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114.クーデター

会議は良い案も出る事無く平行線をたどる。


既に兵の大半を失い、先ほど連れて来た5人からも起死回生となる案が出なかったため、すでにこの国が無くなるのも時間の問題なのかもしれない。と、この場にいる者の誰もが感じていた。


皇帝も僅かな望みにかけていたが、どうする事もできないと知り先日までの威厳を全く感じなくなってしまった。ふと、エリーを見ると魔法書を片手に何か詠唱している。


「ふはははは。今ここにいる者たちを倒せば私が皇帝だ。ここにいる帝位継承権を持つ者には悪いが、みんな死んでもらう。」


順位的にギルバートより上だが微妙な順位の帝位継承権を持つ者が急に大声を張り上げた。そして近衛兵が皇帝を守るために側に駆け寄った。だが、先ほど大声を上げた継承権を持つ者の配下と思われる部隊が会議室に突入してきた。その者たちは銃を装備していて、的確に皇帝を撃ち抜いた。


「ぐはっ」


皇帝が銃弾に倒れ少しの差で出遅れた近衛兵が皇帝に駆け寄った。だが、一度に複数の銃弾を浴び皇帝は既に息絶えていた。そして次の目標となる会議室にいる者に対し発砲を開始した。


もちろんギルバートを始め、ドワコやエリーに対しても向けられたが、そのタイミングでエリーは水属性の上級魔法である水の精霊を呼び出していた。

水の精霊が水の障壁を出し次々に銃弾が無効化され床に落ちていく。


「ドワコさんこの場はいったん引きます。後ろをお願いします。」


ドワコも抜刀し戦闘態勢となった。

エリーはギルバートの手を引き会議室の突入部隊が入った所とは別の出口から脱出した。

すでに城内は大混乱となっている。水の精霊は出口を守り敵の進入を食い止め、エリーが制御可能な範囲から離れた為に消滅した。それでもかなり時間が稼げたので3人は急いで場外へ向かった。


「時間があまりありませんが、少し寄り道をします。」


エリーがギルバートの手を引いたまま場外へ出るルートから外れ、奥の方へ入って行く。

そして何処をどう通ったかわからないが、ドワコ達3人はある部屋まで着ていた。


「ドワコさん、この扉壊してもらえますか?」


エリーが指示をしてドワコが鉄のハンマーを取り出しドアを粉砕した。

そして3人は部屋に突入した。その部屋には先ほど会議室に呼ばれた三浦裕太と4人の男女が囚われていた。5人は突然ドアが破られ入って来たドワコ達に驚いた。


「今は説明している暇はありません、急いで城外へ脱出しますよぉ。ドワコさん拘束されている物を取ってくれませんか?」


「はいはい」


ドワコが力業で5人に付いている拘束具を引き千切っていく。流石にその光景を見たギルバートと囚われていた5人は驚いた。


「ドワコさん、念のためにエリアヒールを。」


「了解。エリアヒール。」


ドワコは光属性の中級魔法「エリアヒール」を唱え全員の体力を回復させた。

5人は不思議な現象を見て驚いているがエリーが急がせる。


「あまり時間がありませんので5人共付いて来てください」


「「「「「はい」」」」」


素直に従う意思を見せた5人は、エリーがギルバートの手を引きその後を付いて行き、最後にドワコが後方の守りをすると言う並びで場外へ出る道を急いだ。

 

途中、何度か敵兵に見つかり銃弾が飛んできたが、単発式なので飛んでくる弾は少なく、ドワコが刀で切り伏せた。


「ドワコさんあともう少し頑張ってください」


ギルバートの手を引くエリーが言った。


「人使いが荒いなぁ・・・」


銃で攻撃するのを諦め、剣を持って迫りくる敵兵を倒しながらドワコが言った。

そして場外に出た所でエリーが言った。


「この城潰しちゃいますよぉ。ドラゴン召喚お願いします。」


エリーに言われた通りドワコは闇属性の上位魔法「ドラゴン召喚」を詠唱した。それに合わせエリーも「ドラゴン召喚」を詠唱した。2匹の巨大なドラゴンが突如現れ、城を破壊しだした。時には炎を吐き、時には尻尾や強力な爪で城を攻撃していく。突然現れたドラゴンに城内の者は驚き逃げ出していく。まさに怪獣映画さながらの光景だった。


2匹のドラゴンにミダイヤ城は跡形も無く崩れ去った。

ドラゴンを元に戻したドワコとエリーはギルバートと向き合った。


「ひっ!」


ギルバートは恐怖のあまり声を上げてしまった。


「ドラゴンってファンタジーなゲームとかの世界みたい」


「俺たちこれからどうなるんだ?」


驚きもあったが、助けられた5人はこれからどうなるか不安のようだ。



「ご主人様。もう大丈夫です。悪い人たちは城ごと葬り去りました。」


「私を守ってくれた事に、か、感謝する。」


エリーが伝えると恐怖におびえたギルバートが何とか答えた。


「残念ながら私たちの依頼はこれで終了となります。と言う訳で報酬をいただきたいのですが。」


エリーが依頼の終了を告げ、報酬の要求をした。


「私にはお前たちに報酬を払えるほど余裕がないと言ったはずだが?」


ドワコやエリーにお金での報酬を払えないと伝えたギルバートだがエリーがある提案をする。


「まあお金は無理なのはわかっています。なので、ギルバートさんには皇帝になってもらいます。」


「え?」


ドワコにはエリーが考えていることがなんとなくわかって来た。


「このミダイヤ帝国の国内で帝位継承権を持つ者は貴方が最上位となりました。なのでその資格はあります。」


「でも、仮に皇帝になってもマルティ王国がすぐそこまで迫っている訳だが、私が責任を取らされるのではないか?」


エリーが言った事にギルバートは不安そうに答えた。


「あなたが皇帝になれば、この戦いは終結します。これは間違いなく断言できます。」


エリーが自信たっぷりとギルバートに伝えた。


「どうしてそのように自信を持って言えるのだ?」


「それは貴方が帝位についたらお話します。ちなみに私たちの求める報酬はそれですので、貴方には拒否権はありません。出来ないようでしたら相応の金額を請求させていただきますが?金ランクの冒険者を雇う相場解りますか?」


少し悪人顔でエリーが言った。


「ひっ!」


「もちろん皇帝と言う立場ですので色々と良い思いも出来ると思いますよぉ?」


「・・・わかりました。引き受けます。」


こうしてギルバートはミダイヤ帝国の皇帝になる事になった。

そして囚われていた5人に対しエリーが言った。


「色々、大変だったでしょう?私たちが責任を持って元の世界にお返しいたしますので、どうかしばらく御辛抱くださいね。」


エリーが今度は天使の笑顔で語りかけた。


「俺たち元の世界に戻れるんですか?」


三浦裕太が言った。


「三浦裕太さん・・・ですね。すぐにお返しする事は出来ませんが、きっとお返しできると思います。」


「どっどうして俺の名前を?」


「さあ・・・どうしてでしょうね」


「実は免許証と学生証を拾いまして・・・」


ドワコが免許証と学生証の入った財布を手渡した。


「あっ、これは俺の財布・・・。でもここの人は俺たちの文字読めないはずだけど???」


「この世界にもあなた達の文字を読める人が、少数ですがいると言う事ですよ」


エリーが答えに困ったドワコのフォローをした。


「あとは・・・岡本直樹さん、松田智也さん、中川莉奈さん、小野麻衣さんですね?」


「「「「「え?」」」」」


5人は名前を呼ばれ驚く。ついでにドワコも驚いた。


「中学の同級生で大学に入って初めての夏休みに5人でキャンプに出掛けてそのまま行方不明・・・だったかな?」


「どうしてそれを?」


「前にニュースで見てお・・・ゲフンゲフン。私は何でも見通せるのですよぉ。エッヘン。」


エリーが何かを言おうとして言い直した。


「とりあえず、あなた達の身の安全は保障します。今までのように拘束はしませんので自由にして頂いて結構です。もちろん逃げ出していただいても構いませんが、元の場所に戻りたいならそのような事はしない方が良いですよぉ。」


「どこにも行く当てはありませんから、お世話になります。」


裕太が言った。



それから数日後、ミダイヤ城で行われた即位式でギルバートは正式な皇帝となった。もちろん城は破壊されて無くなっているため、城内の広場で式は行われた。

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