127.元の世界
ドスン!
家の前で大きな音がしたため慌ててエリーママは家から出て来た。
そこには気を失ったエリーが倒れていた。
ここはアリーナ村にあるエリーの家の前。時系列的にはドワコが賢者の石を使用し、エリーが消えた直後となる。
「あら、エリーどうしたの?」
慌ててエリーママは駆け寄りエリーを抱き上げた。そして家の中に入り、エリーの部屋のベッドに寝かせた。
「エリー、エリー大丈夫?」
エリーの手には魔法書が握られていた。エリーママはその魔法書の中身を見たが知らない言葉で書かれていたため読むことが出来なかった。
「たしかドワコさんの所にいたはずなんだけど・・・どうしたのかしら?」
「う・・うん・・。」
エリーが目を覚ましたようだ。
「あっ、お母さん・・・ここはどこ?」
「自分の家ですよ?大きな音がして家の外に出たらあなたが倒れていたの。」
「確か、山菜取りに出かけて・・・何かあったような気がするけど、思い出せない。」
「あなた記憶が・・・。ドワコさんの事は覚えてる?」
「ドワコ・・・ドワコ・・・わからない」
「そう・・・」
何かがあってエリーの記憶が抜け落ちたのだとエリーママは悟った。そして先祖代々受け継がれている言葉を思い出した。
「そっか・・・あの方がそうだったのね。ご先祖様のお役目を果たしたと言う事なのね。」
「何の事?」
エリーは訳が分からないと言った様子でエリーママを見た。
「えっとね。私たちの先祖に神殿にも伝承が残っている天才魔導士のエリカ様と言う方がいらっしゃるの。」
「エリカ様って私たちのご先祖様だったの?」
エリーは驚いた様子で言った。
「そう、そのエリカ様。それでね女神様の手助けをする事が何百年か先にあるそうよ。その時は一番波長の合う血を引く者の体を借りるかもしれないって。そしてその時に起こった事の記憶はすべて失われる・・・って言い伝えがあるの。」
「山菜取りから記憶が止まっていると言う事は、ドワコさんに会う前になるからそうなるのだと思う。」
「私が女神様に会って手助けをしたと?」
「そうなるわね。お勤めお疲れ様。」
「良くわからないけど、ありがとう。」
エリーは良く理解できなかったが、納得する事にした。
誠は目を覚ました。知らない天井だった。
周りを見ると病室のようだ。ベッドの上で誠は寝かされ、横には点滴が吊るされ、自分の腕まで管がつながっていた。どうやら長い夢を見ていたようだ。ゲームの世界で色々な事をやった気がする。だが、ゲームなのだが妙にリアル感がある。いったい何日くらい寝ていたのだろうか・・・。確かゲームをやりすぎて部屋で倒れた所までの記憶はある。
とりあえず情報収集にと思いTVの電源を付けた。
ちょうどお昼の情報番組が放送されていた。2年前に行方不明になっていた大学生5人が無事保護されたと言うニュースだ。そこに映し出されていた人たちを見て誠は驚いた。
「あの人達、見た事がある。」
夢の中で出てきた人たちだ。だが、実際に話をしたり行動をしたりした記憶もある。そしてドアがノックされ1人の女性が入って来た。
「お兄ちゃん、目が覚めたんだね。」
「あっ、絵里。」
誠とは年が少し離れた従妹の絵理だ。昔から懐かれていて家にも何度か遊びに言った事もある。もちろん誠の部屋の合鍵も持っているので誠の部屋に来ることもある。たまにサプライズでご飯を作って待っている事もあった。
「びっくりしたよ。驚かせようと思って部屋に入ったら倒れてるんだもん。慌てて救急車呼んだよぉ。」
「ごめんね。迷惑かけちゃったみたいだね。結局何日くらい寝てた?」
「そうだねぇ・・・1週間かな。極度の疲労だって、ゲームのしすぎだよぅ。」
「それもあるかもだけど、1カ月休み無しで働いていたから。」
「だったらゆっくり寝てればいいのにぃ」
「それを言われると辛いね」
誠が目を覚ますまで絵里が付きっきりでいてくれたようだ。もし部屋に来てくれなかったらと思うと誠はゾッとした。
「お腹すいたなぁ」
誠は急に空腹感に襲われ言った。
「お兄ちゃんお腹すいたの?売店で何か買ってこようか?」
「僕も行くよ」
「そう?一度先生に診てもらった方が良いかな。少し待っててね。先生呼んでくる。」
そう言って絵里は部屋から出ていった。少し経ち先生を連れて絵里が戻って来た。そして先生の診察を受け大丈夫との診断を受けてから2人で病院に併設されている売店に行く事にした。部屋から出ようとした所で出合い頭でぶつかりそうになった。
「あっ、ごめんなさい。」
「いえ、こちらこそ前をよく見ていなかったのでごめんなさい。」
「あれ?結城さん?」
「えっ?あっ奏さん」
出会い頭でぶつかりそうになったのは同じアパートに住む奏さんだった。苗字は確か・・・思い出せない。
「奏さんも入院されてたんですか?」
「そう言う結城さんもなんですね」
「なんかこんな所で会うなんて奇遇ですね」
「そうですね・・・」
「2人共知り合いだったんですかぁ?」
誠と奏が話をしている所に絵里が割って入った。
「同じアパートに住んでいる・・・くらいしか接点がないけどね」
「へぇ・・・」
そう言って絵里は奏の方を向いて言った。
「無事に戻れたようですね」
「え?」
奏が驚いた表情をした。
「お兄ちゃん、早くいくよぉー。」
駆け足で絵里が先に進み言った。
「絵里ー。待って、今行くから。」
2人を見送った奏が独り言を言った。
「エリーさん?」
食料を調達して自分お病室に戻って来た誠は戦利品を絵里と一緒に食べていた。
「なんか久しぶりに食べ物を口に入れた気がするよ」
「そりゃ1週間も寝てたら久しぶりになるんじゃないかなぁ?」
「確かに・・・でも体は思いの他スッキリしてるよ。」
誠は1週間寝ていた割には体調がすこぶる良い感じだ。
「それほど疲れていたと言う事じゃないかな?」
「でも2年くらい寝ていた気がするよ。その間夢を見ていた気がするよ。」
誠が言った言葉を聞いて絵里がほっぺたを膨らませてムッとした表情で言った。
「夢で済ませるつもりなんですね。ド・ワ・コ・さん。」
「え?」
「あんなに2人で愛し合ったじゃないですかぁ。それを夢で片づけてしまうんですね。」
目覚めた時から絵里の特徴のある言葉遣いが気になっていた。・・・と言っても昔からそうなんだけど。どうして向こうの世界では気が付かなかったのだろう。
「エリー?」
「私は絵里ですよぉ。お兄ちゃん。」
そう言って絵里が抱き付いてきた。そして自然な感じで2人は唇を重ねた。
少し経ち、落ち着いた誠を前に絵里が言った。
「驚いたでしょ?実はね私、前世で異世界の天才魔導士やってたの。その事に気が付いたのが少し前かな。それでお兄ちゃんが向こうの世界に旅立ったのがわかって、私も意識を飛ばして向こうの世界に行ったの。でも肉体が存在しないから子孫の波長の合う娘に乗り移って行動していた訳。乗り移った頃はうまく制御できなくて思うように自分の意志では動けなかったのだけど、徐々に動けるようになったよ。それと並行して少し先の事も読めるようになって色々と助言もしてた訳。どう考えても変な娘に見えてたよね?」
「確かに変な娘だったよね」
絵里の告白に誠は答えた。
「でもエリーは本当に良い子だよ。途中で私の意志が大きく入ってからおかしくなってきただけだから。」
「そうなんだ・・・」
「その後の話を聞きたい?」
「気にならないと言えば嘘になるかな?」
「そっか、それじゃ私の知っている範囲でお話しするね。」
そう言って絵里はベッドの横に置いてあった椅子に座り直し語り出した。




