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VS《ジホ》3

 アリスタの推察は正しかった。

 ジホのデッキには防御系スキルが残っておらず、安価な勝利のためにウェポンより基本的に高価なスキルカードを抑えたことは、彼にとって完全な裏目となっていたのだ。


 ジホは顔をしかめながら【アブソーブ・バリアード】の二枚と【肩部二連装ビームポッド・八四式】を消費した自身のデッキに視線を落とす。


 ・ウェポンカード

【スマートボム(実/射)】:N

 〝基礎AP0.45倍の威力を持った小型爆弾。誘導性能を追加したことで炸薬量が低下し、威力が大幅に減衰した。試作段階であり、誘導性も低い。装弾数10〟

【フィルタンタR‐2(ビ/射)】:N

 〝基礎AP0.70倍の威力を持つビームライフル。装弾数を1消費して、次弾の基礎APを15上昇させる。さらに10消費する毎に次弾の最終APを1.1倍にする。装弾数14〟


【セロニカ・ツインブレード(格)】:N

 〝基礎AP0.80倍の威力を持った二対で一つの剣。分割して扱うことも可能だが、威力は半減する。直撃時、5パーセントの確率で威力が+0.2上昇する〟


【フレイムディオン(実/特/射)】:N

 〝基礎AP0.55倍の威力を持った焼夷弾(しょういだん)を放つミサイルランチャー。着弾時、周囲に燃焼状態を付与する炎を発生させる。装弾数16(※燃焼 秒間5ダメージ・15秒間持続)〟

【アローライフル弐式(ビ/射/補正S)】:N

 〝基礎AP0.75の威力を持つビームライフル。初式からの改良により弾速と貫通力を獲得した。サイズSのエンボディに対してのみ、威力が+0.15される。装弾数5〟


 ・スキルカード

【ターゲットストーク】:N

 〝自機を対象として発動する。半径10キロメートル以内に存在する敵機までの距離と方角を75秒間隔で3秒間露呈させる。この効果で得た情報は僚機と自動共有されない〟


 ・ドレスカード

【簡易飛行ユニット】:N

 〝自機・僚機のいずれかを対象として発動する。サイズSの機体を飛行可能とし、浮遊属性を付与する。(補正)AP:+0 DP:+0〟


 ・その他

【弾薬】:N×2


「――コール【フレイムディオン】!」


 ジホは再び高度を取ると、アコーディオン型の武装を現出させた。

 それから鍵盤に似た引鉄(トリガー)を引き、蛇腹部に内蔵された弾頭を発射。


 やや誘導性のある焼夷弾六発を単発撃ちで一方的に降り注がせる。

 木々はたちまち炎上し、燃焼ダメージを避けたい《アルゼクト》も森を出る他なかった。


「撃ち下ろすの好きだな、あいつ」

「お嫌いですか?」

「……お好きだね」


 エドの返答に思わず、アルマは笑みをこぼす。

 バトル開始直後とは打って変わり、彼女に余裕が生まれているのは明白だった。

 当然、エドも明らかに上昇した応答速度(レスポンス)の違和感には気が付いていた。


「ところで、アル。お前、さっきから考えて戦ってないだろ?」

「……っ! 分かってしまわれますか。はい、おっしゃる通りです。今のわたしではエド様の足を引っ張るだけ。ですから相手から視線だけを外さず、あとは委ねております」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。別に少しくらい遅れても、俺がどうにかする」

「!」

「自分の考えとか意図は持って戦わないと、()()()()()()()()()()()()()()

 

 言葉を交わす間に森を抜け出し、《アルゼクト》の全身が平地に(さら)け出される。


 そこにすかさず【フィルタンタR‐2】の連射が叩き込まれるが、エドは必要最小限の動きだけで、ほとんど当たっているのではないかと感じるほど紙一重の回避を披露した。


 観客席で何となく見ていた者たちも、これには揃って「おぉっ!」と口を開く。


「このまま下に跳ぶぞ。どっちに行く?」

「……でっ、では。東で」

「りょーかい」


 戸惑いがちに答えるアルマをエドは微笑ましく思いつつ、目と鼻の先。

 険しい崖に挟まれた峡谷の底へ、《アルゼクト》を躊躇いなく飛び下りさせる。

 アンカーで衝撃を軽減しながら落下するその芸当は、並大抵のマスターには再現性が皆無の代物だ。


「こいつちょろちょろとッ! いい加減、墜ちやがれ!」

「うげぇ。これ、ガマン比べになるやつだぁ~」


 *


「――チッ、本気で忌々しいぜ。索敵の冷却時間(クールタイム)がよぉッ!」

「普段使わねーうえにケチって安いの選ぶからだろー。自業自得だ、ば~か!」


 岩肌の凹凸が激しい峡谷を前に、ジホは苦戦苦闘していた。

 原因は二つ。


 峡谷に存在するいくつかの洞穴が、どれも峡谷各所と接続されていたこと。

【ターゲットストーク】のスキルなしで、敵機を発見できないこと。


 つまり、運と実力の差が原因であった。


「……やっとかよッ!」


 ジホの正面ディスプレイに《アルゼクト》までの距離と方角が表示される。

 示された先は、頭上を覆い隠す巨大な二つの岩で影になった場所だった。


「あそこにドークツの出口があったんだろーなー。ぶっ放して崩落に巻き込む~?」

「さっきからそれで逃げられまくってんだ! 音を殺しながら近づいてブッ殺すッ!」


 決断したジホは残る【スマートボム】の四発を、全く無関係の遠方に叩き込んだ。

 鳴り響くその爆音を隠れ蓑として機体を降下。距離を詰める。そして、


「うぉ、おお――ッ!?」


 突如として視界に飛び込んできたアンカーに左脚部を捕縛され、さらには()()()()()()()()撃ち放つつもりでいたライフルをもが、驚くほど簡単に絡め取られた。


 反射的に誘爆を嫌い、ジホは【フィルタンタR‐2】を手放す選択を取る。


「それを待っていた!」


 ()()()()()()()()()()()()()()()、その瞬間。ライフルを破壊するのではなく奪い取った。

 アンカーでは《リンディカイン》の態勢を崩すだけに留め、即座に離脱する。


「な、はッ! く、クソがァッ!」

「こ、今度はビビッて盗られてやんのーっ、やんの~!」

「まあ」


 そのままエドは距離を取り、峡谷を横断する鉄道に一基のアンカーを飛ばした。

 だが、フィールドの設定としてすでに老朽化していたのだろう。


 《アルゼクト》が掴み、自重の全てを預けた直後。鉄橋は一挙に崩壊を始めた。


「なッ――」

「ハハハッ、運も尽きたってことよォッ! コール【アローライフル弐式】!」


 先端がクロスボウのような弧を描くライフルを構え、ジホは大地に吠える。


「そぉら墜ちろォッ、過ぎし日の星のようにッ!」

「――エド様っ!」

「コール【三連無誘導ミサイルランチャー】!」


 疾走する光軸を目前にエドは、迷うことなくミサイルランチャー本体を投擲。

 それから現出させたままでいた【ヒートウィップ】を用い、破壊する。


「ぐッ。おっ、ぉお!」


 生じた爆風に乗り、《アルゼクト》はすんでのところで致命的な一射を回避してみせた。

 しかし、代償としてデッキスペースのウェポンカードが一枚、砕け散る。


 それを惜しむこともなくエドは、すぐに別の壁面にアンカー射出し、移動。

 奪取したことでデッキに入ったカードの詳細を確認した。


「ミサイルランチャーを失ってしまいましたが、代わりにこれで」

「あぁ」


【フィルタンタR‐2(ビ/射)】:N

 〝基礎AP0.70倍の威力を持つビームライフル。装弾数を1消費して、次弾の基礎APを15上昇させる。さらに10消費する毎に次弾の最終APを1.1倍にする。装弾数14〟


「コール【オーバーパック】、対象【フィルタンタR‐2】」


 発動により装弾数が1.5倍の21となり、この武器での攻撃時のみ最終APが1.25倍まで上昇する効果を《アルゼクト》はバトル終了時まで得ることとなった。


「――コォルッ! 【フレイムディオン】ッ!」


 回避に苛立つジホは感情に任せ、残る十発の焼夷弾を一斉に吐き出す。

 だが、その全ては射撃手段を手に入れたエドにより、たった三発で撃ち落とされた。


「お、おれよりも上手く使ってんじゃあねぇよッッ!!」

「きゃはははっ! ヘタクソ~。弟子にしてもらえー、弟子にぃ~!」


 こうして、二機の不毛な追走劇はまたしても再開されるのであった。

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