ良い折角だし頂こうか。」


親方が納得したように言う。


「お酒が一杯飲めるのって幸せだよー。ありがとうドワコ。」


ドワミは沢山のお酒が飲めてご機嫌だ。宴会は夜遅くまで続いた。



翌朝、ドワコはいつの間にか寝てしまっていたようだ。ドワミの家で目が覚める。


「んー。ちょっと飲み過ぎたかも・・・」


軽い二日酔いの症状が出ている。


「おはよー。ドワコ。昨夜は楽しかったよ。」


「おはよう。ドワミ。いつのまにか寝ちゃったみたいでごめんね。」


「いいよいいよ。気にしないで。」


そしてドワミの家で朝ご飯を食べ終わった頃に事件が起こった。


30人くらいの武装した兵士が集落に入ってきた。貴族階級である騎士ではなく平民で組織される兵のようだ。


「我々はマルティ王国中級貴族であるカマセー様の配下の者である。代表者は出てくるように。」


兵の隊長と思われる人物が大声で叫ぶ。


「なんじゃ。朝から騒がしいぞ。」


親方が兵士の前に出てきた。

それに合わせるように集落の人々も集まってきた。ドワコとドワミも一緒だ。


「貴様がこの集落の長か。これからカマセー様がこの集落にお越しになる。まず最初に説明しておく、この集落はマルティ王国の国内にあり未登録の集落だ。新しい集落を発見し、最初に足を踏み入れた代表権を持つ貴族がその集落の管理権を得ることが出来る。これがどういう事かわかるな?」


「ここはカマセーとか言う奴の支配下になると?」


「様をつけろ無礼者。そうだ、そして管理権を得た貴族に対しこちらの指定した量の納税義務が発生する。ここはドワーフの集まる集落のようだな。これからカマセー様の下でしっかり働いてもらうぞ。」


そして、しばらくするとカマセーが数人の兵士を引き連れ現れた。


「ここがドワーフの集落か。私がマルティ王国中級貴族カマセーだ。数日前に報告を受けて半信半疑で来てみたが本当にあったとはな。ここで色々な物を生産し有効活用すれば莫大な利益が得ることが出来そうだ。良いものを見つけたクックック。新たな集落を発見し、その集落に一番初めに足を踏み入れた代表権を持つ貴族が管理権を得る。よって、この集落はカマセーの管理下となった皆の者、私の為に精一杯働くように。」


いかにも悪そうな感じの貴族であった。エリオーネから未登録の集落の話は聞いていたが、管理権の事については聞いていなかった。そのような制度があるという事を初めて知った。


「そんなの受け入れる訳には行かねぇ。みんな満足に食う物も確保できずに苦しい生活をしている。」


親方が納得できずに食い下がる。確かに一方的に管理下に置くと言っても納得できるはずがない。まだ、集落の事を思って管理下に置くならともかく、見た感じ搾取する気満々である。ドワコも怒りを感じた。


「なんだ?その反抗的な目は。」


集落の人々もドワコと同じような考えだ。カマセーに対し怒りの視線を向ける。


「貴族への反抗は即、拘束し、城で裁判にかけ処罰する事になる。見せしめで良い。長と数人を拘束しろ。」


兵士が無作為に住民を拘束する。集落の長である親方、ドワミ、あと2人のドワーフの男性、それとドワコの5人が拘束された。下手に反撃すると他の住人に被害が出ると考え5人はおとなしく拘束された。


手足を縛られ、荷馬車に5人のドワーフは乗せられる。沢山の兵士に囲まれ城へと護送される。


「正式な手続きを踏んだ後、この集落は私の管理下に置かれる。こいつらみたいになりたくなければしっかり働くことだ。」


カマセーが集落の人々に言ってこの場を離れる。それを合図にカマセーの部隊は城へと向かう事になった。


「「親方ー」」


残された住人が叫ぶが兵士たちは無視をし行軍を開始する。


「すまんな。全く関係ないお前さんを巻き込んでしまって・・・」


親方が謝罪する。


「私たちどうなるの?」


ドワミが不安そうな顔で聞いてくる。


「言っていた話が本当なら、貴族に反抗したという事で裁判をうけ処罰を受ける。集落はカマセーの管理下に置かれる。残された集落の人がどうなるかはわからないよ。」


「そんなー。」


「ただ希望もあるよ。お城にいる知り合いに連絡が取れれば何とかしてくれるかもしれない。」


「お城に知り合いがいるんだ。ドワコって実はただのドワーフじゃない感じ?」


「どうなんだろうね。あとは連絡が取れるかは運しだいだから・・・。」


カマセー一行は途中で野宿を挟み翌日マルティ城に到着した。城内に入ると様子がおかしい。慌ただしく騎士や兵士が行き来をしている。監視役の兵士にそれとなく聞いてみると、重要な役職を持つ者が行方不明になっているらしい。まあそれはドワコ達には関係ないという事で気にも留めず、これから行われるであろう裁判の事を考えていた。


5人のドワーフは裁判が始まるまで地下牢に拘束された。この国での裁判は平民階級なら特に審議の必要ない事案なら即日判決、場合によってはその日のうちに処罰される場合もあるそうだ。


「今から裁判を行う。5人共出ろ。」


衛兵に連れられ裁判を行う場所へ連れていかれる。

裁判を行う場所は判事と思われる人が中央に座り、その横では書記と思われる人物が記録している。両サイドを対面するような形で左側にはドワーフ5人、右側にはカマーセと執事らしい人と弁護士なのかもう一人いる。こちら側には弁護人は付かないようだ。傍聴席が後ろ側にあるが誰も座っていない。


「それでは裁判を行う」


判事が開始の号令をかける。


「訴えによると、中級貴族であるカマセー殿に対し反抗的な態度を取ったために拘束とあるが間違いないな?」


「はい」


判事の質問にカマセーが答える。


「お前たち5人も間違いないな?」


「わしらは集落を管理下に置くと言ったから拒否しただけだ。」


判事の問いに親方が答える。


「初めに言って置くが、お前たちの集落に初めて足を踏み入れた代表権を持つ貴族が管理権を主張できる。そのため私が主張しただけだ。」


「あいわかった」


カマセーの発言に判事は納得する。


「そうだな。初めて足を踏み入れた代表権を持つ貴族なら・・・だな。」


「そうです」


判事の問いにカマセーは答える。


「一応こちらでも調べさせてもらった。残念ながらカマセー殿より先に足を踏み入れた代表権を持つ貴族がいるようだ。よって、この事では罪を問うことが出来ない。この5人は無罪だ。」


「どういうことですか?私より先にあの集落を見つけた貴族がいると?」


「そうだ。それと、カマセー殿には別の訴えが出ておる。続いてその審議を行う。」


「なん・・・だと・・・」


突然訴えた側から訴えられた側になってしまったカマセーが驚く。


「訴えによると、中級貴族である貴殿が不当に上級貴族を拘束したと言う訴えだ。」


「私はそのような事をした覚えはない」


カマセーが慌てて否定する。自分より格上の貴族を不当に拘束したとなると、下手をすると財産没収の上で家が潰されてしまう。そんな事をした覚えのないカマセーは誰かの陰謀かと思いを巡らせる。


「それでは聞こう。カマセー殿の反対側に座っている5人は貴殿が拘束したで間違いないな?」


「間違いありません」


「それでは申し訳ありませんが、バッチを見せていただけませんか?」


ドワコに向けて判事はバッチの提示を求めた。ドワコは貴族の階級を示すバッチを取り出した。


「上級貴族だと?ドワーフが・・・そんな馬鹿な。」


カマセーの顔が青くなっている。自分で拘束したと言ってしまったため罪を逃れることが出来なくなった。


「わかったようだな。貴殿については後日判決が下るのでそれまでは身柄を拘束させていただく。」


数人の兵士が入室しカマセーを拘束して部屋から退室させた。


「これまで非礼をどうぞお許しください」


「初めに足を踏み入れた代表権を持つ貴族と言うのはドワコ様です。よって管理権はドワコ様が持つ事になります。この先、どうされるかは集落の者と相談するとよろしいかと思います。」


判事がドワコに対し謝罪をし、今後の方針についてアドバイスを送る。


「これにて裁判を終了する」


判事の号令で裁判が終了した。



裁判が終わりドワコと4人のドワーフたちは別室へ案内されて休憩をしている。


「それにしてもドワコが貴族だったなんて知らなかったよ」


「おかげで助かった。感謝だな。」


「別に隠すつもりは無かったけど・・・結果的にうまくいって良かったよ」


判事はどこで情報を仕入れていたのかわからないがドワコが上級貴族のバッチを持っていることを知っていたようだ。と言う事はあの方の息がかかった人なのかもしれない。あとでお礼を言っておかないと・・・。


「お城の知り合いってドワコ本人の事?」


ドワミが聞いてくる。


「本当に知り合いだよ。たぶん今回の事も裏で手をまわしてくれたんだと思う。」


「誰かはわからないけどその人に感謝だね」


「それでじゃ。管理権が貴族に移ったという事は変わらんが、これからわしらの集落をどうするつもりじゃ?」


親方がドワコに聞いてくる。


「んー急に言われたから特に考えていないけど、今まで通りかな?付け加えるなら製作した物を私と紹介するって言った商人が適正価格で買い取るって感じでどう?現金収入も入って双方利点もあると思うけど。」


「今まで通りの生活が出来て、収入も入ればわしらにとって不都合はなさそうじゃ。それでよろしく頼む。」


ドワコとドワーフの集落との契約が完了した。


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