21.聖女見習（前編）

「おかえりドワコさん」

「シアさんこっちにいたんだ」

シアに出迎えられた。お店の準備で城下町に来ていたようだ。

「お城の方からドワコさんが来るからって連絡があって、食事の用意とかしておいたよ。あとで食べに来てね。」

「ありがとう。外で放置されたときはどうしようか悩んだよ。明日からしばらくお城でお手伝いになりそう。」

「そっか。大変だね。昼前にお城の人が来て部屋の準備してたから大丈夫だと思うけど、もし何かあったら遠慮なく言ってね。」

ドワコの居住スペースは2階と3階にある。シアは1階の奥にある居住スペースを貸してある。１階店舗部分には少し手が加えてある様子で、出店準備を進めているのがわかる。2階から上の居住スペースには店横の階段から上がるようになる。店舗奥にある1階居住スペースへは店の中を通るか裏口から入る形になる。シアの使う区画とは出入り口が別になる。

ドワコは2階へ上がる。一人で使うのには無駄に広い。隅々まで管理しようと思うと使用人などを雇う必要がありそうだ。現在の収入ではほかに雇えるほどの余裕がないので一人でできる範囲でやるしかない。自分が寝るための部屋を最優先で準備する。家具類はそのまま残してあるので軽く掃除をしておけば何とかなりそうだ。

1階にあるシアの家で食事をご馳走になって自分の寝床に戻る。明日はいよいよ聖女見習の研修に入る。これからの事を考えるとちょっと憂鬱になりながらも寝る事にした。

翌日、シアの家で朝食をご馳走になり城へと向かう。今回は通行証を持っているので安心して通れそうだ。貴族用の入り口で衛兵に通行証を提示する。通行証を確認した衛兵は敬礼をして通路を開ける。ドワコは城の中へと入った。

「入ったのは良いのだけど・・・」

自分の控室に向かえば良いのだけど・・・迷った。見覚えのある場所がないか注意深く歩くが全く記憶がない場所を歩いている。さすがに広すぎるのも困りものである。一応内密にと言う事なのでその辺りにいる人に部屋の場所を聞くのもためらわれる。

騎士と思われる人の一団が訓練をしている場所へと出てきた。模擬戦のような形式で1対1で訓練を行っている。

「お？城の中にドワーフがいるなんて珍しいな」

ドワコの存在に気が付いた指導をしていると思われる人物が話かけてきた。

「少し道に迷いまして・・・」

正直に答えた。

「そうかい。ドワーフは力が強くて戦闘が得意と聞いたことがあるぞ。良かったら手合わせ願おうか？付き合ってくれたら行こうとしている所へ案内してやるぞ。」

なぜ急に手合わせの話が出るのかは疑問に思ったが、案内はしてくれるらしい。最近、体を動かしてなかったので少しくらいは良いかなと引き受ける事にした。

「まだ時間は大丈夫だと思うので少しなら大丈夫ですよ？」

と了承する。

「おっ。それはありがてぇな。それじゃ一合わせ頼むわ。」

突然の模擬戦を始める事になり中央へ移動する。他の人は端に寄って見学するようだ。

ドワコは壁に掛けてあった木刀を取った。話しかけてきた人も木刀を取り準備をする。

「それじゃ行くぜ」

模擬戦が始まった。

まず相手側が初撃で木刀を振り下ろしてくる。それをドワコは軽く木刀で受け流す。その勢いで胴を狙い木刀を振るが軽くかわされる。激しい撃ち合い、防御、攻撃が交差する。相手はかなり強い。元々剣の扱いの心得があるうえにバカ力も加わりかなりの攻撃力になっているのにもかかわらず、平気な顔をしてドワコの攻撃を受け止めたりかわしたりする。

「さすが一目見た時にできると感じたが中々の物だな」

「そちらこそなかなかやりますね」

しばらく撃ち合いが続いたが終わりは突然やってきた。二人が木刀を撃ち合ったときに双方とも折れてしまった。衝撃に耐えられなくなってしまったようだ。

「この勝負は引き分けのようだな」

「そのようですね」

ドワコは久しぶりに体を動かしたので当初の目的も忘れ気分が満足した。

周りで見ていた騎士たちは驚いた顔で見ている。

「いい試合だった。お手合わせ感謝する。私は第一騎士隊の隊長を務めるバーグと申す。このような逸材がこの国にいたのには驚きだ。良かったら名前を聞かせてもらえぬか？」

「ドワコと申します」

「そうか覚えておくぞ。それとどこかへ行く予定だったと思うが案内してやろう。」

「ありがとうございます。聖女様の部屋を探していたら迷ってしまいまして・・・」

「聖女様・・・そうか。承知した。それじゃ案内するからついてまいれ。」

バーグに案内され聖女様ことエリオーネの部屋の前まで案内された。

コンコン

バーグが部屋をノックした。

「第一騎士団隊長のバーグだ。聖女様へお目通りを願いたい。」

少しドアが開き中からメイドが出て応対をする。

「バーグ様いらっしゃいませ。ドワコ様もご一緒なんですね。どうぞこちらへ。」

部屋へ案内された。

「で・・・じゃなかった聖女様。ご無沙汰しております。」

「久しいなバーグ。ドワコを連れてきてくれたようだな感謝する。下がってよいぞ。」

「ははっ」

「また時間がある時手合わせを頼む」

そっとドワコに耳打ちをしてバーグが退出した。

「なぜドワコとバーグか一緒に来たのか疑問なのだが？」

「道に迷ってしまって、バーグ様に案内してもらいました。」

「そうか奴はそんなにお節介をやる奴だっかな？気に入られたのかもしれないな。」

「それじゃもう少ししたら見習い研修を始めるから着替えて来ると良い」

ドワコは自分の控室へと移動した。

一緒に付いてきたメイドさんたちに見習い用のローブを着せられて聖女用の執務室へと移動する。

「それでは今日から聖女の研修をはじめます。数日に分けて、前半は座学、後半は実技になると思います。ここにお掛けください。

エリオーネは応接用のソファーに座るよう指示した。ソファーは一人掛けが2つ、テーブルをはさんで3人掛けが1つ置いてある。ドワコも言われた通り3人掛けのソファーに腰掛ける。

「それじゃ私も座らせてもらいますね」

と言ってドワコの横に座った。ちょっと密着しすぎのような・・・。

「資料を持ってきて」

メイドに指示をすると、資料と思われる紙の束をテーブルの上に置いた。

エリオーネがテーブルに資料を広げた。

「それじゃ始めるね。まず、聖女とは何かからかな。前にも説明したことが重複することもあると思うけど聞いてね。聖女と言うのはこの国で一番回復魔法が使える女性が付く役職で、主な仕事は各地を回って国民を無償で癒すと言うのが一番の仕事になるよ。大きな町や村と言うとマルティ城下町、アリーナ村の2か所だけど、さらに小さいもので集落と言う物があるよ。集落の数は国で正確な数把握できてないかなぁ・・・勝手に人が集まって出来ちゃったものもあるからね。把握できている所は巡回ルートに含まれるけど、把握できていない集落は巡回ルートには含まれていないよ。あまり頻繁に回ると地元で生計を立てている医者や薬師に影響を与えてしまうから適度に間隔をあけて回る感じ。」

「医者や薬師に恨まれないようにするためかな？」

「そうなるね」

「次に需要な仕事が騎士団が出ないと討伐できない魔物が出現したときに、一緒に同行してサポートをする仕事。魔物の強さによって編成される規模が変わるけど小規模だと一人でサポート、大規模だと補佐で他に回復魔法が使える者や医師や薬師が同行する場合もあるよ。これは数カ月に1回くらいしか起こらない感じかな。」

「あとは、各種行事の参加。聖女が必要となる行事がいくつかあってそれに出席しないといけないよ。・・・と言っても象徴みたいな感じの役割だから特に何もすることも無くその場で愛想を振りまいておけば大丈夫。」

「最後に、これは無いと思うけど一応聖女の仕事だから・・・他国またはそれに準ずるものと戦争となった場合、治療部隊を率いて戦場に赴くと言う仕事。基本、後方支援になるから前線に出ることは無いかも知れないけど、相手からすれば一番邪魔になって最初に狙いたくなる部隊なので、奇襲とかは受ける可能性があるかもしれない。・・・まあここ20年はそういう事は起こってないけどね。」

「大まかな仕事はこんなとこかな」

「補足で説明しておくけどこの国の軍隊について説明するね。常時編成されている部隊は、第一～五まである騎士団で約20人ずつ配属されてるよ。あと、王族を警護する近衛隊、城、町、村などを警備する警備隊。が常時編成されている部隊。必要に応じて編成されるのが歩兵隊と呼ばれる徴兵されたもので組織された部隊。これは騎士団の指揮下に入るようになるから大まかにいえば騎士団になるかな。それと聖女が所属する負傷兵の救護を行う治療部隊。食料や武器などを輸送したり管理する補給部隊。が主な内訳になるよ。場合によっては変則的な物が編成されることもあったらしいけど20年も前の事だから。」

「とりあえず軍隊についてはこんな感じ」

「次に聖女について、聖女の身分だけど・・・特例的に上級貴族と言う扱いになるよ。さすがに聖女様が中級貴族や下級貴族だと周りへの示しがつかないからね。聖女見習も見習い期間中は同等の扱いになるよ。あと呼ばれ方だけど王族を含め上級貴族からは様を付けない「聖女」。中級貴族から下は様付けで「聖女様」と言うのが基本で、名前で呼ぶ場合は親しい間柄の人がプライベートでは使うけど、公式の場では「聖女」または「聖女様」と呼ぶようになる。聖女見習の場合は見習いローブを着ている時だけ「聖女」、「聖女様」と呼ぶようなるけど、聖女と同じ場所にいる時は同じ聖女だと紛らわしいので「準聖女」、「準聖女様」と呼ばれるから気を付けてね。

「フードについてだけど、ローブについているフードは公式の場や城内を歩くときは必ず被ってね。貴族の間ではいまだに種族差別が残ってて、ドワーフが聖女見習やってるなんて情報が入るとどんな妨害工作されるかわからないからね。正式な聖女になれば権力で黙らせることもできるけど見習い期間中は立場が弱いから我慢してね。」

このような感じで研修1日目は説明を聞くだけで過ぎていった。