115.終戦そして・・・
新しくギルバートが皇帝となったが、敗戦色が強くなりミダイヤの城下町も暗い雰囲気になってる。自分たちの国が格下の小国に負けるとは住民の中では誰も考えていなかった。
臨時の政府が置かれているギルバート邸はでは今後の方針について、狭い部屋で残った武官と文官が皇帝のギルバートを交えて話し合っている。
囚われていた5人は暫くの間、少し高級な宿に泊まってもらい、ゆっくり休養してもらうことにした。これにかかる経費はドワコのポケットマネーから出ている。
既に護衛の任を終えたドワコとエリーだが、報酬を貰っていない為、まだギルバートの側にいた。
「やはり、停戦交渉を申し入れるしかないと思われます」
「徹底抗戦で見事散って見せよう」
「占領された後は我々は責任を取らされて処刑・・・とか。いやだ、まだ死にたくない。」
色々な意見が出されたが、話し合いは平行線をたどり、結局は皇帝であるギルバートの判断に一任と言う形で決着した。
エリーが大丈夫だからと言って皇帝になってしまったが、身の安全が何も保障されていない状況だと言う事には変わらず、ギルバートは不安そうにエリーの方を見ていた。
「そんなに見つめても、私はドワコさんの物ですよぅ。てへっ。」
ドワコの方を見て顔を赤らめているエリー。ドワコは無意識にエリーの頭を撫でていた。
「ドワコさん。くすぐったいですよぅ。」
「かわいいなぁ。もぅ。」
暗い雰囲気の中、2人でイチャついているドワコとエリー。
「2人とも、今は大事な会議中なんだが・・・。」
ギルバートが場違いな事をしている2人に釘を刺した。
自分達の世界に入っていた2人はあわてて離れた。
「これは失礼しました」
ドワコが詫びる。
「せっかく良い雰囲気だったのに邪魔しないでくださいよぅ」
エリーは少しご機嫌斜めになった。
「さて、議論も尽くされたようですので私の方から提案させていただきます。」
気を取り直したエリーが皆の前で言った。
「どのような提案だ?」
ギルバートが提案の内容を聞こうとしている。会議に参加していた武官や文官はエリーとドワコが護衛だと思っていたため、発言してくるとは思わなかったようで驚いている。
「マルティ王国との休戦協定を結び、戦争を終結させることを提案します。そしてマルティ王国に占領された国土は放棄し返還を求めず移譲することでマルティ王国側への賠償とし、現在、ミダイヤ帝国が支配している地域のみで今後の国家運営を行います。この提案に不服なら武力で取り返しても良いですし、周辺の国に支援を求めても構いませんが、今の状況で戦況をひっくり返すだけの戦力があるか、支援してくれる国があるかを考えれば、このまま占領されるのを待つか、休戦し、今ある国土を残すかになります。」
「休戦協定を結ぶと言ってもマルティ王国側が受け入れてくれるかが問題なんだが・・・」
エリーの提案を聞いたギルバートが言った。他の武官や文官も同じ考えのようだ。
「それについては大丈夫ですよ。ここにいるドワコさんが何とかしてくれます。」
「ドワコは一体何者なんだ?」
ギルバートか問いかける。
「実はですね・・・。マルティ王国ドワコ領領主で今回のミダイヤ帝国侵攻作戦の最高指揮官です。」
「「「なんだって!」」」
会議に参加してるものは驚き身構えた。
「えっと、すでに我が軍がこの城下町を包囲しているので、ドワコさんに危害でも加えたら砲弾の雨が降って街中火の海ですよぉ。良く考えてくださいね。」
そう言ってエリーは無線機を取り出し、どこかと連絡を取った。すると何処からともなく砲弾が飛んできて城に着弾し爆発が起こった。
「今は城は無人なので被害が出ていませんけど、街中に落ちればどうなるかわかりますね?」
エリーが会議に参加している人たちを脅した。
皆恐怖で震えているようだ。
「休戦しますか?それとも国家滅亡を望みますか?」
「休戦しか残された道はないようだな」
皇帝であるギルバートが決断をした。会議に参加している者からは異論が出なかった。
「それではこの休戦協定に納得できるようでしたら、サインをお願いします。」
そう言ってエリーは何処からともなく取り出した休戦協定書を渡した。
「それじゃ同様の物がこちらにもありますので、ドワコさん読んでからサインお願いしますね。」
「私がサインしちゃってもいいの?」
ドワコはエリーに聞いた。
「大丈夫ですよ。今回の件は全権ドワコさんに委任されているので、好条件で戦争を終結させられただけでマルティ王国にとっては十分な成果です。これ以上望む人はいないでしょう。」
休戦協定書の中身をギルバートと文官たちが確認し、問題が無いと判断しギルバートは書面にサインをした。そして同様にドワコもサインをした。ここに両国間の休戦が成立した。
会議が終わり、ギルバート邸にはギルバートとお世話役の年配の女性とドワコとエリーの4人となった。
「それでは私たちも報酬をいただいたので、これで帰らせていただきますね。国の運営で困ったことがあれば、身内の人かマルティ王国に相談してくださいね。」
「それじゃギルバートさん。大変だと思いますけど、頑張ってください。」
エリーが年配の女性をちらりと見てエリーとドワコが2人に挨拶をしてギルバート邸を後にした。
「ギルバート、良い方に巡り合えましたね。あの人たちに会っていなかったら今頃、生きているか怪しいものでした。感謝しなければいけませんね。」
「無茶苦茶な2人組だったけど結果的に救われた訳だし、そうかもしれません。おばあ様も突然孫だと言って家に押し掛けたときはびっくりしましたけど、結果的には一番安全な所に避難していたわけですね。」
「あら?今頃気が付いたみたいですね。でも、魔導士の娘の方は私の正体に気が付いていたみたいですよ?わかっていて知らない振りをしていたようですね。」
手をつないで歩いていく2人の後姿を見ながら、ギルバートの祖母に当たる太皇太后である年配の女性とギルバートは言った。
「それじゃ冒険者ギルドへ依頼達成の報告に行かないといけませんね」
エリーに言われドワコとエリーは冒険者ギルドへと向かった。
「すみません。依頼達成の報告へ来ました。」
エリーが受付嬢に声をかけた。前回来た時は大賑わいだった冒険者ギルドは今は閑散としており、窓口も1ヵ所しか開いていない状態だ。暇そうにしていた受付嬢が対応をした。
「はっ、はい。お待ちください。依頼達成の報告ですね。・・・はい、確認しました。お疲れ様でした。報酬は・・・受け取り済みのようですね。またのご利用お待ちしています。」
処理を終えてドワコとエリーは依頼達成となった。
「お疲れ様でした。ドワコさん。今日一泊したらマルティ王国へ戻りましょう。」
「エリーもお疲れ様。ここでご飯食べていく?」
「そうですね。もう夜が近いのでそうしましょうか。」
飲食スペースも閑散としており、給仕のお姉さんも暇そうにしていた。
「いらっしゃいませー。空いた席・・・って全席空いているんですけどね。お好きな席へどうぞ。お決まりになりましたらお声かけください。」
給仕のお姉さんが声をかけ一旦奥へ下がった。
ドワコとエリーは適当な席に掛けてメニューとにらめっこをした。
「任務も終わったしお酒頼もうかなぁ」
「お酒は駄目ですよぅ」
ドワコはお酒を頼む気でいたらエリーに止められた。
「前回もだったけど、どうしてお酒を飲もうとすると止めるの?」
ドワコがエリーに理由を尋ねた。
「だって、妊娠中の飲酒は、お腹の子に悪い影響が出ますよ?」
「え?」
エリーの衝撃の一言にドワコは固まった。




