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102.祭りが終わって

ドワコ達は花火大会の会場に来ている。


と言っても同じ基地内なので移動には時間がかかっていない。

ここでは安全の為にドワコを含め関係者席は別に設けてある。すでに幹部とドワコと親しい人たちが集まっている。


「ドワコさんこちらへどうぞ」


エリーが席に案内した。


「ありがと」


ドワコが席に座るとメイドのジェーンが飲み物を持ってきた。


「お嬢様、お飲み物です。こちらに置いておきますね。」


「ありがとう」


ジェーンがドワコの席の前に置かれているテーブルに飲み物を置いた。


「そろそろ始まりますよ」


エリーが言うとタイミングを合わせたかのように1発目が上がった。


パーンと花火が開き歓声が上がる。今、ここにいる者で花火を見た事がある人はあまりいないだろう。火薬類もドワコが提唱してから研究が始まっているので、他国でもあまりないかも知れないとドワコは思った。


花火の色はまだ研究中なので少ないが、迫力は十分にあると思う。


「今日はみんなありがとうね。来年もみんな揃って盛大にお祭りが開催したいね。」


ドワコは言った。皆はその言葉を聞いて頷いた。

花火も終わり、お祭りは終了した。村人たちは片付けを手伝い会場の撤収作業を進めた。

程なく片付けも終わり、皆が会場を後にした。



それから数日後、ドワコ領は朝から大変だった。マルティ城からの使者が来て緊急会議が行われるため、ドワコは聖女として城へ行くようにと命令が下った。


「ドワコさん、この先に起こる事を伝えておきますね。」


執務室でエリーが真剣な表情になって言った。

いつもは余裕の表情で何事も問題なく処理してしまうのだが、今回は違うようだ。


「まず、今回の呼び出しは、ミダイヤ帝国の宣戦布告による今後の対策を考えるための招集です。聖女の仕事として治療部隊を率いて参戦しないといけないと言うのは知ってますよね?」


「見習いの時に説明を受けた気がします」


エリーの問いかけにドワコは答えた。


「それで第3~第5騎士団が徴兵された平民を率いて東側に向けて出陣するはずです。それにドワコさんも付いて行く事になると思います。」


「まあそれは良いです。ドワコさんがいるので、敵がいくらいようと負ける事はありません。問題は今回の会議では議題にも上がらない・・・と言うか今の時点では知るはずのない事が起こります。マルティ王国軍の本体がミダイア帝国軍の囮部隊と交戦している間に諸国連合の一部の国・・・以前ドワコさんがオサーン公国に渡る時に経由した港町のある国なんですけど、ミダイヤ帝国側に付いてしまいます。そしてその国経由でミダイヤ帝国軍の本隊が大挙して城下町に押し寄せ・・・マルティ城は陥落します。」


「え?」


ドワコが驚いて聞き返した。


「今、諸国連合とマルティ王国は同盟関係ではありませんが、それに近い状態です。なので、招集されている会議でこの事を言っても誰も信じてくれないと思います。そこで、私に一部の軍を預けてもらえませんでしょうか?この危機的状況を打破して、きっとお役に立てると思います。」


「どれくらいの兵力が必要?」


「試作船と建造が終わった新型船、それと第3、第4護衛隊、サンドラの管理する部隊と付帯する魔導兵器類が必要になります。」


「この領地の兵のおよそ7割か・・・そんなに出して大丈夫なの?」


戦争となる事を聞かされたのでドワコが不安になり聞き返す。


「今回の戦争ではこの領地が攻められることはありません。本当は全力投入したい所ですが、不測の事態に備えて第1、第2護衛隊を領地に残します。」


「わかった。エリーに指揮権を預けます。でも無理だけはしないようにしてくださいね。」


「わかりました。時間も余り残されていないので早速準備に入らせてもらいます。・・・ドワコさん。」


「何?」


「今回の相手は魔物ではなく人になります。それがどういう意味か理解して今後の行動を決めてください。」


「わかったよ」


エリーが念を押したように言った。

その後ドワコは単身マルティ城へ向かった。



今回は急を要する案件なのでワイバーンを使い直接城内へ降り立つ。出迎えの兵士たちに案内され、国の首脳部が集まる会議室へと向かった。すでに皆が集まり会場は今後の方針について話し合われている所だった。


「ドワコ忙しい所すまんな。今回は急な要件なのでこらえてくれ。」


王様が申し訳なさそうに言った。


「それでは聖女も来たので改めて説明を頼む」


王様が今回の概要説明をする文官に対して言った。


「はい、それでは改めて説明させていただきます。内戦を続けていたミダイヤ帝国の内戦が終わり1つに統一がされました。それから急激に軍備を整え、我が国と諸国連合を除く隣接する国々へ不可侵条約を結び、後方から攻められる可能性を断ったようです。そして先日、我がマルティ王国ならびに諸国連合に対して宣戦布告が行われました。」


(エリーの言った通りだな)


「すでに諸国連合の一部の国にはミダイヤ帝国軍が押し寄せているとの報も受けています。我が国へは高い山々と諸国連合に囲まれており、すぐに攻めてくる可能性があるとすれば東側の1ヵ所のみとなります。我々はそこに全兵力のおよそ6割の兵を配置し、防御陣を敷き抗戦する作戦です。これには第3~第5騎士団と徴兵された平民の兵6千を充てます。」


約20年前にあったミダイヤ帝国との戦争ではこの地形の利があったために抗戦でき、内戦がおこるまでの時間が稼げたらしい。


「ドワコ、このような作戦になっておる。もちろん聖女として治療部隊を率いて戦いに参加してもらう事になる。」


「はい、わかりました。微力ながら協力させていただきます。」


(エリーが言うには私たちが相手にする敵部隊は囮部隊だと言っていたな)


「それでは準備が出来次第すぐに出陣してくれ」


王様の掛け声で第3~第5騎士団の隊長は立ち上がり、出陣の準備に入った。

そして準備を整え城から出陣していった。



現在ドワコ達、治療部隊は東の国境手前まで来ている。ドワコ達の部隊の前には第3~第5騎士団とそれぞれに率いられた平民の兵、合計約6000名が陣取っている。


前線が遠いところにあるので、どうなっているか把握できないが、すでに戦闘は始まっているようで次々に負傷兵が運び込まれてくる。傷の具合を見ると弓矢によるものが多く、銃による負傷は今の所確認していない。ドワコは回復魔法を駆使して兵士たちを癒していった。


だが、戦闘が始まりしばらくした頃、運び込まれた負傷兵の中に銃による負傷者が運び込まれるようになった。治療部隊の者にはあらかじめ対処方法を伝えておいたので、体内に入った弾を抜いた状態でドワコの元に連れてこられた。そしてそのまま回復魔法を使い治療していった。そして少し経ち、負傷者はどんどん増えて行き、第4騎士団壊滅、第5騎士団壊滅、第3騎士団壊滅の報が届き撤収命令が出た。ドワコ達は命令に従い撤収準備を進め撤退を行った。だが、治療部隊は色々な装備品がある為、足が遅く目前まで敵に追いつかれてしまった。


「聖女様いかがしましょう?」


治療部隊の小隊長がドワコに聞いてきた。


敵の数はおよそ35000、うち銃を装備した部隊もいるようだ。それに対し、ドワコ達は治療部隊20名、治療に運ばれ回復した兵士1000名程度だ。どう考えても勝てる数字ではない。


もう、残された手段はこれだけしか無いようだ。


「私が足止めをしますので、あなたたちは城まで後退しなさい。」


ドワコが決心したように伝えた。


「それでは聖女様を危険にさらす事に・・・」


「そんな事を言っている場合ではありません。ここは私に任せて命令通り撤退してください。」


「わかりました・・・」


小隊長は渋々受け入れ部隊は撤退した。



平原の真ん中には青と白の聖女服を着たドワコが1人立っている。対する敵兵はエリーが言うには囮と言っていたが、概算で35000人だ。敵の射程に入る前に、ドワコは魔法書を手に持ち、詠唱を始めた。続けざまに、それぞれの属性の上位魔法で召喚魔法のドラゴン、火の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊、光の精霊を呼び出した。


相手は人間なので相手を殺す事になるが、そうしなければ国が守れないと自分に言い聞かせドワコはそれぞれの召喚獣に対し攻撃命令を下した。ドラゴンは強力な火炎で多くの敵兵を焼き、同じく火の精霊も何処からともなく炎を出し兵たちを焼き尽くしていく、水の精霊は強力な水を浴びせ敵兵たちを砕いていく、風の精霊は風の刃を敵兵に無数に投げかけ体を分断していく、土の精霊はその力を武器に次々に敵兵を潰していき、光の精霊は強力な光を照射して無に帰していく。


そして再詠唱時間を回復したドワコは、一気に殲滅するために闇属性の上位魔法「ブラックホール」で多数の敵兵をまとめて吸引し、火属性の上位魔法「雷撃」で広範囲にわたり敵兵を焼き、水属性の上位魔法「アイスジャベリン」で氷の槍で多数の兵をくし刺しにし、風属性の上位魔法「カマイタチ」で敵兵たちを無残に切り裂き、土属性の上位魔法「流星」で空から降って来た多数の燃える隕石を落とし敵兵を押し潰していった。全属性の上位範囲魔法を使用した後で、残った僅かな敵兵はドワコが刀で切り捨てていった。1人対3万5千人の戦闘は敵部隊全滅と言う圧倒的な勝利によって数分で決着がついた。僅かに残ったミダイヤ帝国の兵士たちは武器を捨てて撤退したようだ。


撤収した敵兵を見送ったドワコは戦場となった場所に1人で立っていた。周辺には死体の山が出来ている。肉体的な疲れはないが、精神的には非常に疲れている。


ドワコは沢山の人を殺めてしまった事で、もう後戻りをすることが出来なくなってしまったと思った。

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