111.ミダイヤ城
「先に話しておきますけど、私たちのご主人様・・・ギルバートさんですね。実は王位継承権を持ってるんです。ここでは王位と言うより帝位と言った方が正しいのかもしれませんが。」
エリーがギルバート邸に向かう途中言った。
「そうすると貴族と言う事?」
「これもまた微妙なんですよね。間違いなく血は引いているのですけど、詳しい経緯はわかりませんけど、魔がさして継承権を持つ方が、たまたま見かけて気に入った町娘との間に子供を作っちゃったんですよ。その子と言うのが御主人様なわけです。つい最近まで平民として過ごしていたのですが、継承権を持つ方が次々に戦死したり、謎の死を遂げたりで、今の皇帝を名乗る方を除くと上位の方はいなくなってしまったんですよね。それで白羽の矢が立って急遽、城に上がることになったんです。」
「そんなことになっていたんだ」
「ちなみに上位がいなくなってしまったので、継承権を持つ人物で最上位はサンドラさんですよ」
「え?」
「まあそれは置いておいて、それで御主人様は継承権を持つと言っても、かなり下の扱いなので、まともに騎士などの護衛はついてもらえず、仕方ないので冒険者ギルドに依頼したようです。まあ内容がアレなので相手にもされていないようですが。」
話をしているうちに、ご主人様であるギルバートの住む屋敷へ着いた。
呼び鈴を鳴らすと昨日応対してくれた年配の女性が出てきた。
「おはようございます。今日からお世話になります。」
「お世話になります。」
エリーとドワコが女性に挨拶をした。
「こちらこそよろしくお願いしますね。お二人ともとても可愛いメイド服ですね」
「ありがとうございます」
エリーがお礼を言って奥の部屋に通された。
「坊ちゃま、護衛の方が到着されました」
「うむ、ドワコ、エリーよろしく頼むぞ。」
「「はい」」
「こう見えても私は帝位継承権を持つ貴族なのだ。お前たちはその側近と言う事になる。そんな人に使えるわけだ。光栄に思えよ。それではこれから城に向かう。お前たちも付いてまいれ。」
「「かしこまりました」」
2人はギルバートの態度に少しムッと来たが、雇い主と言う事で顔を立て大人しく従うことにした。
移動は馬車など当然用意されている訳でもなく、徒歩で城に向かう。
やがて城門が見えてきた。城の規模としてはマルティ城の倍くらいの大きさがある。今では小国だが、全盛期はこのミダイヤ帝国が持つ領土の半分くらいはマルティ王国の物だったそうだ。全盛期の頃に建てられたマルティ城と比べ、それ以降に建てられたものがこの大きさなので、国力はかなりあるのではないかと思われる。
「大きなお城ですね」
「そうだろうそうだろう。これがもうすぐ私の城になるのだ。」
ドワコの言った言葉をギルバートが返した。エリーが言うには継承権はかなり下位だと聞いたが、その自信はどこから来るのだろう。とドワコは思った。
「まて、見かけない奴だな。」
城門で衛兵に止められた。
「所属と名前を言え」
「ひっ」
衛兵に強く言われギルバートは恐怖で声を上げた。
「そこの衛兵、帝位継承権を持つギルバート様に対し、無礼ですよ。態度を改めなさい。」
エリーが強い口調で衛兵に対し言った。
「たっ大変失礼いたしました。どうぞお通り下さい。」
敬礼し衛兵は道を開けた。
「ご苦労」
ギルバートはなんとか声を絞り出し門を通った。
「エリー助かったぞ。さすが私の護衛だ。」
「お役に立てたようで良かったですわ」
ギルバートの礼にエリーは先程の強い口調とは違いお上品に答えた。
そしてギルバートに割り当てられた部屋に入る。
本当はドアの外で誰か控えるべきなのだが、2人しかいないので外に配置できる人がいないため省略した。
「お茶です。どうぞ。」
「ありがとう」
エリーが用意したお茶をギルバートが受け取った。
「それでは今日の予定ですね・・・。この後に軍議がありますのでギルバート様には御出席いただきます。そのあとの予定は・・・ありません。そのまま帰宅して本日の予定は終了です。」
エリーが手早く今日の予定を告げる。あまりにも無さ過ぎてドワコは拍子抜けした。
というかエリーはいつの間にか秘書も兼ねているようだ。エリーのこの手の業務の優秀さはドワコが良く知っている。
こうしていると自分は全く役に立っていない気がする。とドワコが思った。
「ドワコさんはこういう業務より実戦向きですのでしばらく出番は無さそうです。私はそっち方面は全くダメなので、その時が来たらお願いしますね。」
その言い方だど出番は後でありそうだ。安心したようにドワコは任務を継続した。
しばらくして、城の者が呼びに来た。軍議の準備ができたようだ。
「それではギルバート様、参りましょう。」
「それでは、護衛を頼んだぞ。」
「「かしこまりました」」
ギルバートはドワコとエリーを従えて軍議が行われる部屋に入った。
会議膣には既に何人かの人が来ており着席している。その後ろには屈強そうな護衛が2人ずつ控えている。
ギルバートが連れているのはどう見ても小さな少女2人だ。好奇の目が向けられているがギルバートは気にしていないようだ。
「あの末席にいる人は何だ。小さな子供を護衛なんかに付けてるぞ。」
「きっと護衛を雇うお金もないのではないか?」
ヒソヒソ声が聞こえてきた。まさかその2人が敵対する国の軍隊を指揮をしているとは誰も思っていないようだ。ギルバートは序列から行くと一番後ろになるので席は末席になる。
しばらくすると全員がそろい、皇帝が部屋に入ってきた。
(あれがミダイヤ帝国の皇帝か。いかにも皇帝って感じがするな。)
この国のトップに立つのに相応しい貫禄をみせている。年は20代後半と言ったところだ。
「皆の者、良く集まってくれた。それでは今日の軍議を行う。」
皇帝の挨拶の後、担当の武官より現在の戦況の報告が行われる。
「それでは現在の我が軍の状況を説明します。マルティ王国へ進軍した我が軍は投入兵力14万人に及び、北側より進軍した我が主力10万は全滅し帰還兵はいませんでした。またそれに合わせ進軍経路として確保していた北側の港町もマルティ王国の奇襲で陥落しましたが、これも帰還兵が無く、どちらともどのような戦いが行われたかなどは不明です。西側に進軍した我が軍の別動隊4万は敵兵6000に対し5000程度の損害を与え敵軍は敗走しました。その時における我が軍の損害はおよそ5000となります。また敗走中の敵を追撃したところ謎の魔導士が現れ、我が軍を攻撃し、およそ3万の損害が出ました。一人でこれだけの兵を相手にするのは信じられませんが、5000の帰還した兵士が口をそろえて証言するので間違いないかと思われます。」
「そして北側、ササランド沿岸より敵軍が侵攻し、ササランドが陥落、奪われました。また西側よりも敵軍が侵攻したようですが詳細がつかめておりません。そして先程入った情報では敵軍を率いているのはサンドラ姫との情報が入っています。」
「サンドラ姫だと?生きていたのか!」
報告を聞いた皇帝が驚きの声を上げた。
そして会議室が騒めいた。
「これは侵攻ではなく内戦ではないのか?」
皇帝が担当の武官に聞いた。
「いえ、間違いなく背後にはマルティ王国がいるようです。おそらく裏で手を引いているのか、サンドラ姫を前に建てる事で住民の反乱を抑えるためなのかもしれません。」
「そうか。続けてくれ。」
「はい。これまでの戦闘で失った兵力の損傷率は50%を超え、危機的な状況となっています。また北部では散発的な戦闘も行われており、我が軍の被害が拡大しております。報告は以上です。」
報告を受け続けて今後の対応について協議している。そして会議が終わり解散となった。
「御主人様。お疲れさまでした。」
「お疲れさまでした」
特に何かするわけでもなく座っていただけなのだが、ドワコとエリーはギルバートの労をねぎらった。
「それでは今日の予定は終わりましたので屋敷へ戻りましょう」
エリーが言って今日は帰ることになった。




