閑話 ふわもこワンコのシルキーちゃん
*ふわもこワンコ視点
シルキーちゃんは、つぶらなお目々と、素敵すぎる手触りの真っ白な毛がチャームポイントの、ふわもこワンコです。
そして、シルキーちゃんは、今の主が大好きです。
前にいたところの人間達とは違って、シルキーちゃん達を《ツミグイノケモノ》と呼んでいじめたりしないし、嬉しそうに撫でてくれるし、美味しいお肉をくれるのですからっ!
前にいたところでは、――がご飯に出てきて、うるさいし、とても臭いし、とぉっても不味いしで、シルキーちゃんは大嫌いでした。
だから、主に付けてもらった、毛玉と言う名前に未練があるのですが、シルキーと言う名前も悪くないと思っています。
だって、主が好きな人がつけてくれたのですから!
主と、主の好きな人との架け橋になるなんて、シルキーちゃんにはとても誇らしいことなのです。
主の一番の護衛の座は長しかいませんが、特別なお役目を主から任せられるということは、シルキーちゃんは主の特別ということになるのですから。
因みに、主は、主の好きな人が幸せならそれでいいようですが、シルキーちゃんは主が一番です。
幸い、主の好きな人の旦那さんは、いつぽっくり逝ってもおかしくないようなおじいちゃんなので、まだまだピチピチな主にもチャンスは残っています。
今の内に、シルキーちゃんは主の好きな人と仲良くなって、主との橋渡し役になるつもりでした。
シルキーちゃんは、誰彼構わず魅了してしまう、自分の魅惑の毛皮にはとっても迷惑しておりますが(だって、主と離れて暮らさなければいけなくなったのですから!)、主の好きな人を誘惑する為なら、活用することも厭いません。
後、主の恋路の邪魔になりそうなのは、主の好きな人が大好きな主の妹君ぐらいですが、彼女は、主が好きな人に関してアホの子が入ったチョロ子ちゃんなので、シルキーちゃんは特に心配していませんでした。
主の妹君は、お口は悪いですが、根が単純で主と仲良しの、良い子です。
さて、本日は、なんと、主が、シルキーちゃんが警備しているお屋敷に遊びに来てくれる日でした。
シルキーちゃんは、今日が楽しみで楽しみで、お屋敷に近づいてきた不埒者の脚を、うっかり食い千切ってしまったぐらいでした。
その不埒者を影の皆さんが引き取ってくれた後、特に何も言われなかったので、まあ、無事に情報を引き出せたのでしょう。
シルキーちゃんは、有能な護衛ですから、うっかりがあっても、主から任されたことはきちんとできるのです。
でも、主の恋敵のおじいちゃんの護衛については、シルキーちゃんもちょっぴり思うところはあります。
けれども、おじいちゃんに何かあると主の好きな人が悲しんで、主の好きな人が悲しむと主も悲しいと思うので、シルキーちゃんはお役目の手を抜いたりなんかしませんよ。
主はとっても優しくて、シルキーちゃんと後輩のユニに、お土産を持ってきてくれました。
獲れたて新鮮の、熊肉です!
主の乗り物が撥ねたらしいですが、乗り物の癖にむやみやたらとエラそうな馬も、たまには役に立つようです。
主の第一の手下の地位は譲りませんが、あの馬は長と同じくらい威圧感があるので、シルキーちゃんはちょっとだけ、本当にちょっぴりだけ苦手でした。
熊肉は血抜きがまだなくらい新鮮でしたから、美味しく頂いた後、シルキーちゃん達は、血やその他諸々でガピガピに汚れてしまいました。
このままでは、入ったお屋敷も汚れてしまいます。
シルキーちゃんは有能な護衛ですから、勿論、お屋敷を汚して、使用人さん達に迷惑をかけるなんてしません。
一緒に汚れてしまった長とユニと一緒に、シルキーちゃんは、主の妹君の下僕君に洗ってもらうことにしました。
見習いで下っ端の下僕君は、長を案内するのが恐れ多いのか、顔を青くして、いつもの水場に歩いていきます。
未熟者のユニは、偉ぶりたくて、よく下僕君のおやつを横取りしていますが、シルキーちゃんはそんなことはしません。
シルキーちゃんは下僕君より偉いので、ちゃんと下っ端には優しいのです。
ですから、下僕君はシルキーちゃんの優しさに感激して、よくささ身を献上してきます。
ユニにも、偉いシルキーちゃんを見習ってほしいものです。
シルキーちゃんは、下僕君に体当たりをしようとするユニを、しっかりと窘めました。
下っ端に無駄に偉ぶるのは、格好悪くて、主の護衛の態度に相応しくないのです。
お屋敷の外れにある水場は、使用人さん達の修練場と兼用です。
今日は主が遊びに来る日ですから、使用人さん達はお屋敷のお仕事で忙しく、修練場にも水場にも、誰もいませんでした。
シルキーちゃん達がお屋敷に来てすぐに広くなった水場は、お城の水場と同じくらい広くて、綺麗なお水が、池のように沢山溜まっています。
水場は、シルキーちゃんとユニが泳げるくらい深いので、水遊びが楽しいのです。
下僕君は、遠い目をしながらユニとシルキーちゃんを洗いだしました。
長は、水場のお水に気持ち良さそうに浸かっていますので、お邪魔するのも悪い気がしたのでしょう。
下僕君は、まだまだ見習いですので、主の様に気持ちよく洗ってくれません。
主に特別なお役目を任せられたのは、シルキーちゃんの自慢でしたが、主に洗ってもらって極楽気分を味わえないのは、それはもう不満に思っています。
一応、下僕君も、ユニに蹴られながらコツを掴みつつありますが、それでも主の様な熟練者には程遠い腕でした。
そんなこんなで、ユニとシルキーちゃんは綺麗になりましたが、下僕君はびしょびしょです。
下僕君は、もっと精進しなくてはいけません。
そして、下僕君が、気合を入れて長に近づいた時でした。
むしゃむしゃと、お庭のお花を食べながら、主の乗り物がやって来たのです。
庭師さんが丹精込めてお世話をしているお花を食べるなんて、何て食い意地のはった馬なのでしょう。
そもそも、乗り物の癖に、主に自分が食べる林檎や人参のお世話をさせるなんて、けしからん馬なのです。
乗り物は乗り物らしく、主を乗せていればいいのです。
だって、主からおやつをいただくのは、護衛の特権なのですから。
ゆっくりと顔を上げる長の傍から、下僕君が飛び退きました。
長の邪魔をしないように気を遣える下僕君は、良い下っ端です。
そこで、シルキーちゃんは、ユニと一緒に下僕君の後ろに隠れました。
折角綺麗になったのに、また汚れてしまっては、主の護衛をするのが遅くなってしまいます。
――べ、別に、長と馬が怖かったからでは、ありませんからっ!
長と馬との間に見えない火花が散ったって、シルキーちゃんは大丈夫なのですよ。
馬は、主の乗り物の立場を弁えないで、よく長に突っかかってくるのです。
頭が良くない馬なので、未だに長に突っかかるのを止めません。
ばしゃっ、と。
馬が、水面を蹴り上げて、長に水を掛けてきました。
馬は地面を歩いてきたので、水と一緒に、泥になった土が長についてしまいます。
そして、馬は、長に向かって、馬鹿にするように歯を剥き出しにしました――。
「――お前達っ!
水遊びが好きなのは分かるが、ここはお前達の家ではないのだっ!!
他人の水場を荒らしてはいかんっ!!!」
主に怒られて、長と馬の水かけ合戦は中断しました。
長と馬との戦いのせいで、引っ搔き傷が残ったり、蹴り砕かれたりして、お屋敷の水場はボロボロです。
すまない、ちゃんと弁償すると、主は一緒に来た家令さんに頭を下げていました。
主に迷惑をかけるなんて、馬は駄目な乗り物だと思います。
それに、長に押されていたというのに、負けを認めないというのは、ふてぶてし過ぎです。
「――私の犬と馬がすまないな、アレス」
「……いえ……」
頭を掻く主から、下僕君が目を逸らします。
主、主、悪いのは馬ですし、下僕君は下っ端なので、主が謝る必要はありませんよ。
下僕君を盾にしたのに、シルキーちゃんは泥だらけになってしまい、がっかりです。
これでは、お屋敷に入れません。
シルキーちゃんがしょんぼりしていると、主がシルキーちゃんを洗ってくれました。
久しぶりの極楽体験に、シルキーちゃんはうっとりです。
おまけに、主はタオルでシルキーちゃんを乾かしてもくれました。
主はやっぱり、素敵な主でした。
*シルキーちゃん的番付
主(一番!)
↑
主の好きな人(とっても大事!)
↑
長(すごい!)
↑
主の妹君・兄君・義姉君・父君・おじいちゃん(大事!)
↑
シルキーちゃん・仲間達(仲間!)
↑
ユニ(後輩)
↑
使用人さん達・主の部下さん達・影の皆さん(協力はしますよ)
↑
下僕君(下っ端)
↑
(越えられない壁)
↑
前にいたところの人間達(大大大っ嫌い!!!)
《番外》
馬(ムカつくけど、ちょっぴり怖い……)




