109.転移者
ドワコとエリーは城下町で情報収集を行っていた。
特に重要視しているのが、この街で使われている技術の出所だ。
ドワコが調べていくと、確かに新しい技術が使われているのだが、中途半端だと感じた。技術として完成していないのだ。電気に関しては電球以外に使われている形跡が無いし電圧が安定していないのか光度に安定が無い、料理にしても良い所まではいっているが、調味料の不足があるようで不味くはないが、詰めが甘い味になっている。宿のシャワーもお湯が最初は適温で出るのだが、少し長めに使うと水になり、初めに溜めたお湯を使うだけの仕組みのようで追い炊きの機能が備わっていないように感じた。
色々と聞いて回ると変わった服を着た5人組の話が出て来た。2年くらい前にその人たちが現れてから、城下町の様子が変わって来たらしい。ドワコは1年前に来ているので、そのさらに1年前くらいには謎の5人組はこの城下町にいたと言う事になる。構成は男3人、女2人らしい。
「そう言えば以前、、内戦終結後、急激に国力を回復していたと言う話を聞いた記憶があるけど、関係ありそうだね。」
「さすがドワコさん。良い所に気が付きましたね。」
今日は朝からエリーがずっと腕に絡みついている。機嫌はとても良さそうだ。
そして情報収集を続けると、ある日を境に姿を見なくなったそうだ。それまでは街中でよく見かけられ、5人の時もあれば、1人の時もあったようだが、建物を建てる建築現場で指導している所や、農業指導をしている所、工房などで何か作業している所などが見かけられたそうだ。噂によれば、ある日とは銃の開発が行われた辺りではないかと言う事だ。
ドワコはエリーを連れて息抜きに武器屋へ行った。新しい街に行った時はこれをやるのがドワコの楽しみとなっている。
「これだけ発展しているなら武器屋も面白いのがありそうだな」
「どうでしょう?」
武器屋に行ってドワコは少しがっかりした。売られている物は新品や中古など様々あったが、普通の剣などで特に真新しい物は無かった。何軒かまわってみたがどこも似たような感じだった。商品に対してはそうだったが、鍛冶屋がある関係かもしれないが、取次だけなのかもしれないが、武器の修理を取り扱っている店もあった。
「ちょっと期待はずれだったかも」
銃の取り扱いが無いか聞いてみたが、あれは軍専用と言う事で普通の武器屋には売っていないそうだ。
ドワコとエリーが路地裏に入ると、ドワコやエリーと同じくらいの身長の少女が体つきの良い男たちに囲まれていた。
「ようよう、よくも俺様にぶつかってくれたな。痛かったじゃないか。」
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
少女は何度も謝っている。
「よく見たら結構可愛い子じゃないか。どうだ?俺と楽しいことしないか?」
男の1人が複数の男たちに押さえつけられた少女の服を脱がしていった。
「いやー。やめてー。誰か助けてー。」
少女は嫌がり声を上げた。
「キャーキャーうるさいんだよ」
そう言って他の男が裸にされた少女の頬に平手打ちをした。
「キャ!」
少女は吹っ飛ばされて倒れた。
「あなた達、いい加減にしなさい。」
ドワコが男たちの後ろから大声で言った。ドワコの声は高くてアニメ声なので全く声に威圧感がない。
「なんだ?仲間か?ちょうどいい。お前たちも同じようにしてやるから大人しくしていな。」
ドワコとエリーに向かい男たちは笑みを浮かべ近づいてきた。エリーは後ろに下がりドワコが前に出た。
男がドワコを掴もうとしたが、その手をドワコが掴んだ。
「なんだこいつ、すごい力だ・・・いてててて。」
そのままドワコはその男を放り投げた。
「このアマ、なめた事をしやがって。」
男たちが一斉にドワコに襲い掛かった。だが、ドワコの放つかなり手加減されたパンチを受け次々に男たちが吹き飛ばされていった。
「いてててて・・・。畜生、覚えてろよ。」
男たちは去っていき、裸にされた少女が座り込んだままドワコの方を見ていた。
「お嬢さん、大丈夫かい?悪い人たちは追い払ったよ。」
ちょっと格好をつけて言ってみたが、ドワコの声ではあまり効力がなかったようだ。
とりあえず、ドワコは少女に怪我が無いか体を隅々まで見た。
「ドワコさん目がエッチです」
「そっそんなことは無いよ・・・けがの程度を見ていただけだから」
エリーに少し思っていた事を言われドキッとしたが慌てて否定する。
「ちょっと怪我の具合を確認させてね」
「はっはい・・・」
怯える少女の体を触りながら異常が無いか確認した。
「頬が赤くはれて口の中が少し切れてるね。あと、転んだ時なのかな・・・擦り傷が数か所あるね。」
「ドワコさん・・・」
「は、ハイなんでしょう?」
ドワコが診察を終えたタイミングでエリーが話しかけて来た。
「別に調べなくても、そのまま回復魔法掛ければ良いんじゃないですか?ドワコさん・・・私と言う者がいるのに浮気なんて酷いですぅ。」
エリーがいつの間にか少女に脱がされた服を着せていた。ドワコは魔法書を取り出し「ヒール」を唱え少女の傷を癒した。
「ありがとうございます。魔導士の方だったんですね。」
「それでどうしてあんな事に?」
「はい、たまたまそこの通りを歩いていたら、先ほどの人たちが私にぶつかって来まして、そしたら私が悪いみたいなことを言い出して。」
「言いがかりを付けられた訳なんだね。」
「はい」
「助けてくれたお礼に何かしたいのですが・・・」
少女が申し出る。体の方は十分堪能させてもらったのでドワコは特に思い浮かばなかった。
「いてててて・・痛い、痛いよー。」
エリーに後ろからナイフで刺された。刺された所から血が出てきた。
「ドワコさん、さっき変なこと考えてたでしょ。プンプンですよぉ。」
エリーが刺したナイフをぐりぐり回す。
「そっそれ痛いから」
エリーは刺したナイフを引き抜き「水の癒し」で傷口を治療した。
「お二人とも変わってるんですね。これは愛情表現なのでしょうか?」
目が点になっている少女が言った。
「ごめんなさい。取り乱してしまいました。えっと変な服を着た5人組の話知らない?男3人と女2人らしいけど。」
エリーが改めて少女に聞いた。
すこし考える動作をした少女が思い出したように言った。
「裕太お兄ちゃんたちの事かな?」
「三浦裕太?」
「そうだよ。裕太お兄ちゃんの事、知ってるの?」
「名前だけ・・・ね」
ドワコが聞きなおした。来る途中に見つけた財布の中に入っていた免許証、学生証に書かれている名前と同じだ。間違いなくこの城下町にいたようだ。
「それでその人たちの事教えてくれないかな?」
「いいよ。んとね2年位前かな・・・この城下町にやってきて・・・と言うか連れて来られたんだけど、その時は縄で縛られた状態だったって。5人共変わった服を着ていてその時は町中話題になったよ。」
(最初は拘束されてここに連れて来られた訳なんだな)
「それから少しして町中で色々新しい事を教えて回ったみたい。うちのお店にも裕太お兄ちゃんが来て新しいメニューの開発とか手伝ってくれたよ。」
「おうちは飲食店か何かやってるの?」
「そうだよ。食堂やってるんだ。ちょうど足りなくなった食材を買いに行ってた所でこんな事になっちゃって・・・。」
「でもね、技術料って言って新しく開発したメニューの品物が売れるとそれに重い税金が掛けられちゃうんだ。売り上げが上がったからその分、利益は出ているんだけどね。」
「それで今どこにいるかわかる?」
「なんか内戦が終わる前くらいの所で城に閉じ込められたって噂が出ていたよ。詳しくはわからないけど・・・。」
「そっか。ありがとう。話が聞けたのがお礼って事でいいよ。それじゃ気を付けて帰ってね。」
「助けてくれて、ありがとうございました。」
これ以上情報が出ないと判断したドワコは少女と別れた。
「確証は持てないけど城にいるっぽいね」
「問題はどうやって城に入るかですね」
「エリー、何か良い方法はない?」
「ありますよ。最初に冒険者ギルドに行きましょう。」
ドワコとエリーは冒険者ギルドへ向かった。




