123.鉄道敷設
ドワコとエリーは会議室に残り、他の者は退室していった。それと入れ替わりで親方とドワミが入って来た。
「ドワコ元気してた?」
開口一番ドワミがドワコに言った。
「まあ元気と言えば元気かも?」
「あら?ドワコ少し太った?」
ドワミが不思議そうな顔をしてドワコを見た。特にお腹辺りをジロジロ見ている。
「あー。なるほどね。」
ドワミは何かに納得したような顔になりジト目で肘で軽く突いてきた。
「ドワコったらしっかりとやる事やってるんだね。この感じだと生まれるのは再来月くらいかな?」
「えっ?そんなに早いの?」
ドワーフの妊娠期間は人間と比べるとかなり短いらしい。エリーが心配しているのにも納得がいった。
「ドワーフは体が小さいから、人間と同じような期間お腹にいたら成長しすぎて裂けちゃうよ」
ケラケラ笑いながらドワミが言った。
「まあ、何だおめでとうと言っておいた方が良いのかな?」
親方が言葉に困ったように言った。
「ありがとう」
「いつまでもこうしていたら話が進まないから、用件伝えても良いかな?」
エリーが急かした。
「ごめんごめん。打ち合わせだったね。」
ドワミが言った。
「それじゃ本題に入るね。今回はこの領と城下町を結ぶ交通整備についての話です。王様からは許可がもらえたので、やっと工事に取り掛かれるよ。今回は道路と鉄道の2本立てで整備しようと思ってる。まず鉄道から先に始めて鉄道敷設を追いかけるように道路工事を始めることにしようと思う。その方が資材が運びやすいからね。」
「わかった」
ドワコの説明に親方が了解した。
「それでドワミには魔動鉄道の新型車両の開発をお願い。今回の仕様書渡しておくね。」
「はいよ」
ドワコから仕様書を受け取り中身を確認した。
「これは、今までの物とは全く別物だね・・・へぇ・・・なるほど。わかった。やってみるよ。」
そう言ってドワミも了承した。
早速、翌日から鉄道敷設と道路の建設が始まった。
転移組の5人もそれぞれに自分を得意分野を生かした手伝いを始めた。
工事が始まって1カ月後、鉄道と道路の建設が終わり、道路の方は先に運用が開始された。それにより荷馬車を使った物流が盛んになり、城下町にはドワコ領で生産された数々の品物が入って来るようになった。
今までは荷馬車で順調に行って3日近くかかっていたものが舗装された道路になったために1日で行けるようになった。
そしてそれから2週間程度たち、車両の開発が若干遅れ気味になったために道路と同じ時期に開業が出来なかったが、ようやく初編成が完成し、試運転をする運びとなった。
ドワコのお腹は誰が見てもわかるぐらいな大きさになっていた。だが、遠慮してか誰もその事について聞くことはしなかった。
「ドワコさん大丈夫ですかぁ?」
「ん、まあなんとか・・・」
お腹をさすりながらエリーの問いかけにドワコは答えた。ドワコは事務作業以外ほとんどの業務を他の人に代わってもらっている。今日は珍しく外での仕事だ。
「こればかりは最終的には私が確認しないとね」
そう言って完成した魔動鉄道用の新型車両の前に来た。
今回は車両自体が長くなり、それが5両編成と今までの車両とは異なり長編成になっている。先頭車には大型の排障器が取り付けられ魔物に遭遇しても跳ね飛ばすことで運行を妨害されないようになっている。これが最前部と最後部に連結され、運転席をかわるだけで進行方向を変えることが出来るようになっている。動力になる魔動機は5両すべての床下に納められ、運転席で総括して制御できるようになっている。また、運行速度も今までの車両とは異なり高速で走るのを想定している。その為、窓は固定式となっていて開けることが出来ない。もちろん冷暖房完備で屋根の上には冷房用の室外機が乗せられている。前から1等車、2等車、3等車、3等車、1等車の編成になっている。1等車は個室で上級、中級貴族の利用を想定している。2等車は下級貴族、平民階級での富裕層の利用を想定している。3等車は平民向けの車両となっている。基本的に先頭車両は1等車だが、魔物の遭遇に備え安全の為に乗客を乗せて使用しない事になっている。実質4両が乗客向けに提供される。
鉄道が敷かれている所には極力、柵を作り人が入らないようにした。これは高速で走るのを想定しているためである。
「ドワコ大丈夫?」
心配そうにドワミが言った。
「大丈夫、大丈夫。」
そう言ってドワコとエリーとドワミは車両に乗り込んだ。今までのオープン的な客室とは違い、気密性の高い仕上がりとなっている。1等車は個室なので小さな居住空間がコンパクトにまとめられている。ただ、高速で走行するため主要時間はあまりかからないと言う想定なので、ベッドや風呂の装備は無い。ソファーとテーブルが置かれている程度だ。2等車はリクライニング機能の付いた椅子が2列、1列の計3列が進行方向を向いて並んでいる。3等車はボックスシートと呼ばれる4人掛けの座席が左右に配置されている。もちろん各車両にはトイレも装備してある。
「思った通りの仕上がりだね。流石ドワミ。」
ドワコがドワミを褒めた。
「細かい仕様を書いてくれるからここまでできたんだよ」
ドワミが言った。
「エリーは何か気になった事ある?」
ドワコがエリーに聞いた。
「私は機械関係あまりよくわからないから2人が納得できたのなら良いと思うよ」
あまり興味無さそうな感じで言った。
「それじゃ1回目はゆっくりと線路の状態を確かめながら城下町に向かうね」
「はーい。よろしく。」
ドワミが運転席に座り、ドワコとエリーがその横にある助手用の簡易座席に座った。ゆっくりと魔動車が動き出し、車庫線からジョディ村の中央駅に入って行った。すでに駅の整備は終わっていて長い編成でも停車できるようになっている。駅で待っているお客さんたちは見慣れない車両が来たことで物珍しそうに見ていた。
「それじゃ行くね」
そう言って魔動車は速度を上げていった。ドワコ領を抜けて何もない平原の中を進んでいく。線路の隣には道路があり馬車が頻繁に行き交っている。現在は道路を走る魔動車と同じくらいの速度で進んでいる。
「順調だね。乗り心地も悪くないよ。」
ドワコがドワミに言った。
「まだ想定した速度ではないからね。これで乗り心地悪かったら高速運転なんて無理かな。」
ドワミは余裕の表情で言った。そして3時間程度の時間をかけて城下町に作られた駅に到着した。一応ここで終点なのだが、この先を延伸してアリーナ村、そして北側の港町まで延伸できるように駅を作る時に方角を決めた。ちなみにドワコ領内の魔導鉄道は無料で利用できるが、このドワコ領と城下町を結ぶ線は有料となっている。その為に車両設備も従来までの物とは異なり、かなりグレードアップさせている。
試運転車両が到着したことで城下町で情報を聞きつけた人たちが集まって来た。ドワミは不具合箇所が無いか車両を入念に点検している。発車まではもう少し時間がかかりそうだ。
しばらくすると豪華な馬車を囲んだ一団がこちらに向かってきた。どうやら王家の馬車のようだ。
そして馬車が到着して、王様と王妃様が降りて来た。ちなみに王子はジョレッタを連れて新天地へ向かった後だ。
「ドワコよ、元気そうで何よりじゃ。おや?子供が中にいるのか?」
「はい。おかげさまで順調に育っております。」
ドワコのお腹に気が付いた王様が言った。
「ドワコ。もう見て分かるぐらいの大きさになったわね。元気な子が生まれる事を祈ってますよ。」
中にいるのは自分の孫だという事を知っている王妃は、そう言ってドワコのお腹をやさしく撫でた。
「王様、王妃様、今日はこれを見に来られたんですか?」
ドワコが2人に聞いた。
「はじめ聞いたときは驚いたぞ。道路だけでも規模の大きさに驚いたが、これも別の意味で驚かされた。」
「ドワコ領にもこの小さい物は走っていた気がしますけど、それと同じ物なんですか?」
王様は物珍しそうに魔動車を見て回り、王妃はドワコに尋ねた。
「そうですね。仕組み的には同じものです。ただ、こちらの方が性能的には断然上になります。」
ドワコとエリーは王様と王妃様を車内に案内した。
「これはすばらしい」
王様は全部の車両を見て回り感想を述べた。
「ドワコ、それでこれに乗ると、どれくらいでドワコ領に着くのかしら?」
王妃がドワコに聞いてきた。
「まだ試験運転中ですが、1時間程度で行けると思います。」
「「え?」」
王様と王妃様は驚きの声を上げた。
「ドワコ、点検終わったよ・・・。あっこれは王様と王妃様。わたくしドワコ領の技術担当をしているドワミと言います。」
王様と王妃様がいる事に気が付き慌ててドワミは挨拶をした。
「あらあら、ドワコと同じような容姿で可愛らしい。お持ち帰りしてもよろしいかしら?」
「ダメです」
王妃の申し出にドワコが断った。だが、すでにドワミは王妃様に抱かれなでなでされている。
「ドワミ・・・王妃様に失礼が無いようにね」
諦め口調にドワコがドワミに言った。
「ドワミ、良かったらこれに乗せてもらえないかしら?」
王妃の胸の谷間に顔を埋めているドワミに王妃が言った。
「むぐぅ、それは構いませんけど。」
こうして急遽試乗会が行われることになった。
一番後ろの車両にはドワコとエリー、そして王様と王妃様が乗っている。その隣の車両には護衛の騎士たちが乗っている。一応護衛として付いて来ているが、ほとんど用事が無いのでお客さん気分で騎士たちは装備を外し座席に座っている。
「それじゃ動かしますね」
ドワミが放送用のマイクで客室に伝えた。そして魔動車が動き出した。速度を上げていき、営業運転を想定している速度まで上がった。
「やっぱり少し揺れを感じるようになったかな」
ドワコが感想をエリーに言った。
王様と王妃様はものすごい速度で流れていく景色を物珍しそうに見ている。
およそ1時間でドワコ領に到着して王様を始め城下町から乗り込んだ人たちはホームに降り立った。
「すごいでしょ。別世界でしょ?」
王妃が王様に言った。
初めて来た騎士たちも村の風景を見て驚いているようだ。
「話には聞いていたが、本当に別世界としか言いようがないな。」
「えっと、王様、王妃様、この後はどうされますか?」
ドワコは伺いを立てた。砦に来るならそれ相応のもてなしの準備をしないといけない為だ。
「いえ、今日は無理を言って乗せてもらったので、そのまま帰ります。子供が生まれて落ち着いたら日を改めてお邪魔させていただきますね。」
王妃がドワコにそう告げて折り返しで帰る事になった。
「それじゃ私とドワミで送ってきますのでドワコさんは部屋でゆっくり休んでくださいね。無理は良くないですよぉ。」
「わかった。それじゃお願い。」
そう言ってエリーに後を任せ、ドワコはホームで王様と王妃様を見送った。




