101.お祭り
ドワコ誕生祭が始まった。
始めに、建造中の船の全通甲板から5機の魔動戦闘爆撃機が飛び立ち曲芸飛行を始めた。そしてスモークを出しながら空に絵を書いていく。会場からは大きな歓声が上がった。そして飛行が終わると建造中の船に戻っていった。魔動機の重量は内燃発動機よりはるかに軽く高効率で出力が高い。その為、揚力を稼ぐために船を風上に向けて全力航行する必要がなく、停船状態の短い滑走路でも離発着が可能となっている。
そしてそれが終わり、魔動戦車と魔動装甲輸送車など戦闘用魔導車の紹介そして演習・・・と前半はどこかの基地祭のようなプログラムになっていた。
「このプログラム考えたの誰?」
観覧用の席で演習風景を見ていたドワコは言った。
「私ですけど何か?」
恐る恐る手を上げたのはメロディだった。
「もしかして基地祭とか行った事があったりします?」
ドワコが聞いた。
「実は結構好きだったりします。前は全国各地の基地祭を見て回った事もあったんですよ。まさか自分で企画する事になるとは思いませんでしたけどね。」
「まあ領民に対する軍の広報活動としては間違ってないですよ」
ただ、誕生祭のイベントとしてやるのはどうかとドワコは内心思った。
軍関係のプログラムが終わり、しばらくは自由に行動できる時間となっている。ドワコもエリーと一緒に会場を見て回っている。それぞれの出店には長い列が出来て食べ物を買い求めている。そして一際長い列があり、列の先を見ると、改装が済んだ試作船へ続いていた。
「せっかくなので船の見学会もやってみました。領民の方々は興味あるみたいで大盛況ですね。」
エリーがニコニコしながら言った。甲板の上には人影がいっぱい見える。果たして船の中にはどれくらいの人が入っているんだろうとドワコは思った。
「大丈夫ですよ。データを取るために乗船した人は数えてますので後で報告しますね。」
「さすが抜かりがないね・・・」
ドワコは周りを見渡した。おそらく領民の半数以上はこの会場にいると思う。着ている服もシアの店で売られているものを着用している人が多く、継ぎ接ぎだらけの服を着た者は会場内には居なかった。
「お姉ちゃんのお店大盛況みたいですよ。今では西側、北側の国からも商人が買い付けに来ているみたいです。」
エリーが言うお姉ちゃんとはシアの事である。幼い頃から姉のように接してくれたのがその理由のようだ。シアは大量生産と低コスト化による格安の衣類販売を行っている。今まで購入層として見られていなかった人口比率では大多数を占める低所得者層までターゲットに入れた販売方法は、マルティ王国内で受け入れられ多大な利益を生み出しているようだ。
「たしか出店があるはずだけど・・・あった。あそこですね。」
エリーがドワコをシアの出店へと案内した。そしてドワコは目が点になり固まった。
売られているのは、ドワコをディフォルメ化した可愛いイラストの描かれているTシャツのような服をメインとしたドワコグッズの数々だ。いつも販売している物とは違い、完全にイベント向けの商品になっている。
「シアさん、これは何?」
「エリーに頼まれたので急いで作ったんですよ。あまり利益とかは考えてなかったですけど、いい感じに売れてます。」
思いのほか利益が出ているようで笑顔でシアが答えた。よく見ると、金髪ドリルヘアの女性と長い耳が特徴の銀髪エルフの女性が沢山の商品を抱えてレジの列に並んでいた。2人共、意識がどこかに行っているようなだらしない顔をしていたのでドワコは見なかった事にした。
「それじゃ他の所も見て回りますのでまたね」
「はーい。楽しんできてね。」
シアの出店を離れドワコとエリーは次の店へ行った。
このエリアには食べ物関係の出店が並んでいる。運営は村の人たちで行っているようだ。
「ドワコさんどうぞ」
とエリーが言って大きなバスケットを渡してきた。
ドワコを見つけた店の人が声を上げた。
「あっ領主様だ」
その声に気が付き周辺にいた者がドワコの方を見た。そして店の者たちが売られている食べ物を次々に持ってきた。
「領主様どうぞ。この領地で売られている調味料を使った食べ物です。」
「ありがとう」
そう言って渡された食べ物を口に入れた。
調味料で程よく味が付けられ、とてもおいしかった。
「私好みの味付けでとても美味しかったです」
「ありがとうございます」
ドワコが感想を言うと食べ物を持ってきた店の者が、嬉しそうに自分の出店に戻っていった。
そしてそれを見た他の店の人たちが、次から次へと食べ物を持ってきて食べきれない量なので、エリーに渡されたバスケットに入れる事にした。だが、ドワコの持っていたバスケットはすぐに満杯になった。
「ドワコさん、これをアイテムボックスにしまってください。はい、どうぞ。」
次のバスケットを渡され、これもすぐに満杯になった。エリーに次々とバスケットを渡され、アイテムボックスに収納していった。ほとんどのお店から食べ物を渡され、食べきれるか少し不安になったが、アイテムボックスに入れてあるので痛むことは無いので、あとでゆっくりと食べる事にした。
「それじゃ、私はこの後、用事がありますので失礼しますね。」
そう言ってエリーはドワコを置いて何処かに行ってしまった。
1人取り残されたドワコは次に何をしようか考えた。
少し離れた所にドワミがいたので行ってみる事にした。
「ドワミなにしてるの?」
「あっドワコ。小さくした魔動鉄道を作って子供たちに乗ってもらってるんだ。」
そこには小さな魔動鉄道が作られミニSLくらいの大きさの車両が3両連結してあり子供たちが乗っている。順番待ちの列も出来ていて大盛況のようだ。
「子供たち喜んでいるみたいだね」
「とても喜んでいるみたい。一度乗り終わったら、また列の最後尾に並びなおしている子もいるよ。」
「一人だと大変じゃない?」
「運転は自動運転だから私は見ているだけだけどね」
ドワミのいる所には小さな操作卓が置かれている。おそらくそれで操作をしているのだろう。
ドワコはしばらくの間、子供たちの笑顔を見ながら時間を過ごした。
「それじゃ私は行くね」
「はいよ。主賓なんだから楽しんできてね。」
そう言ってドワコは別の場所へ移動した。
色々と見て回った所で会場内に設置されたスピーカーからエリーの声が聞こえた。
「お待たせしましたぁ。間もなくステージイベントを開催しまーす。ご覧になられる方は特設ステージ前にお集まりくださーい。」
どうやらステージイベントが始まるようだ。ドワコは一般の参加者に紛れて見る事にした。幸い比較的前の方の席に座ることが出来た。
「お待たせしましたー。ただ今よりステージイベントを開催します。まず最初はドワコさんのこれまでの活躍を劇にしましたのでご覧ください。」
「え?」
エリーのアナウンスを聞いたドワコは嫌な予感がした。そして劇が始まった。
ドワコ役はドワミがしている。確かに背格好は似ているので適任なのだが・・・。
「コンナマモノ、ワタシノコノスペシャルナハンマーデフンサイシテクレヨウゾ。」
セリフは間違えていないようだが思いっきり棒読みだ。話はドワコが砦の隊長をしていた頃に起こった魔物との戦いをメインとしているようだ。
そして、ぎこちない動きで魔物役の兵士たちを倒していく。そして仲間たちの協力もあって何とか魔物を退けた。
そこで劇が終わり、会場からは大きな拍手が上がった。
(恥ずかしいシーンはカットされていたようで助かった)
「それでは次のプログラムは・・・」
エリーの司会の元で次々とステージイベントが進んでいく。
「それでは最後にドワコ領美人コンテストぉ~」
会場から盛大な拍手が上がった(特に男性から)。
「今から予選を勝ち抜いた美人がアピールしていきます。最終的に審査員の得点の高かった人が優勝となります。なんと優勝賞金は・・・大金貨10枚でーす。」
「「「おーーーー」」」
会場からどよめきが起こった。
大金貨10枚とはドワコの金額換算では1000万になる。かなりの高額賞金である。
「それでは審査員を紹介します。まず左の席から順番に行きます。国境砦を守る兵士たちをまとめるライモンド様。そして隣が、この領地の発展に大きく貢献していただいたドワーフの親方。最後にドワコ様の執事のセバスチャン。以上3名の審査員で行いまーす。」
そして美人コンテストが始まった。
「ではエントリーナンバー1番・・・」
次々に紹介されてるが、ドワコの知っている人が1人も出てこない。コンテストに出ている人たちよりも美人な者も結構いるはずなのだが・・・。
「それではこの方が最後となります。エントリーナンバー15番・・・」
最後まで紹介が終わり審査員の3人が相談をしている。そして決まったようだ。
「それでは発表します。まずは3位から・・・」
3位の賞金は大金貨1枚だ。およそ100万に相当する。普通の大会ならこの辺りが1位の相場ではないだろうか・・・・。
3位に入賞した人が喜びの挨拶をしている。そして2位の発表があり、同様に入賞者の挨拶があった。2位の賞金は大金貨5枚、500万相当である。
「最後に優勝者は・・・・」
優勝者の発表があり、会場に歓声が上がった。
「それでは、優勝賞金の授与を行います。それでは領主のドワコさんお願いします。」
スポットライトが会場の客席にいたドワコに当てられた。付近にいた人はまさか自分たちの近くに領主がいたとは思っていなかったようで、驚きの声が上がった。仕方ないのでドワコはステージに上がった。
「それじゃこれを渡してくださいね」
小声でエリーが言って賞金の入った袋を渡した。
そしてドワコは優勝した女性の前に行った。確かに予選を勝ち抜いてきて優勝しただけはあり、均整の取れた顔とスタイルの良さがドワコにもわかった。
「おめでとう」
ドワコがそう言って賞金の入った袋を手渡した。
「ありがとうございます」
嬉しいのか涙を流しながら彼女は賞金の入った袋を受け取った。
「それではもう一つの優勝特典です」
「え?」
エリーが突然言い出した。優勝した女性は先ほど渡した袋をステージ横に控えていた者に渡し、ドワコの前へ行き、ドワコとの目線を合わせた。そしてそのままドワコに抱き付いてきた。どうも匂いも嗅がれているようだ。
「「「キャー」」」
観客席からは黄色い声が上がった。そしてドワコはそのまま抱っこされた状態でステージの控室へ連れていかれた。
「領主様。ありがとうございます。」
優勝した彼女はドワコを降ろすとお礼を言った。
「私聞いてないんですけど・・・優勝特典って何?」
「領主様に抱き付いて匂いを嗅げる権利・・・と聞きましたけど?抱き上げてここまで連れてきてくださいと指示を受けました」
するとステージからエリーの声が聞こえて来た。
「以上を持ちましてステージイベントを終了します。最後は花火大会です。皆さん最後まで楽しんでくださいねー。」
エリーが控室に戻って来た。
「優勝おめでとう。ドワコさんの匂いかげました?」
「はい。おかげさまで。噂は本当だったんですね。とても幸せな気分になりました。」
「えっと私って変な匂いする?」
今まで匂いをかいだ人たちからは同様の感想が出ている。思い切って聞いてみた。
「村で噂になっているんですよ。領主様から甘い匂いがして直接嗅ぐことが出来ると幸せになれるって。」
優勝した彼女が答えた。
「誰ですかそんな噂を流したのは・・・」
「私ですが何か?」
ドワコが少し怒り口調で言うとエリーが答えた。
そして美人コンテストに参加した人たちはそれぞれの所に戻っていった。ちなみに本選に残った者は参加賞として金貨1枚(10万相当)が渡された。
「どうして砦の者は参加させなかったの?十分優勝できるレベルの人もいるはずだけど?」
「そうしたら上位3人はドワコさんの知り合いになってしまいますよ?ドワコさんの恩恵にあずかっている人はそれなりに収入もあり、豊かな暮らしをしています。そんな人たちに賞金を渡した所で使う事はまずないと思います。コンテストと言う理由を付ける事で村人に喜んでお金を受け取ってもらって、そのお金を使う事で市場の活性化させるのが今回の目的ですから。」
「なるほど・・・そこまで考えてあったんだね」
ドワコはそれを聞いて納得したが・・・一つ腑に落ちないことがあった。
「それで優勝特典に私の匂いをかがせるってどういう神経しているか疑います」
「だって、領主様の匂いを嗅ぐなんて平民の人からすれば不可能に近い事ですよ?希少価値を上げるために今回このような事をやってみました。ちなみに噂を流したのは断片的に変な噂になっていたので修正するためですよぅ。」
「変な噂って?」
「匂いの話は前からあったんですよ。甘い匂いに誘われると百合になってしまうとか、思わず襲いたくなる衝動に駆られるとか、さらには匂いで人をダメにする妖怪とか言い出す人もいたんですよ。そこで噂を一本化するために幸せになれると流したわけですよ。そうした方が丸く収まる感じがしませんか?」
「わかるような・・・わからないような・・・」
エリーに上手く丸め込まれた感がしない訳でもないが、納得した事にした。
「次が最後の催しですよぉ。最後まで楽しみましょう。」
「もう最後なのか・・・そう言われると寂しくなるね」
そう言って2人は花火大会の会場へ向かった。




