120.新しい役職
少しの休憩を挟み、今度は謁見の間に皆が集まっている。
少し時間がたち、王様をはじめとした王族が入ってきて王様は玉座に座り、王妃と王子は左右に別れ立っている。
「それではこれより、この度の戦いで大きな役割を果たしたドワコに褒美として新しい役職を与える事にする。」
この場にいる者がざわついた。ドワコは聖女として活動していた時期がある為、その上の役職になるだろうと皆が思った。そして、聖女の上の役職となると王族以外の者が受けられる役職と言えば長年空席だったあの職しかなかった。
「ドワコ、前へ。」
王様に呼ばれドワコは玉座の前で跪いた。
「この度、そなたの活躍により我が国は救われた。その恩賞として賢者の位を授ける。」
そう言って王様は宝石が付いた杖をドワコに渡した。
それをドワコが受け取った瞬間大きな歓声が上がった。
結局のところドワコは賢者と言う位が、この国でどれ位の物かわからなかった。
聖女の時の経験もあるので、とりあえず無難に役目を果たした。
「ドワコよ、他に褒美として望む物は無いか?」
王様の問いかけにドワコは1つ手付かずの事業がある事を思い出した。
「それでは1つだけお願いします」
「申してみよ」
「この城下町と私の領地を結ぶ道の整備を行いたいのですが、道路整備に必要な土地の使用許可をいただきたいと思います。」
「なんだ、そんな事で良いのか?わかった許可しよう。」
「ありがとうございます」
ドワコの申し入れに簡単に許可が下りた。
だが、この時点で王様の思っている道と、ドワコの思っている道が、大きく違う物だったと王様が気づくのは完成が目前となってからの事であった。
授与式も終わりドワコとエリーは控室に戻って来た。
「お疲れ様でした。ドワコさん。」
「少し疲れたかな。どうも最近疲れやすくなった気がするよ。」
「これからは負担のかかる事は控えたほうが良さそうですね」
「それで一つ聞きたい事があるけど、賢者って何?」
ドワコがエリーに聞いた。
「賢者と言うのはですねぇ。この国では王族以外でなることが出来る最高職なんですよ。条件としては全属性魔法が使える事、または使った事がある者。それに加えて国に対して大きな貢献をした者とかなり厳しいので、この国では過去に役職としての席はあるものの建国以来空席のままなんですよ。だったらなぜそんな役職を作ったかと言う事なんですけど、ドワコさんが蘇生させた王子様・・・のちに国王になったんですけど、その方が趣味で作ったというか思い付きで作ってしまった役職なんですよ。本当にあの人ったら・・・。」
遠い目をしてエリーが懐かしむように言った。この場合エリーでは無くエリカの方なんだろうけど。
「それでですね、その役職の内容と言う物が王族と同等の権利と地位を有する事になるんです。主に王様に助言をする立場なんですけど、特にする必要は無いと思います。下手に口を出すと他の貴族たちが黙っていないと思いますし、ドワコさんも色々と大変な時期に余計な仕事したくないですよね。まあ名誉職だと思って気楽に構えておいた方が良いですよ。」
「そんな物なのかな?」
「そんな物なんですよぉ」
ドワコとエリーは城を出る前に聖女の執務室に寄ってみた。
執務室の前には護衛の騎士が立っていた。
「すみません、取次ぎお願いできますか?」
ドワコが護衛の騎士に話しかけると敬礼をしていった。
「これは賢者様。少々お待ちください。」
執務室の中に入りドワコが来た事を告げるとすぐに通してくれた。
部屋の中にはメロディの他に側仕えが2人ほどいた。ドワコに礼をして後ろに下がった。
「メロディさん仕事の方は慣れましたか?」
ドワコがメロディに話しかけた
「おかげさまで王子様から色々と教えていただきましたので大丈夫・・・だと思います。それにしても王子様は何故、聖女の仕事にお詳しいのでしょうか?聞いても答えてくれませんでした。」
「それはそうだろうなぁ」
(まさか女装して聖女してました・・・なんて言えないからね)
「今、この城下町の宿屋に向こうの世界から転移してきた5人を保護していますけど、会いに行ってみます?」
ドワコがメロディに言った。
「そうなんですか?私の面識がある人かな?」
「多分無いと思いますよ。でも顔は見た事があるかも知れません。」
メロディの言葉にエリーが返した。
「どちらにしても気になりますので会ってみます」
「と言う訳で聖女様お借りしますね」
エリーが側仕えに伝えて3人は城から出る事にした。
貴族用の出入り口には、ドワコとよく話す衛兵のおじさんが立っていた。
「おや、嬢ちゃん今日はもう帰るのかい?」
「はい。用事が終わりましたので今日はこれで帰ろうと思います。」
「そうかい。それじゃ気を付けてな・・・これは後ろにおられる方は聖女様でしたか。大変お見苦しい所をお見せしました。」
衛兵のおじさんはメロディの事は聖女と認識しているようだ。ササっと敬礼をした。
「いえ、お気になさらず。ご苦労様です。」
メロディは優しく微笑みかけると立派な聖女様に見えた。
「こうしてみるとエリーの人選はさすがだと思うよ」
「それほどでもありますよ?」
ドワコが褒めるとエリーは嬉しそうに無い胸を張って答えた。
そして3人は裕太達5人が滞在している宿へと向かった。
向かう途中メロディに対して街の者が深々と頭を下げる光景を度々見かけた。
「メロディさんは聖女だと言う事が城下町中に伝わっている感じですね」
「そうでもないですよ?今着ている服が聖女服だからではないでしょうか?」
ドワコの言葉にメロディが返した。確かにメロディは聖女用の青と白のローブを着ていた。
「なるほど、うっかりでした。」
ドワコは恥ずかしさで顔を赤くしていった。
「そう言うドワコさんも魅力的ですよぉ」
そう言ってエリーがドワコに引っ付いた。
「お2人とも仲が良いですね」
「だって私たち付き合ってますから」
メロディの言葉にエリーが答えた。
「これはキマシタワーって言うアレですか?」
「いや、エリーにはそのネタ解らないでしょ。」
「そんな事はありませんわー。キマシタワー。」
メロディにドワコが突っ込みを入れたが、エリーもボケの方に回ったようだ。
「私たち付き合っていますから。チュ。」
「むぐっ」
そう言ってエリーはドワコにキスをした。
「キャー、キマシタワー。」
メロディが何か喜んでいるようだ。エリーとメロディが変な盛り上がりをしている間に転移組の5人が滞在している宿に到着した。
「すみません。ここに滞在している・・・」
ドワコが宿のフロントで話しかけようとした時、フロントにいた人はドワコの後ろにいたメロディを見て驚いた。
「これは聖女様。このような宿にどのような御用件で?」
ドワコを無視してメロディに話しかけた。
「なんか理不尽さを感じるけど・・・」
ドワコはショボーンとなった。
「まあまあ、この場はメロディさんに任せちゃいましょう。」
そう言ってドワコの頭をエリーが撫でた。
「えっと、今回ここに来た理由は・・・えーっと誰でしたっけ?」
エリーがそっと名前を教えた。
「そうそう、ここに滞在している三浦さん、岡本さん、松田さん、中川さん、小野さんの5人に会いに来ました。いらっしゃいます?」
エリーに教えられた名前をそのまま宿のフロントに伝えた。すると、すぐに別の者が慌てて呼びに行った。
「今呼びに行かせましたので少々お待ちください」
少し経ち、呼びに行った者が5人を連れ上の階から降りて来た。
「聖女様、お待たせしました。」
「お手間を取らせましたね。ありがとう。」
メロディは感謝の意味を込めた笑顔で呼びに行った者にお礼を言った。
その者は一礼をして奥に入った。
「えっと、あんたが聖女様とか言う人かい?」
いかにも体育会系と言った体つきの松田智也が言った。
「皆さんはじめまして。私はこの国で聖女と言う役職に就かせていただいているメロディと言います。」
「それで聖女様はどのような御用件で俺たちに会いに来たんだい?」
三浦裕太が単刀直入に用件を聞いた。
「えっと・・・会ってみたかったから?」
メロディがドワコの方を見て言った。
「私が会わせたかったじゃダメ?」
ドワコが裕太に言った。
「いえ、ドワコさんがそう思われたのでしたら特に言う事はありません。」
裕太が素直に引き下がった。
それからドワコ、エリー、メロディーと転移組5人は、宿に併設されている食堂を借りて懇談会を始めた。




