119.戦後の話し合い
翌日、城で今後の国の方針について話し合いが行われた。
会議室には王様を始め王妃、王子の王族と、ジョレッタをはじめ各大臣など需要な役職に就く者、そして聖女のメロディ、ドワコ領よりドワコとエリーとサンドラが出席した。
その話し合いでは、占領したミダイヤ帝国領の扱いについてが主な議題となった。
昨日、エリーが聞いたようにドワコはサンドラ達の部隊が占領した北部ササランドを含む地域を除くすべての権利を放棄した。そしてササランドを含む北部地域は元々サンドラの一族が支配していたので、マルティ王国内の自治領と言う形でサンドラに返還される事になった。
残ったミダイヤ帝国については降伏では無く、休戦と言う形がとられたために、現状の領土のまま対等な国と言う扱いで残されることとなった。
ドワコが権利を放棄した元ミダイヤ帝国領は、戦後復興が必要なため王子が当面、領主代行と言う形で行う事となり、補佐としてジョレッタが付く事になった。その土地は今回の戦争が始まる前のマルティ王国の全国土を超える広さとなる。
まだ諸国連合との話し合いは行われていないが、国の方針としては北部のミダイヤ帝国側に付いた国については、新たに領主を立てて適任者が国土を引き継ぐ形で着任すると言う事になった。
「そこでその領主にはエリーが適任だと思うのだが、どうだ?」
王様が会議の席で北部地域の領主にエリーを推薦した。
会場がざわついた。領主と言うのは上級貴族が行う物で平民であり、まだ幼いエリーにその任を与えようとしている事が納得できない者が多数いたようだ。
「今回の戦いにおけるエリーの功績は大きい、そして魔法の実力だけなら筆頭宮廷魔導士の実力を遥かに超える実力を持っていると聞く。すでにその時点で中級貴族以上の資格を有していると思うのだが?」
会場が黙った。確かに今回の敵主力部隊をほぼ損害無しで撃退した功績は他の誰にも真似ができない事だ、しかも筆頭宮廷魔導士の任に着くと自動的に上級貴族となる。上級貴族の資格は十分持っている事になる。
「どうだ?エリー引き受けてもらえぬか?」
王様がエリーに言った。
「大変光栄に思いますが、辞退させていただきます。」
エリーは王様の提案を断った。
「なぜだ?貴族となれるのを辞退すると言うのか?」
「はい、私はドワコさんの補佐をすると言う任をそのまま続けたいと思います。詳しい事はお話しできませんが、これは、この国の歴史書にも名がある方との時を超えた約束・・・みたいな物になります。」
「え?」
ドワコはエリーの突然の告白にドキリとした。歴史書に名が残りエリーに似た人物を知っていたからだ。400年前の世界で会った天才魔導士と言われたエリカの事を思い出した。
「そうか、詳しい事は聞かないが、そなたの意志は固いようじゃな。では領主は別の物を任命することにしよう。だが、何か褒美を渡さなくてはならないな。」
「その必要もありません。私はドワコさんの指揮下で兵を動かしただけです。褒美をと仰るのでしたらドワコさんの方にお渡しするのが筋ではないかと思います。」
褒美に関してもエリーは固辞した。
エリーの無欲さに会議に出席している者からは驚きの声が上がった。
「そうか、わかった。今回最も国のために働いてくれたドワコへの褒美だが、新しい位を授ける事となった。この会議が終わり次第、任命式を行う。各自そのつもりでいるように。」
王様は会議に出席している者に向かい言った。
そして、細かい内容についても話し合いが行われ、会議が終わった。
「ドワコさん。王子様からお借りしていたアレを返した方が良いかも知れませんね。」
エリーがそっとドワコに言った。
「あっ、そうだったね。」
そう言ってドワコは王子の元へ行った。
「あのー、王子様少しよろしいでしょうか?」
「ドワコか?どうした?」
王子がドワコの方を向いて言った。ドワコは色々思う事があったが、心の中にぐっと押さえ込み言った。
「お借りしていたマジックアイテムをお返ししようと思いまして・・・。」
「そうか、それでは私の執務室まで行こうか。」
そう言ってドワコと王子は執務室へ向かった。
執務室では2人きりになり少し沈黙が続いた。
「ドワコ、色々済まなかった。」
そう言って王子はドワコを抱き寄せた。
だが、ドワコはそっと手を入れ距離を開けた。
「王子様は既に婚約者がいる身、誤解を受けるような事をしてはいけません。」
「そうか」
王子は残念そうに離れた。
「この度は、ご婚約おめでとうございます。それではこれはお返しします。」
そういってアイテムボックスより青髪のかつらを取り出し王子に手渡した。
「確かに返してもらった」
王子はそれを受け取った。
「それでは、この後の準備がありますので失礼します。」
そう言ってドワコは王子の執務室を後にした。
執務室の外にはエリーが待っていた。
「ドワコさん、それじゃ控室に戻りましょうか。」
「・・・」
エリーはそっとドワコの手を握り控室まで手を引いて戻った。
2人共、無言で控室まで戻った。
「ドワコさん。チュッ。」
エリーが突然キスをしてきた。
「元気出してくださいよぅ。私がいるじゃないですかぁ。」
「そうだね。気を使わせちゃったね。ありがと。」
ドワコは気持ちの整理をした。
「そう言えばエリーはエリカの事知ってるの?」
「えっ?な、ナンノコトデショウ?」
突然エリーは片言になった。
「それは知っていると言う事だよね?」
「隠していても仕方ないので正直に白状しちゃいます。実は私、エリカなんです。」
「なんだって」
エリーの告白にドワコは驚いた。
「正確に言うと少し違いますけど、体は紛れもなくエリーなんですけど、エリカの思念が少しだけ入っていると言った感じでしょうか?」
「思念?」
「そうです。元々私は、エリカの子孫みたいなんですよね。なので一族の一部の者には、エリカの加護が付く者がいるんですよ。」
「加護とは?」
「そうですね・・・ドワコさんスキスキな感じでしょうか?ドワコさんへの愛情度が一定以上に達するとその加護の効果が表れるんですよ。ドワコさんの進む道での最適な選択が見えると言うか、未来が見えると言うか・・・そんな感じです。加護の効果が出始めると、こんな感じに思念を入れる事で少しお邪魔させていただくことが出来るようになるんです。」
「かなりご都合主義な加護だね?」
「そうですか?おかげで結構助かってると思うんですけどね?」
「言われて見るとそうかも知れない・・・。」
「ただ、この加護も万能では無くて欠点もあるんですよ。ドワコさんが絡まない事に関しては一切選択肢がわからないと言う事です。」
「ひょっとして領主の件を断ったのも?」
「領地の運営位なら別に加護なんていりませんけど?一応、過去の世界ではそれなりの役職まで上がりましたのでノウハウはありますよ?ただドワコさんの側にいたいだけと言う理由ですよ。」
「まあそういう事にしておくよ」
「と言う訳で側に行きますね」
そう言ってエリーはドワコに寄り添った。




