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陰キャでイジメられっ子の俺は美容師の母さんが店を開いたら人生が変わった件  作者: ささくれ厨
The Signpost Of The Sun

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46/50

とても好印象よ

 夏休みも後半。

 今年も着付けを頑張った。去年、一昨年と俺が着付けたお客様がまた今年も来てくれたのは嬉しい。

 東町商店街の夏祭りは依莉愛(いりあ)柚咲乃(ゆさの)と一緒に行って、三人で一緒に花火を見た。

 一緒に祭りに行ったその日、実は夏休みに入って初めて二人に会ったのだ。随分久し振りな気がして話が弾んだ。

 とは言え、彼女たちとの毎日のやり取りは欠かしていない。 


 俺は母さんから車を借りてひなっちを迎えに行く。


「今日は車なのね?」


 ひなっちを助手席に迎えて車を走らせると訊かれる。


「うん。免許、取ったしね。車の運転に慣れておかないとダメだぞって母さんにも言われてるからさ」


 今運転している車は母さんの車だ。

 今日はサロンが休みなので母さんは家に居るし、出るとしても父さんの遺した車を使うから使えと鍵を渡されている。


 免許を取ってから、俺は割りと運転している。というかさせられている。

 今は朝からサロンに行くので行きも帰りも母さんが助手席で俺が運転をする。

 免許を取ってからの数日は母さんに小言をチクチクと刺されながら辿々しく運転していたけど、今は和やかに話せるくらいにはなった。

 それでも運転をする前は毎回、事故るんじゃないかと不安になるし、ひなっちを乗せている今もドキドキして仕方ない。


(わたくし)、お父様以外の男性が運転する車に乗ったのは初めてよ。それに二人きりというのもお父様以外ではなかったわ」


 ひなっちは嬉しそうにする。


「このまま、どこかに連れて行かれて、アイちゃんに全てを委ねてしまうのね」


 と、訳のわからないことまで言い出した。

 実は俺が運転する車で母さん以外の女性とふたりきりと言うのはこれが初めてだ。そんなわけで間違いがあってはいけないといつも以上に慎重に車を走らせる。


「今日は中町コンフォート地下駐車場に行くだけなんだけどね」


 自分で運転する車で行く中町は近かった。

 バスの三分の二くらいの時間で到着。

 来客用の駐車場に車を停めてひなっちが降りたことを確認したから鍵をかける。

 それからエレベーターホールに向かって歩き始めた。


「お父様の運転よりずっと丁寧で優しい運転で感動したわ。美希(みき)さんの運転と似てるわよね」


 俺はひなっちの父親が運転する車に乗ったことがないからわからないけど、ひなっちは俺の母さんが運転する車に乗ったことがある。

 褒められるのは嬉しいけれど、飛ばしてないと言えばそれはまた違う。流れを乱さない程度に走ってる。母さんからそう教わってるからね。


「初心運転者期間だからさ。余計に慎重になるんだよ」


 若葉マークを付けている間は事故や違反は絶対にするなと──、特にプ●●スとかア●アには気を付けろと母さんに口が酸っぱくなるほど注意されている。

 車種ごときでそんなバカなと思ったけど、車を運転し始めて二週間以上過ぎて理解した。

 ただ、車の運転と言うのは本当に楽しい。道路上では俺が高校生だろうとイジメられっ子だろうと関係がない。ルールに則って走っていれば、ただの一単位でしか無い。

 ルールに守っていれば何のしがらみもなく俺という人間が自由に走らせている車でしかないのだ。


 エレベータで最上階まで昇り、日下部さんの家にお邪魔している。

 それから日下部さんの家で女子三人と一緒にお勉強に取り組んでいた。


「紫雲さんは理解度がやはり深いのね。教え方も上手で私のどこが出来なかったのか良く理解できたわ」

「私も紫雲くんに教わって、紫雲くんと私の違いが良くわかったよ。教え方も上手だし本当に凄い」


 日下部さんと日野山さんにはべた褒めされるけれど、ひなっちの理解力の高さにも驚いた。


「アイちゃんとは全国模試で、前後十位以内で前後しているからどっちもどっちなのよね」


 ひなっちはスマホを手に持って全国模試の順位表を皆に見せる。


「この時は(わたくし)のほうがアイちゃんよりも2つ順位が上だったのよ。でも、こっちは私が5つ順位が下なの」


 自分の順位しか興味がなかったから他人の順位を気にしたことが無かった。

 名前が出るのは全国で上位の百人とかそんな感じだったはず。特進クラスはそういった全国の模試を受けたりしているからクラスに順位が貼り出される。

 けど、俺は自分が貰った紙しか見ないから。

 なお、日野山さんは上位の百位以内に入るか入らないかで、日下部さんは上位二百位前後くらいらしい。


 そんなこんなで四人で勉強を進めると


「そろそろお昼、お如何がかしら?」


 日下部さんの母親の紗織さんから休憩を薦められて、日下部さんの部屋から出てダイニングに四人ぞろぞろと揃って行った。

 この家には男は俺しか居ない。女性陣だって四人のほか、紗織さんしかいない。日下部さんの姉の陽織(ひおり)さんや彼女の祖母の鏑木(かぶらぎ)さんは外出中。

 五人で食卓を囲った食事は和やかで落ち着いて摂ることができた。

 出てきたメニューはシンプルなパスタ。オールドタイプなカルボナーラで卵黄を和えたパスタに豚トロの塩漬け(グアンチャーレ)の塩味が効いていて美味しい。辛味は黒胡椒だろう。


「美味しいですね」


 最初のひとくちを飲み込んだ俺が声に出すと紗織さんが顔を綻ばせて喜んだ。


「あら、嬉しいわね。まあ、手抜きみたいなものだけれど」


 紗織さんも俺たちと一緒に食べている。

 フォークでクルクルっとパスタを巻いて上品に口に放り込む。

 ここにいる女性たちの食事の所作はとても綺麗だ。

 ここまで品良く食べているのを見ると逆に緊張する。のだけど、日野山さんはフォークをそこまで使いこなせていないのかぎこちなさが目立った。


「本当、美味しいわね」

「ん。美味しいです」


 ひなっちと日野山さんも舌鼓を打つ。

 手抜き、と言えばそうなのかもしれないけれど、素材にこだわりがあるのがわかるから俺には手抜きに思えない。


和音(あいおん)君は本当に美味しそうに食べてくれるのね」


 紗織さんが俺に向けて目を細める。厚ぼったい唇の両端をほのかに釣り上げて薄い朱色の頬を上向きにしていた。

 出されたカルボナーラは実際に美味い。いろいろ聞きたいところもあるけれど引かれそうなので、訊くのは止める。


「実際にとても美味しいので──」


 そう答えるとひなっちが「とても美味しいです。作り方を教わりたいくらいです」と続いた。

 日野山さんは目をキラキラさせているけれど、特に料理がどうというわけではないのが見て取れる。普段から料理をしないんだろう。


 紗織さんと目が合った。

 すると「ふふふ……」と妖艶な笑みを浮かべてハンドタオルを手に取り俺の顔に手を伸ばす。


「ここ、付いてるわよ」


 そう言って俺の口元を拭った。


「そんなに美味しそうに食べてもらえると作った甲斐があったわね。前回もそうだったけど、男の子がいる食卓ってやっぱり良いわ」


 俺の口元を拭き終えると手を引いた紗織さん。

 体を乗り出しているから胸元が開いてその奥が覗く。

 まあ、良く見えてしまった。


「ちょっと、お母さん。はしたないわ」


 語気を少しだけ強めて母親を注意したのは日下部さん。


「あらあら。うちの子は厳しいわね」


 と言って、椅子から立ち上がると空いた食器を下げていく。

 作ってもらって、食べさせてもらって何もしないのは申し訳ないと思い俺も席を立って食器を下げると、日野山さんたちも続いた。


「洗い物を手伝わせてください」


 ひなっちがキッチンに立つ紗織さんの傍に寄り申し出る。

 紗織さんはひなっちの申し出を受けて洗剤とスポンジなどを受け取るとボウルやタッパ、フライパンを洗い始めた。

 なお、食器類は高そうな食洗機に入れるだけ。俺の家にはないからいつか家にも欲しい。


 食事を終えて落ち着いたところで勉強を再開した。


 日下部さんの部屋はシンプルで女子っぽくないダークカラーで纏められた部屋。

 中央にラグが敷かれていて、その真ん中のローテーブルを四人で囲んでああでもないこうでもないと問題の解釈なり解法の議論をして楽しんでいた。

 ここで勉強をしている四人は学年で上位にいるのでテストの問題を解く作業よりも意見交換が盛んだ。


 四人での勉強はあっという間に過ぎて俺はひなっちを連れて日下部さんと地下駐車場のエレベーターホールにいる。

 日野山さんは一階のロビーで別れたので今は三人だ。


「紫雲さんと陽那ちゃんのおかげで随分と捗ったわ。ありがとう」


 日下部さんは俺とひなっちに向かってニコリと笑顔を向けた。

 ポーカーフェイスだろうけれども、俺とひなっちも日下部さんに応える。


「いいえ、こちらこそ。女子の部屋で緊張したけど楽しかったです」

「引っ越してからは初めてだったのよね。部屋は引っ越しても相変わらずで少し安心したわ」


 四人で勉強法や試験の内容を議論するのは俺にとってはとても楽しかった。

 ひなっちは日下部さんと旧知だったから引越し前の家を知っているらしい。それなりに知った仲なのも彼女たちのやり取りを見ていて分かる。

 言葉遣いなんか特にそう。ひなっちは日下部さんの言葉遣いに倣ったんだろう。


「それにしても──」


 日下部さんがおもむろに口を開いた。


「紫雲さんは学校でも今日みたいに振る舞えば良いのに。ハキハキしていてとても好印象よ。髪型もその──今の方がずっと明るくて話しやすいのよね」


 日下部さんのその言葉に続いてひなっちも乗っかる。


「そうよ。アイちゃんは見た目も良いし声も綺麗だから今の髪型で、今日、私たちにしたみたいに話をしてくれたら、きっと今なら──」

「私もそう思うわ。紫雲さん………。いいえ、和音さん。もうすぐ二学期になるけれど、今日みたいにお話をさせてもらっても良いかしら?羽流音にも話しておくので、残り少ない高校生活だけど、有意義に過ごすくらいあっても良いと思うのよ」


 どうも学校では萎縮してしまうというか、今もどこか周囲との関わりを持ちたいとは思えない。

 それよりも、名前呼びだ。わざわざ名前呼びに言い直した意図は何なんだろう。以前、母さんと来た時は俺と母さんと区別するのに名前で呼ばれた記憶はある。


「無理に打ち解けるというのは難しいわね。けれど、私は羽流音から話しかけたりお昼は(ひいらぎ)さんとご一緒みたいだからお邪魔でしょうけど、柊さんがいらっしゃらないときならお昼をご一緒するのも吝かでないわ」


 柚咲乃が居なければ、と、日下部さんが言う。

 依莉愛と学校であまり喋らなくなってるから、柚咲乃が居なければボッチで過ごしている。

 昼休みなんかは柚咲乃と一緒じゃなければ別棟の非常階段で食べているくらいだ。

 とは言え、そう関わることなんてないだろう。

 相手──日下部さんと日野山さんはクラスでも優等生の女生徒だ。


 この時、俺は高を括ってたんだ。

 相手はクラス委員なんだよ。クラス委員を舐めていた。

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