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次期大公、次兄からの手紙を受け取る

 大公家にワンコ二匹がやってきてから、早、二週間。

 ふわもこでメルヘンな見た目のシルキーは、即行で受け入れられ、一つ目というかなり個性的な外見のユニにも、大公家の使用人達は慣れてきたようだ。

 シルキーもユニも、とても賢いワンコなので、家具を(かじ)る等の問題は起していない。

 強いてあげるなら、ユニがアレスを格下認定して、しばしばおやつのささ身を強奪するぐらいだろうか。

 なお、慰めてくれるシルキーに、アレスが抱きついて泣いている場面が頻繁に目撃され、シルキーを思う存分モフれない人々の嫉妬(しっと)を集めているらしい。


『三日後あたりに、大公家に伺う。

 肉を待っていろ』


 執務室で書類仕事をしていたシャルロッティは、次兄から届いた手紙を読んでいた。

 相も変わらず、色々と情報が足りない手紙である。

 所詮(しょせん)脳筋な次兄に、長々しい装飾文など期待もしていないが、せめて、正確な日付と時刻を記してほしい。

 茶を飲んで終わりなるにしろ、食事を共にするにしろ、訪問される時間帯によって、色々と準備するべきものが異なってくるのだ。

 シャルロッティ達が使っている資金は、元は民の税金であるから、無駄遣いは控えたい。

 ――後、別に肉は待っていないのだが。

 シャルロッティは、無言で眉間を()んだ。

 私信が意味不明になりがちなのは、次兄の通常仕様だが、文に記したからには、脳筋なりに重要事項と考えているということだ。

 でも、何故に肉。

 養父が次兄に軍略を教えた縁で、狩ってきた山鳥やら野兎(のうさぎ)やらを片手にぶら下げた次兄が、大公家にやって来たことは数知れない。

 だが、筆まめでもない脳筋が、わざわざ手紙で肉を持ってくる宣言をしたことは、これまで無かったのだ。

 一応、料理人に指示を出しておくべきだろうか?

 幼気(いたいけ)な妹の前で鳥の羽を(むし)ったり、野兎の皮を()いだりと、デリカシーに欠ける次兄だが、狩猟の腕は確かで、美味しい肉を獲ってくる。

 王族として何かが間違っていると、長兄はぼやくが、次兄にも肉にも罪はない。

 次兄の脳筋ぶりに関しては、戦闘狂の元帥閣下が一番の原因だろう。


 取り敢えず、次兄が大公家を訪うつもりの時間帯を、改めて聞くべきか。

 兎にも角にも情報不足の手紙は横において、シャルロッティは、次兄への言付けを頼むべく、使用人を呼ぶ鐘を鳴らした。


 ――その時点で、次兄は大公家への手土産をひと狩りすべく、愛馬・愛犬と共に森にくり出していた為、シャルロッティの行動は無駄になってしまった。


 基本、次兄のお土産は、自力採取の現物支給である。

 元帥閣下の修行中、ちょっと野生化一歩手前だったらしい次兄は、現金で何かを買うという発想が薄いのだ。

 ついでに、手元にある道具は使い倒すという姿勢が身体に染み付いたらしく、神剣で薪に火をつけたり、地面に穴を掘ったり、鍋をかき回したりと、やりたい放題で神官達を号泣させた。

 そのせいで、軽く呪われてしまったらしく、次兄は神剣以外の刃物を持つと、ことごとく焼け(ただ)れて使い物にならない状態になっている。

 雷に打たれるよりはましだろうが、開き直った次兄が神剣を持ち歩いている為、シャルロッティに神官達の嘆願書が殺到して、正直うっとうしい。

 そもそも、か弱い妹が、脳筋に何を言えと。

 次兄の余りに罰当りな神剣の使い方に、養父は育て方を間違えたと遠い目をしていたが、今更と言えは今更だ。

 国一番の戦闘狂を師とした時点で、常識人として既に手遅れである。




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