112.奪還作戦
翌日、同様に城で軍議が行われている。
そして、色々な話し合いが行われ、今日の会議も終わるかと思われたときにそれは起こった。
「本日、我が城の少し離れた北側にある村が敵軍により奪われた。それを奪還するためにギルバートに兵100を与える。見事奪還してまいれ。」
「えっ?・・・はい承知しました。見事、奪還して見せましょう。」
皇帝に突然指名されて驚くギルバート。
間違いなくこれは無理な任務を与えてギルバートを亡き者にしようと言う魂胆が見え見えである。
しかし皇帝から直々に指名されては断ることができない。
仕方なくギルバートは奪還作戦に行く事になった。
翌日、ギルバートは100人の兵士を前に立った。
「我々は憎きマルティ王国に奪われた村を奪還するために立ち上がった。諸君の活躍に期待する以上だ。」
そう言ってギルバートは兵を率いて進軍した。もちろんドワコとエリーも同行している。
集められた兵士たちは精鋭ではなく予備兵的な扱いの者で防具や持っている武器も統一性が無くバラバラだ。どう考えても奪還作戦に行くような部隊ではない。
「これって絶対嫌がらせだよね?」
ドワコはエリーに周りには聞こえないように言った。
「嫌がらせと言うより亡き者にして余計な継承権を持つ者を消すつもりなんでしょうね。いわゆる数減らしですね。」
エリーが答えた。行軍する部隊の中でメイド服を着た2人は目立っていた。一応ギルバートの護衛だと説明はしてあるが、兵士たちに信じてもらえているかは微妙なところだ。
「来ます。右方向。」
しばらく行軍した所でエリーが叫ぶ。
「総員、左側に退避!」
ドワコが指示を出し、兵たちはは何かわからないうちに左側に退避した。退避が終わったタイミングで先程いた付近へ次々と魔動自走砲の弾が着弾していく。大爆発が至る所で起こり、兵士たちが動揺した。
「次、後方来ます。」
エリーが叫ぶ。
それを聞いた兵士たちは、ドワコが指示を出す前に我先と前に向かい走り出した。
移動したタイミング狙ったかのように後方で爆発が起こる。
「次、もう一度後方来ます。」
兵士たちはエリーの声を聞き逃さないように必死に聞いた。このように神回避をしながら目的の村の近くまでたどり着いた。かなり走らされていたため戦う前から兵士たちはヘトヘトになっている。
「あなたたち、だらしないですよぉ。戦う前からそんなんだと勝てる戦も勝てなくなりますよぉ」
エリーが兵士達に向かって叫んだ。あの小さな体のどこからこの声が出るのかドワコには不思議でならなかった。
「仕方ないので私たち2人が片付けてきます。あなたたちは休憩してください。」
「エリー、ドワコ・・・頼む。ゼェゼェ。」
エリーの提案に走りすぎて息を切らせているギルバートが言った。
「任せてください。あんな敵ぱぱっと追い払っちゃいますよぉ。それじゃドワコさん行きましょう。」
そう言ってドワコとエリーは村に突撃していった。
「ドワコ様、エリーさん。お疲れ様です。」
出迎えてくれたのは第3護衛隊隊長のケイトだ。
「さすが打ち合わせ通りの砲撃でしたね。これも訓練のおかげですね。」
エリーがケイトに言った。先程の砲撃はすべて事前の打ち合わせ通りに行われている。連絡は無線機を使って行っている。
「それじゃ、発破の準備が出来ているようなので撤退をお願いします。」
「了解しました。それでは第3護衛隊撤退を開始します。」
第3護衛隊は撤退していった。そして残ったドワコとエリーは所々に配置したスイッチを押して回った。押した瞬間に近くで爆発が起こるようになっている。すでに村民は退避が終わっているので気兼ねなくボタンが押せた。
「ドワコさん、これ面白いですね。ぽちっとな。」
「たしかに、癖になるかも。ぽちっとな。」
2人でボタンを押す度に爆発するのを楽しみながら、ギルバートと兵士が待機している地点まで戻った。
「ただいま戻りました」
「派手に爆発していたようだったが大丈夫だったか?」
ギルバートが心配そうに2人に聞いてきた。
「余裕でやっつけちゃいましたよ。エッヘン。」
エリーが無い胸を張って言った。
「残念ながら敵は取り逃しましたが、村の奪還には成功しました。任務達成です。」
ドワコの報告を聞いた兵士たちから歓声が上がった。自分たちが戦わなくても済んで喜んでいるようだ。
ギルバートを先頭に部隊が村の中に入って行く。激しい戦闘が行われたようで村の色々な場所が爆発したような痕跡が見られた。だが家などは数軒を除き、壊れずそのままの状態で残っている所が多い感じだ。
(ちなみに破壊されている建物は空き家などで、生活に必要のない場所だけとなっていた。これは現在退避中の村人が村に戻っても日常生活にすぐに戻れるようにするためだが、ギルバートはその意図を理解できなかったようだ。)
「激しい戦闘が行われたようだな。よくぞ村を取り戻してくれた。」
ギルバートは満足そうにドワコとエリーに言った。
そして、一部の兵を残し部隊はミダイヤ城へと帰還した。
連敗続きのミダイヤ軍だった為に、細やかではあるが勝利の報を持って帰ったギルバートの部隊は城下町に入ると盛大な歓迎を受けた。
「もの凄い盛大な出迎えですね。たった村1個取り戻しただけなのに・・・。」
「それはそうですよ。マルティ王国相手に勝利と言う戦果を残した意味は大きいですよ。これから楽しみですよ。ふふふ。」
ドワコの呟きにエリーが答え悪人の笑顔をしている。この後何かありそうな予感がする。
ギルバート達は城に帰還し、その足でドワコとエリーを従え軍議へ参加した。
「よくぞ村を奪還してくれた。礼を言うぞ。」
軍議の冒頭で皇帝がギルバートの労をねぎらった。
「我々はこの余勢をかって我が城の北側に位置する町を奪還する作戦を立案した。これは大規模作戦になるため多数の部隊が必要となる。我こそと言う者は名乗り出るが良い。」
皇帝の呼びかけに、軍議に参加している人たちはギルバートが寄せ集めの部隊で村を占拠し、見事任務を達成したと言うことをあまりよくは思わず、自分たちでも簡単に出来ると錯覚を起こし次々に名乗り出た。ギルバートも名乗り出たが、これ以上戦果を挙げてしまうと他の継承権を持つ人たちが立場が弱くなるのを恐れ、今回は占拠した村の警備と言う任を押し付け、作戦に参加することを軍議に参加している皆に拒否された。
軍議が終わりギルバートは悔しそうに言った。
「我々の部隊が参戦すれば街の奪還など見やすい事なのに残念だ」
「そうですね。私たちの部隊だけでも簡単に町を奪還でたのですが残念です。」
「エリーもわかるか?私は非常に悔しい。」
エリーが肯定するとギルバートは嬉しそうに答えた。
そして数日経過し、軍議で名乗りを上げた者たちが率いる50000人の部隊は北にあるマルティ王国に占拠された町を奪還するため進軍を開始した。
ギルバート邸で町奪還の為移動する部隊を見ながら、エリーが言った。
「あらら・・・ほぼ全軍行っちゃいましたね。これで負けたらほぼ詰んじゃいますね。」
「負けるの前提なんだね」
ドワコがあきれた様子で言った。今回の出撃は会議に参加していたメンバーのうち、皇帝とギルバート以外は、ほぼ全員参加となっている。100人で簡単に奪還できるならその500倍の戦力なら余裕だろうと踏んでいるようだ。城、城下町に残るのはギルバートの寄せ集めの部隊と城、城下町を守備する部隊、皇帝の近衛部隊くらいだ。保有戦力のほぼ全部が戦地へと向かった。
ドワコ達が作戦の詳細を聞いているために、相手側に作戦が事細かく筒抜けになっているなどとはミダイヤ側は知る由もなく、すでに町の方は万全の防御態勢が整えられていた。




