103.アリーナ村での戦闘
ドワコが東の地で戦っている頃、エリーは第3護衛隊を率いてアリーナ村に来ていた。
以前、実家に帰ると言って長期間いなかった時期があったが、実はこの戦闘の為の根回しをするためであり、すでに柵の強化、兵の訓練などを行っていた。
既に村には敵襲に備え土嚢が積んであり、アリーナ村を守る兵士たちには自動小銃が支給され訓練も終わっている。それに第3護衛隊の持ってきた魔動戦車が2両、魔動自走砲が2両、魔動装甲輸送車3両が配置されている。魔動投石車はアリーナ村の兵に対して訓練が行われていて、今回の戦闘の為に10台が配備されている。通常はこれを2人で操作するのだが、今回は人数が不足しているため1人で扱ってもらう事になる。兵数はアリーナ村の守備兵が50人、第3護衛隊が20人の計70人だ。これで流れ込む敵本体を叩く計画だ。
領主であるジムも甲冑に身を包み、いつでも戦闘に参加できる準備が出来ている。
そして偵察に出ている魔導飛行機から連絡が入る。
「敵発見。数およそ10万。方角は・・・。」
「それではケイトさん、ジム様。最初の打ち合わせ通りお願いします。」
「「了解」」
最初に射程の長い魔動自走砲が砲撃に入る。魔動飛行機からの着弾報告を元に的確に必要な場所へ撃ち込んでいく。この自走砲は射程が20km程度あるので敵兵は対抗手段がない。砲撃の合間にはドワコ領から飛び立った魔動戦闘爆撃機の編隊が敵部隊へ爆弾を投下していく。降下したのちは補給の為、一旦基地に戻る。相手が反撃できない遠距離攻撃により、見る見るうちに敵の数は減っていく。それでも数に物を言わせ進軍しアリーナ村に迫って来た。
「魔動投石車、投石はじめ。」
魔導投石車の射程に入った所で、ジムの合図で魔動投石車から多数の爆弾入りブロックが投石され、至る所で爆発が起こる。そして魔動戦車と魔動装甲航輸送車が村の前に陣取り壁になりそのままの状態で射撃、砲撃を行う。敵兵も銃による反撃を試みるが装甲を破ることが出来ずダメージを受けない。そしてアリーナ村の兵士たちは土嚢の隙間から自動小銃による銃撃で敵兵を減らしていく。
エリーも隙を見て水属性の上位魔法「アイスジャベリン」を使用し多数の敵を倒していく。
「まさか本当に裏切るとはな・・・」
ジムが言った。ミダイヤ側に付いたのはマルティ王国の北側に位置する港のある諸国連合に属していた国だ。マルティ王国からはこの国を経由しないと海に出ることが出来ず、大事な経由地だった。海経由で入って来たミダイヤ帝国の本隊と離反した国の連合軍がマルティ王国を目指して南下して進軍してきたわけである。進軍する先に一番近い場所がここ、アリーナ村と言う事になる。ミダイヤ帝国はここを拠点としてマルティ城へ侵攻する計画だった。だが、エリーの機転であらかじめ防衛ラインが敷かれ迎撃できる準備を整えてあった。
それと同時に、既に敵の退路は断たれている。ブリオリ国を経由して第4護衛隊が運用する試作船と新型艦・・・軽空母はミダイヤ側に付いた国の沿岸にて城に向かい砲撃と航空部隊による空襲を行い城のみを破壊した状態で降伏させ、サンドラの率いる上陸部隊が港町を占領している。
ジムは部隊を率いて既に掃討作戦に入っている。残った敵兵を片っ端から倒していく。
アリーナ村側の損失はほぼなく、圧勝であった。
ちょうどその頃マルティ城は大混乱だった。会議室には東側での戦闘により第3~第5騎士団は壊滅、すでに撤退を開始し被害はおよそ5000。敵軍約35000がマルティ城に向け進軍中。また北部の諸国連合に属していた国が離反。敵連合軍約10万がマルティ城を目指し南下中との報が入った所だ。単純計算でマルティ城の守備部隊の兵数は約4000。対して敵総数は約135000と言う圧倒的兵力差である。
「王様・・・これはもうだめかもしれません。どこかに落ち延びる事を考えたほうが良さそうです。」
側近が王様に進言した。
「ワシはここに残り最後まで抗戦せねばならない。そなたら2人は落ち延びてくれ。」
王様は王妃と王子にそう言った。
「仕方ありませんわね。逃げるとすると行き先はドワコ領かしら。」
王妃は落ち延びる先を考える。
「・・・」
王子は考える事がいっぱいありすぎ、言葉が出ない状態だ。
会議室内が暗い雰囲気になる。
「まずは城下町に住んでいる者の避難が先じゃ。すぐに退避命令を。退避先はドワコ領だ。」
国内でこの城下町を除き、まともな受け入れ環境がある場所となると選択肢はドワコ領だけになる。王様が兵士たちに命令をし、城下町に退避の指示を出す。その日のうちに荷物をまとめ、城下町に住む者たちは王妃と王子が指揮する僅かな兵と共にドワコ領を目指し出発した。
一方ドワコ領ではエリーが事前に予測していたために、すでに受け入れ準備が整えられていた。難民用キャンプを作れるだけの土地とテント、水、食料など想定された5万人分をすでに用意してある。
城下町の住民がドワコ領に向け出発した翌々日、会議室に2方面より伝令が来た。
「ご報告します。北側のミダイヤの陣営に入った国より進軍してきた敵軍約10万はアリーナ村にて戦闘。ジム領の警備隊並びにドワコ領護衛隊による共同軍により殲滅。撃破したとの報が入りました。また合わせて、ドワコ領護衛隊が北側のミダイヤ帝国側に付いた国を降伏させ占拠したようです。」
「ご報告します。東側のミダリア帝国軍との戦闘に敗れ、撤退途中だった我が軍は治療部隊が殿を務め敵部隊約35000を相手に戦闘し勝利したようです。」
2件の報告を聞き会議室にいた者は耳を疑った。どう考えても数字がおかしいのだ。まずジム領にいる兵士だが、ドワコ領護衛隊を含めても多く数えても100人程度しかいないはずだ。どう考えても10万の敵を相手にして勝利するのはおかしい。それに我が軍の治療部隊は20人の少数だ。どう考えても35000の敵を相手できる物ではない。
「いったいどうなっておるのだ?」
王様は圧倒的不利だった状況がいつの間にか自軍の勝利で終わっている事に驚いている。
ドワコ領の護衛隊が強力な兵器で武装している話は少し前に王子から聞いていたが、この圧倒的な戦力差をひっくり返せるような強力な物とは思っていなかった。
ちょうどその頃、王妃と王子が率いる僅かな兵と城下町の避難民を連れた一行はドワコ領に到着した。
「久しぶりに来たけど、かなり様子が変わりましたね。」
高い高層建築が並び、街を行き交う魔動鉄道と魔動車、そして多くの人々・・・。同じ国の中とは思えない光景に見えたようだ。
「ここに姉さんがいるのね。元気にしてるかな。」
同行している筆頭宮廷魔導士のジョレッタが言った。ジョレッタの姉はドワコ領で第4護衛隊を任されているカーレッタだ。
「お久しぶりです王妃様。現在ドワコ領の領主補佐をさせていただいていますデマリーゼです。」
デマリーゼが出迎えた。
「すでに収容する土地の確保と各種物資の調達は終わっています。ここから少し遠い場所になりますので何組か分けて移動していただく事になります。避難してきた方々は我々の護衛隊が引き継ぎますので、王妃様をはじめ皆様は砦にてゆっくりとお休みください。」
「ありがとう。世話になるわね。」
第1、第2護衛隊総出で避難民をムリン国城のあった場所に作られた難民キャンプへ案内する。領内のありったけの魔動車が集められ魔動鉄道と合わせて次々に難民キャンプまで輸送していった。距離はそれなりに離れているが、道路が整備されているので魔動車での移動もそこまで時間もかからず、魔動鉄道はジョディ村からムリン国城があった場所で今は分譲住宅地になっている所までは大量輸送を可能にするため予め長編成での運用が想定されていた作りになっている。これを最大限に利用すると1度に数百人単位で運ぶことが出来る。難民キャンプではドワーフの親方の指示の下でドワーフ達と村人が手早くテントを建てていく。全員の移動が完了する頃にはテントの設営が終わっていた。そして村人たちの有志が集まり炊き出しを行っている。
「今が戦時なんて思えない位、快適ですね。」
王妃は砦内にある浴場で一息ついている。デマリーゼから疲れを癒してきてくださいと勧められ浴槽につかっている訳だが、湯船から噴出される無数の泡を含む水流が体をほぐし心地よさが伝わってくる。十分堪能した後で浴槽から出て、控えていたメイドが王妃の身支度を整え幹部の集まっている会議室へと向かった。
王子も同様にお風呂に入っていたようで、多少なりにも落ち着きを取り戻しているように見える。
「さて、これからの事ですが、マルティ城が落ちるのも時間の問題でしょう。その後、私たちは徹底抗戦するか、それとも他に落ち延びるのかを考えなければなりません。」
王妃がそう皆の前で切り出す。城から落ち延びて来た王子やジョレッタを含む幹部たちは真剣な顔をして今後の事を考えようとしている。
それに対しデマリーゼを筆頭に、ドワコ領の幹部たちはあまり危機感を感じていないような表情で話を聞いている。
「あなたたち、国家の危機と言う認識がありますの?」
ドワコ領の幹部に対しジョレッタが大声を張り上げた。
「お言葉を返すようですが、私共は今の状態を国家の危機と感じておりません。」
デマリーゼがはっきりと言った。
「なっなんですって」
ジョレッタは大声でデマリーゼに向かって叫んだ。
「それは私の方から説明させていただきます」
そう言って現れたのは聖女服に身を包んだドワコだった。




