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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
物語が始まるまでに

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8 育成ゲーム(族議員)

「おはようございます。お嬢様。

 今日も良い天気ですよ」


 あくびをかみ殺しながら私は天蓋つきベッドから身を起こす。

 さて、今日も主人公が来る前に悪巧みをするとしよう。


「それで今日は何をなさいますか?」

「何をしようかしらねぇ……」


 アンジェリカとメイドの手によって私は寝巻きからドレスに着替えさせられる。

 『世界樹の花嫁』は一週間単位で行動を決める事になっている。

 平日は午前と午後で行動選択が選べる。

 で、種類は以下のとおり。


 授業

 言うまでも無く自分のステータスをあげる事ができる。

 いくつかのスキルを取る事ができる。


 バイト

 職によってスキルが付与されるがバイトはステータスによって制限がある。

 また、このバイトで主人公は収入を得る事ができる。


 迷宮探索

 ダンジョンに潜って、モンスターを倒したりお宝を手に入れる。

 攻略対象と行くことで好感度大幅上昇の可能性あり。


 巫女(花嫁)修行

 世界樹の花嫁になる為の修行。

 このゲームをクリアするためにはこの修行を一定数こなさないといけない。


「修行の準備でもしましょうか」

「では、執務室の方に足を運ぶのですね」


 乙女ゲー登場期、歴史系SLGを中心にしたとあるゲームメーカーがあった。

 そのメーカーは殿方といちゃいちゃするだけでなくゲームシステムもその分野からもってきたのか、かなり味のあるシステムになっている。

 具体的に言うと主人公とライバルは大陸の人々の求めているものを陳情され、その加護が使える攻略対象にその陳情を伝えてその力を大陸の民に与えるのだ。

 で、民は感謝の為にその陳情仲介者と攻略キャラの神殿を建てるのだ。

 この神殿の数が勝敗を決める。

 さて、このシステムにとある男性プレイヤーがやりこみまくってある事に気づいた。


 『攻略キャラ』に陳情を働きかけて『神殿』を誘致する。


 この『』をこう置き換える事が可能だという事に。


 『各省庁』に陳情を働きかけて『公共事業』を誘致する。


 そう。

 このゲーム、乙女ゲーの仮面をかぶったネゴシエートゲーム。

 もっと露骨に言うと族議員育成ゲームでもあったのだ。

 この路線を世界樹の花嫁も継承しているというか、ここの開発陣ゲームには手を抜いていない。

 ただ、どす黒い悪意をトッピングしているだけなのだ。もっとたちが悪いとも言う。

 世界樹の花嫁は豊穣の加護を司る。

 それが近年の花嫁不出来で各地で機能不全を起こしているというのは言ったと思う。

 その為に各地より、加護を求める陳情が急増。

 同時に、商人や彼らとつるむ新興貴族は高止まりしている穀物市場の暴落を望んではいない。

 このあたりの新旧貴族の対立がヘインワーズ侯とベルタ公の対立の根底なのだが、花嫁の身は一人しかない訳だ。

 その為に陳情は花嫁の前にあげられる前に、根回しされ整理されて届く事になる。

 かくして、オークラム統合王国の権力構造のしくみの説明までしないといけなくなる長い話だが、退屈せずに聞いていただけるとうれしい。

 オークラム統合王国は名前のとおり王が支配する制限君主制国家である。

 統合王国初代国王が近隣諸侯や自治都市と盟約を結んで統一政体を組んだ事からはじまったこの国は、それゆえに王権は制限されていた。

 だからこそ、この国には王室法院という貴族議会がある。

 貴族間の争いは王家が仲裁するが、中央集権を目指す王家(とそこから抜擢された官僚達)と既得権益を持つ貴族達は構造的に対立する形になっている。

 そして、王が親政を行う事はまれで、王の指名する執政官か摂政(王家の血を引く場合)の下に大臣以下内閣が組まれるのだ。

 豊穣の加護という露骨に国政に響く世界樹の花嫁は、必然的に内閣の一員として国政を助ける形になる。

 なお、国王によって抜擢される内閣のメンバーは以下のとおり。


 統合軍総軍団長(軍事部門のトップ)

 財務大臣(財政担当)

 法務大臣(司法担当)

 大神官(宗教・司法担当)

 世界樹の花嫁(司法・公共事業担当)

 王室法院議長(貴族代表・立法)

 近衛騎士団団長(王家利害代弁者)


 世界樹の花嫁に選ばれるためには、国王を入れたこれらのメンバーの過半数の支持が必要となる上で、法院の承認が必要となる。

 もうお分かりだろう。

 世界樹の花嫁はそれ自身が大量の官僚を率いる巨大官庁であるという事に。

 そして、そこの省庁が常に景気がよろしくないときた。

 何しろ世界樹の花嫁は基本不在気味。

 なったとしてもそのまま王妃とか側室になってしまうからだ。

 政治経験の無い乙女をそんな省庁のトップにすえるようなものだから、当然次席たる長官級がいやでも力を持つ。

 花嫁候補はその時点で相当の待遇が与えられるが、構造上長官たる花嫁女官長と次官たる花嫁侍従長の下について仕事をする事になる。


「はじめましてエリー様」

「どうかよろしくお願いいたします」


 二人の顔色が良くないというか、官僚的仮面が外れかかっている。

 そりゃそうだ。

 私を含めたこの三人は上級文官の資格の証である銀時計の鎖が揺れているのだから。

 統合王国官僚のキャリア組と呼ばれるそれは、王家直轄領の知事や長官・大臣職必須の資格というのは話した。

 つまり、何も知らぬ主人公がここに来ると、彼ら銀時計組の指示の下でお仕事をして学んでもらうという訳だ。

 なお、この文官の資格も、上級文官・中級文官・下級文官の下に上級書記・中級書記・下級書記と分かれており、主人公がこれらの資格を取れば仕事を行う範囲が広がってゆくという訳。

 ついでにこのゲームにおける省庁の席順は大臣・長官・次官である。


「それで、エリー様はどのような花嫁を目指すおつもりで?」


 女官長が最初の探りを入れてくる。

 という訳で、遠慮なくストレートをぶちかましてあげよう。


「『花嫁請願』を行っていいなら色々するんだけど、とりあえずはおとなしく陳情をこまめにするつもり。

 近年の穀物生産と価格の推移データと、王室法院の出した関所税に関する布告を確認したいわ」


 『花嫁請願』というのは世界樹の花嫁が行える伝家の宝刀で、直接陳情を国王に言う事ができて国王がそれを認めれば勅令として布告できる凶悪な手段でもある。

 ゲーム後半で世界樹に認められて名実共に花嫁になった場合、これを使ってライバルを容赦なくしゅくせ……げふんげふん。叩き潰す事もできる。

 なお、私が言った穀物生産と王立法院の出した関所税の布告確認というのは商人側であるヘインワーズ侯の悲願でもある政策の事だ。

 日本人に分かりやすく言うと四文字の言葉でまとめられる。

 『楽市楽座』と。


「かしこまりました。

 書記の者に用意させましょう。

 エリー様もその銀時計を身につけているのならば、言う事はないでしょう」


「もちろん。

 花嫁前に居なくなりましたなんてごめんだからね。

 おとなしくするわよ」

(……今はね)


 花嫁女官長への最後の一言を心の中で呟いて二人を退出させる。

 待つ事しばらく。

 資料を持ってきた二人の顔を見て、一人は露骨に顔をしかめ、一人は上級文官に対する礼をもって答えた。


「よろしくね。

 ヘルティニウス司教とゼファン上級書記」


 なお、このゲームは乙女ゲーなのでこうやって攻略キャラが手伝う事で親密度をあげる事ができるのだ。

 ヘルティニウス司教は下級文官持ちで、街に必ずあり人々の相談がもちこまれる神殿の司祭には自動的に与えられるというものだ。

 上の閣僚がらみの話になるが、司法がらみがかなり曖昧になっているのは、宗教と王権と貴族権益の微妙なバランスの為である。

 もちろんこの曖昧さが王国崩壊時に火を噴いて王国崩壊の一因になったのは言うまでもない。


「こちらが頼まれていた資料です。

 関所税に関する布告に目を通されるとか?」


 ヘルティニウス司教はこっちが何をしたいのか即座に探りを入れてきた。さすが文官資格持ちである。

 なお、神殿御用荷物はこの関所税の対象外だったりする。


「別に何もしないわよ。

 ただ、近年の穀物生産と価格の推移データと関所税の収入を照らし合わせようかなって思って」


「そこを調べる時点で分かっているだろう!

 穀物生産は減少傾向にあり、関所税はそれを埋めるために高騰の一途を辿っている!

 このままでは物流が死ぬぞ!!」


 天才なのだろう(実際天才魔術師なのだが)ゼファンが過程をすっ飛ばして結論をぶっちゃける。

 さすが上級書記止まり。

 政治は過程こそ大事で、結論だけ見ると確実に足をすくわれるのだ。

 そういえば、このゲーム一応いちゃらぶ目的だが、攻略キャラ達はこの国の現状は把握してヒロインとがんばってこの国を良い方に導こうと努力するテーマはあったりするのだ。

 で、イチャラブの果てが国を捨てての逃避行。

 さすが開発陣。正しいが悪意しかねぇ。

 そんな訳だから二人に尋ねる事にした。


「ねぇ、二人は私に何を求めるの?

 こんなのがあるから、私結構できるわよ」


 二人に銀時計の鎖を見せつけながらあえて問いを投げかけてみる。

 世界樹の花嫁候補で上級文官は長官である花嫁女官長と次官たる花嫁侍従長の上に立ち、大臣格として扱われる。

 そして、さっきも言ったが世界樹に認められて花嫁になった暁には、国王への直接誓願という最強の武器が使えるようになる。

 その為、多くの野心家達が花嫁に近づいて野望の階段を上り、転げ落ちていったのだ。


「ならばこの国を変えてくれ!

 この国は駄目な所が多すぎる!!

 その為ならば、俺の持つ知識は全てお前にくれてやる!!!」


 あ、こいつは天才の皮をかぶった馬鹿だ。

 ゼファンの物言いをヘルティニウス司教がやんわりと嗜める。


「着任早々の人に無理をいったらいけませんよ。

 すいません。

 彼の村は飢饉と病魔で滅んでしまって……」


「……すまない。

 礼を失した言葉だった。忘れてくれ」


 後に明かされるゼファンの設定だが、村の天才少年としてモーフィアスに弟子入りしてメリアスに来たが、その間に村が飢饉と病魔で滅んでしまったという。

 その時の現場に関わって、彼が数少なく心を開いたのがこのヘルティニウス司教だったという訳だ。

 なお、彼は少し大人なせいか現実にできる事とその限界をよく弁えていた。


「生活必需品の幾ばくかを神殿の喜捨として運んで各地に分配していますが、それに法院が目をつけだしています。

 エリー様が本当に何かなさりたいならば、覚えていただきたく」


「利権の巣窟たる神殿喜捨に手を入れろと?

 なかなか大変な事を言ってくれるわね」


 こっちのあきれ声にヘルティニウス司教はとってもいい笑顔で言い切ってくれた。

 その笑顔にだまされて、開発陣の悪意になんども折れかかった心を癒した乙女達は多かったはすだ。

 私の事なんだが。


「でも、できるでしょう。

 あなたならば」

オリヴィエ派として地上に夢の国を作り上げたのは良い思い出。

なお、このゲームをやりこんだあと『小説吉田学校』を読むと理解がはかどるはかどる。ただし、イケメンの岸信介や佐藤栄作や田中角栄が出てくる副作用アリ。

ついでに、IFCON後で盛り上がったイケメン談義は、腹黒系イケメン椎名悦三郎と男が惚れる系イケメン大平正芳だった事を付け加えておく。

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