117.祝勝会
この夜、お城では祝勝会が行われることになった。
ドワコとエリーは聖女の部屋が使えなくなったので、別の部屋に控室が作られた。
「それじゃ今日はドレスが必要ですね。今から用意しますので少し待ってくださいね。」
ちょうどそのタイミングで部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
ドワコが誰かも確認せずに入室を許可した。
「「失礼します」」
入ってきたのはメイドのジェーンとジェシーだった。
「お嬢様、エリーさんにドレスを持ってくるように言われたのでお届けに上がりました。」
ジェーンが用件を伝えた。
「それではお着替えを手伝わせていただきますね」
ジェシーがドワコの服を脱がしにかかった。
「それでは失礼します」
ジェーンが加わりドワコにドレスを着せていった。
2人がかりだったので、すぐに着替えが終わりパーティー用の服装になった。
「お嬢様お似合いですよ」
ジェシーが言った。
「それじゃエリーさんもお着替えしちゃいましょう」
「え?」
ジェーンがもう1着ドレスを取り出した。エリーは予想外の事が起こり少し焦っている。
「エリーがそんな表情するのって珍しいね」
ドワコがからかい口調で言った。
2人がかりでエリーの服も脱がされた。
「こんな姿にされても、もうお嫁にいけません。ぐすん。可哀そうだと思うなら、ドワコさん私を貰ってください。」
「いやいや、ただの着替えだから。」
エリーの言葉にドワコが突っ込みを入れた。
あっと言う間にエリーもドレスを着せられ、ドワコと同等のパーティー用の衣装に身を包んだ。
2人共やや露出度が高い衣装なのだが、お子様体型なので、余所行きの子供服を着ているようにも見えるのが少々残念た所であった。
しばらくして会場に王族が入場してきた。そして王様が皆の前で挨拶をした。
「この度は戦勝会に良く集まってくれた。多大な犠牲を払う事になったが、我が国はミダイヤ帝国に勝利することが出来た。今はそれを皆で祝おうではないか。」
会場から大きな拍手が上がり、戦勝会が始まった。
貴族階級のパーティーではお決まりの下位の者が上位の者に挨拶に行くと言うものがある。すでに王様、王妃様、王子様の前には挨拶待ちの列が出来ている。そしてもう一つ、新しく聖女となったメロディの前にも列が出来ていた。彼女は少し引きつった顔で貴族たちの挨拶を受けていた。
「ドワコさん、聖女様がパーティーに出席すると本当はあのような感じなんですよ。正体隠していて良かったですね。」
「ほんとだねぇ」
他人事のようにドワコは言った。だが内心、正体隠していて良かったと思っていた。
「ドワコ殿、この度は我が領へのご助力感謝する。」
そう言ってドワコに声をかけて来たのは自称アリーナ村の村長、ジム領の領主ジムだ。
「いえ、私よりもエリーの方にお礼を言ってください。実質、計画から実行まで彼女が行いましたから。」
「そうだったな。確かドワコ殿が王子様と外交に出かける前だったかな。突然、エリーが屋敷を訪ねてきて戦争が起こるから準備が必要です。と言ってきた物だから驚いたよ。結果、言った通りの事になった訳だ。その時は貴重な人材をドワコ殿に渡してしまったと少し後悔してしまったよ。」
「そんなに褒めなくても良いですよぅ」
ジムがエリーを褒めた為に、エリーも少し照れ気味に言った。
「でも村に被害が出なくて本当に良かったです」
「そうだな。村人たちも感謝していたぞ。それでは他の人への挨拶があるので一旦失礼するよ。」
「はい、またのちほど。」
そう言ってジムは他の貴族に挨拶に行った。
「ちょっと、ドワコさん。」
名前を呼ばれて声の主を見た。筆頭宮廷魔導士のジョレッタだった。
「あっ、これはジョレッタさん。」
「本当にやってくれたわね。私は逃げるだけで精一杯だったのに・・・。国を救ってくれてありがと。」
「いえいえ。お姉さんも頑張りましたよ。同じようにねぎらってやってくださいね。」
「わかってるわよ」
「そう言えば・・・おめでとうございます」
エリーがジョレッタにお祝いの言葉を言った。
「え?」
ジョレッタが意味が解らずポカンとしている。
「エリー、何かあったの?」
ドワコも訳が分からずエリーに聞いた。
「そろそろ発表があるんじゃないかな。家同士では話が決まってるみたいだから拒否権は無さそうだよ?ジョレッタさんも望んだ事だし、良かったんじゃないかな?」
「え?え?」
ジョレッタは本当に知らないようで挙動がおかしくなっている。
「パーティーの途中だが、大事な話がある。皆聞いてくれ。」
王様がパーティーを中断した。
そして壇上に王様と王子様が上がった。
「突然だが、我が息子リオベルクの婚約について発表がある。」
城内がざわめいた。
「えっ、王子様・・・。」
ジョレッタが固まった。好意を寄せている人の婚約発表だと聞いて谷底に落とされたような顔をしている。
「両家で話し合った結果、筆頭宮廷魔導士であるジョレッタとの婚約が決まった。」
「えっ?」
「ほら、早く壇上に行きなさいよぅ。」
王様の発表を聞いて固まっているジョレッタの背中をエリーが押した。トテトテと数歩前に出た所でハッと気づき壇上に上がった。
会場からお祝いの言葉が掛けられた。
「ドワコ、本当に良かったの?」
そう言っていつの間にか隣にいた王妃様が言った。
「ええ、もう決めた事ですから。」
「そう?」
王妃様はしゃがみこみドワコのお腹をさすった。
「まだ、外見からはわからないかな・・・そっか。私、おばあちゃんになったのね。」
「ドウシテソレヲ?」
ドワコの顔が青くなり変な汗が出て来た。
「大丈夫、誰の子かは言わないから。あなたとエリーさんと私だけの秘密ね。でもおばあちゃんとしては、たまには会わせてほしいなぁ。」
「これからこの城とドワコ領はとても近くなります。そうすると気軽に会いに行けると思いますよ。」
王妃の言葉にエリーが答えた。
「あまり抜けると困る人がいるから、そろそろ行きますね」
王妃が戻ろうとした時にエリーが声をかけた。
「王妃様、勝手なお願いですが、この子が困った時には手を貸して頂けると助かります。きっとその頃にはドワコさんが助ける事は不可能だと思いますから。」
「あなたはどうなの?」
エリーの言葉に王妃が聞き返した。
「私は・・・手助けをするかもしれませんが、お役に立てないかもしれません。」
「そう。わかったわ。その時が来たら協力させてもらうわ。」
「ありがとうございます」
「それじゃドワコも体を大事にしてね」
そう言って王妃は王様の元に戻った。
ドワコはお腹をさすりながら少し心の中がチクリと来たように感じた。
戦勝会と称して始まったパーティーだったが、いつの間にか婚約パーティーのようになってしまい、王子とジョレッタが主役なったパーティーは無事に終わった。
そして城を後にした2人は商業地区にあるドワコの自宅へと向かった。




