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賢者になったドワーフ娘(仮)  作者: いりよしながせ
賢者になったドワーフ娘
126/128

126.お別れの日

ドワコ達が元の世界に帰る日が近づいてきた。


何かの条件が重なる日・・・では無く、色々引継ぎなどもあったりするためにエリーが勝手に日取りを決めた。


ドワコ領の神殿にいた3人のシスター見習いは国土が拡大してしまった為、シスター不足となり急遽見習いを卒業し、シスターとなりアカネッタは北側の港町へ、キイベルタは元ミダイヤ帝国だった町へと派遣された。ドワコ領に残っているのはアオリアだけとなった。元々シスターとして派遣されていたメロディは聖女へとなってしまった為、ドワコ領の神殿は形式上シスター不在となっていた。実際はメロディが引き続き業務を行っていたので問題は発生していない。アオリアが正式にシスターになったために、神殿の業務についてはアオリアが引き継ぐ事になった。


神殿の多目的室にはドワコ、エリー、メロディ、アオリアがいる。


「アオリアさんにはお話ししておかないといけないと思いまして、これは暫くの間、他言無用でお願いします。」


エリーがアオリアに向かって言った。


「はっ、はい。」


アオリアが背筋を伸ばして聞く体制を取った。


「実は、ドワコさんは女神様だと言う事は知ってますよね?」


「はい」


「実はドワコさんは数日後に天界に帰ってしまいます。そして同じく天界から来られたメロディさんもです。」


「え?」


エリーの言葉にアオリアは驚いた。


「そこでお願いがあるのですが、あなたに聖女の役を引き継いでほしいのです。」


「聖女になると言われても、私は回復魔法が使えませんけど?」


エリーのお願いにアオリアは答えた。


「それについては大丈夫です。私の所有している魔法書を貴方に託します。」


メロディはアオリアに言った。


「でもそうすると聖女様が魔法が使えなくなるのでは?」


「そうですね。でも私たちの世界では魔法は必要のない物なので大丈夫ですよ。」


アオリアの疑問にメロディは答えた。少し考えてアオリアは返事をした。


「わかりました」


アオリアは聖女になる事を引き受けた。


「それでは魔法書の引継ぎを行いますね」


エリーの指示でメロディの魔法書をアオリアに引き継いだ。


「これでこの魔法書は貴方の物です。ですが、書かれている言語が天界の言語なのでメロディさんから詠唱方法を教えてもらってくださいね。」


エリーがアオリアに言った。

そうして魔法書はメロディからアオリアへ引き継がれ、残りの日数を使い魔法の特訓が行われた。



それから数日後、レオの様子を見に王妃がドワコ領を訪問していた。


「王妃様、大事なお話があるのですがよろしいでしょうか?」


レオと遊び帰ろうとした所でドワコは王妃を引き留めた。


「どうしたのかしら?真剣な表情になっていると言う事は大事な話ですよね。聞きましょう。」


そう言って人払いをした部屋にドワコとエリーとメロディ、そして王妃が集まった。


「さて、どのような話かしら?」


王妃も真面目な顔になりドワコ達を見た。


「それでは私から説明しますね」


エリーがドワコとメロディが天界(元の世界)に帰る事を伝え、賢者と聖女を続けられることが出来なくなった事と、ドワコ領をレオに引継ぎ当面は周りの者で支えながら領地運営を行う事と、聖女の後任は今指導中なのでそれが終わった時点で任命してほしい事を伝えた。


「そうですか、ドワコがドワーフにしては色々と変だと思っていた理由がわかりました。そうですか・・・天界に・・・。それでレオはここに残ると?」


王妃がエリーに聞いた。


「そうですね。戻るために使用するアイテムが有効なのは天界の者だけなので、レオちゃんは該当から外れます。残念ですけど、置いていくしか選択肢がありません。」


「わかりました。私も大事な孫なので極力協力させていただきますね。」


王妃は了承し、王様にも伝える事を約束した。



王妃が城に帰った後で、ドワコとエリーはレオの部屋に行った。


「メルディス。話があるけどいい?」


ドワコがメルディスを呼んだ。レオはベッドで寝ている。


「はい。ちょうど寝た所なので大丈夫ですよ。」


メルディスが部屋の片づけの手を止めて言った。


「実はね、私はここの世界の住人じゃないの。それでそこへ帰らないといけなくなくなったの。」


「すぐに帰ってこられるんですか?」


ドワコの言葉にメルディスが返した。


「おそらく一度戻ると、こちらには来れなくなると思う・・・。」


「そんな・・・坊ちゃまはどうするんですか?」


怒り口調でメルディスはドワコに言った。このような口調で言うのは初めて会った時以来かも知れない。


「それでお願いなんだけど、レオの事を貴方に頼もうと思う。それと、これを預かっていてほしい。レオが所有するにふさわしいと判断した時に渡してくれると助かる。」


そう言ってドワコがこの世界に来てから、ここまで来るのに相棒となった魔法書を渡した。すでに魔法書の所有権は消してある状態だ。


「本当に帰ってしまわれるんですね。敵対していた私がこの魔法書を自分の物にするとは思わないんですか?」


メルディスがいたずらっ子のような顔でドワコに聞いた。


「その時は、その時かな。私の見る目がなかったと言う事。でも、メルディスはそんな事はしないと思っているよ。」


「ご主人様ー!」


メルディスはドワコに膝をついて抱き付いて泣き出した。

ドワコは暫く落ち着くまでメルディスの頭を撫でた。


落ち着いたメルディスはドワコに言った。


「ご主人様から最後に頂いた命令だと思って、誠心誠意頑張らせていただきます。」



そして、ドワコはその後セバスチャンをはじめとした使用人たち、デマリーゼをはじめとする砦の幹部たちにドワコが天界に帰る事と今後について話をして回った。納得できなかった者もいたが、何とか説得し皆の了承を貰った。



そして日が経ち、いよいよドワコ達が元の世界に帰る予定の日となった。

ちなみにこの日は2回目のドワコ祭の日となっていた。

エリーが最後は盛大にお見送りをしようと言う事で、この日になったようだ。

ただ、ドワコ達がいなくなるのは砦の幹部と一部の者にしか知らされておらず、領民たちは昨年同様のお祭りだと思っている。


新しく聖女となったアオリアが特設で設けられた祭壇に向かって祈りを捧げドワコ祭が始まった。

昨年同様に護衛隊の装備品展示や模擬戦闘から始まり、午後からはミスコンテストが行われた。だが、昨年は幹部組は参加していなかったが、今回は最後と言う事でかなりレベルの高いメンバーとなった。


ドワコは未婚だが、子持ちなのでミスと言うのには違和感があるので参加しなかったが、デマリーゼ、カレン、ベラ、ケイト、カーレッタの砦組、前聖女のメロディ、聖女のアオリア、今ではこの領地一の商人となったシア、レオの乳母を務めるメルディス、メイドのジェーンとジェシー、そして技術担当のドワミ、ドワコの補佐役で影の黒幕と言われるエリーが参加した。そのメンツに昨年参加した者たちはかなうはずもなく予選で敗退し、デマリーゼ、カーレッタ、メロディ、シア、メルディスが最後まで残った。


最後は会場にいる者の投票が行われ、優勝はメルディスとなった。

レオもメルディスが優勝してとても喜んでいた。


それからステージプログラムが進行して、最後のプログラムとなった。

ただ、公表されているプログラム表には「大事なお知らせ」としか記載されていなかった。その為何をするか気になった領民たちのほとんどがステージ前に集まっていた。


ステージの上にエリーが立ちマイクを片手に話し始めた。


「この度は第2回ドワコ祭にお集まりいただきありがとうございました。皆さま楽しんでいただけましたでしょうか?本日はこのプログラムを持ちまして終了となります。昨年行われた花火大会は開催されませんのでご承知ください。」


「本日案内しました大事なお知らせとは、ドワコ様とお供の方々、ステージへお願いします。」


エリーがドワコ様と呼んだことに領民たちは違和感を覚えた。普段は公式の場以外ではドワコの事を様付けて呼ぶことがないためだ。必ずさん付けて呼んでいる。


そしてドワコとメロディ、転移組の5人が壇上に上がった。転移組の5人は領地内で色々技術指導を行っていたためほとんどの人が顔を知っている。何事かと領民たちに動揺が走った。


そしてエリーが壇上でドワコの服を目にもとまらぬ早業で着替えさせた。以前ドワコが作った青白の聖女服をドワコが着ている。そして後ろからドライアイスの煙と光を当て神々しさを演出した。


そして誰かが「女神様だ!」と声を上げたのを聞くと領民たちは口々に「女神様」と言い出した。


「お判りになられたでしょうか?そうですドワコ様はおよそ400年前に降臨されこの国を救ったと伝えられる女神様です。時を超え、我々の前に現れ、私たちをここまで導いてくれました。その恩恵は皆さんお判りになられますよね?」


今までの苦しい生活とは異なり、この地に来てから快適な生活を手にいれた者たちは多数いる。皆が納得し、うなずいた。


「ですが、ドワコ様は皆さんの生活を良くするために多大な神力を使ってしまいました。その為に天界に帰らなければならなくなりました。また、ここにいる6人も同様に天界から降り立ち皆に様々な恩恵を与え同様に神力を使い果たしてしまいました。そしてこの者たちが帰る日・・・それが今日です。これからその儀式が行われます。皆様もその光景を目に焼き付けて後世に話を語り継いでください。」


エリーがステージの前に設置された階段から降り、その後をドワコ、メロディ、転移組の5人が付いて歩く。そしていつの間にか会場中央に設置された祭壇とそれを取り囲む怪しい魔法陣が書かれた場所へと進んでいった。(これはあくまでも演出なので実際は祭壇も魔法陣も必要ない)


そして祭壇を取り囲む形で見送りをする者たちが整列している。皆への別れは既に済ませてある。黙って見送るようだ。


シーンと静まる祭壇にドワコを囲む形でメロディ、三浦裕太、岡本直樹、松田智也、中川莉奈、小野麻衣が輪になっている。そして少し外れた所にエリーがいる。


「それじゃドワコさん、賢者の石を上に捧げてください。」


エリーの言う通りドワコは賢者の石を手に持ち上に捧げた。すると石が強く光り辺りを照らした。


「これで大丈夫です。このままの体勢でしばらくいると皆さん元の世界に戻れるはずです。すみません、私はここで役目が終わったのでお先に失礼します。」


エリーがそう言い残しエリーの姿がさらに強い光に包まれ姿が消えた。


「え?どういう事?」


ドワコが驚いたが、自分たちも強い光に包まれ意識を失ってしまった。



会場にいた者たちは強い光に目を奪われ何も見えなくなった。そして光が弱くなり、光が消えると祭壇付近にいた人影はいなくなっていた。


「カカ様どこへ行ったの?」


レオがメルディスに問いかけた。


「遠い世界へ旅立たれました・・・。」


腰を落としレオに抱き付いたメルディスは涙を浮かべながら言った。

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