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ハンバーグ

 教会に戻ると、子供たちが玄関で待ち構えていた。


 俺たちの姿が見えなくなり、逃げ出したのではないかと不安だったのだろう。


「た、ただいま……戻ったぞ……」


 リーダー格の少年が、震える声で出迎えてくれる。


 俺はニッと笑うと子供たちが半歩下がった。荷台の幌を開けた。


「土産だ。たくさんあるぞ」


 どさり、と積まれた新品の服、ふかふかの毛布、そして大量の食材。


 子供たちの目が点になった。


「え……これ、全部……?」


「ああ。君たちの分だ。好きな服を選んでいいし、今夜は肉も焼くぞ」


 俺の言葉に、一瞬の静寂が流れる。


 そして。


「……さいご、なんだ」


 一人の少女が、ぽつりと呟いた。


「え?」


「最後の晩餐なんだ……! 俺たちを太らせてから食べるために、贅沢させる気なんだ!」


「違う! 逃げろ! これは罠だ!」


 パニックになる子供たち。


 俺は頭を抱えた。なぜ善意がすべて「捕食の前フリ」に変換されるのか。


「もう、みんな落ち着いて!」


 アリスが腰に手を当てて、子供たちの前に立ちふさがった。


 彼女は新しいピンクのワンピースに着替えている。まるで小さなお姫様だ。


「アデル様はそんなことしないよ! 見て、このぬいぐるみ! アデル様が選んでくれたの!」


 アリスが熊のぬいぐるみを掲げる。


 しかし、子供たちの目には「呪いの藁人形」に見えているらしく、逆に悲鳴が上がった。


「……仕方ない。行動で示すしかないか」


 俺は諦めて厨房へ向かった。


 今夜のメニューは、ハンバーグだ。子供が好きな料理ランキング不動の一位(俺調べ)。これなら文句はあるまい。


 挽肉をこねる俺の姿が「あいつ、肉片を握りつぶして笑ってる……」と恐れられても、俺はめげない。


 玉ねぎを炒める香ばしい匂いが漂い始めると、子供たちの騒ぎが少しずつ収まってきた。


「……いい匂い」


「ハンバーグ……? 本でしか見たことない……」


 焼き上がったハンバーグを皿に盛り、健康のための野菜も添え、特製のデミグラスソースをかける。


 湯気と共に広がる極上の香り。


「さあ、冷めないうちに食べるんだ」


 俺がテーブルに料理を並べると、子供たちはごくりと喉を鳴らし、それでも警戒しつつ、一人また一人とフォークを手に取った。


 そして一口食べた瞬間。


「!!」


 言葉はなかった。ただ、無心で食べ始めた。


 涙を流しながら食べる子もいる。


「……うまい。うまいよぉ……」


「毒が入っててもいいや……こんな美味しいもの初めてだ……」


 なんか複雑な感想も聞こえるが、完食してくれたなら料理人冥利に尽きる。


 俺は子供たちが食べる様子を、腕を組んで満足げに眺めていた。


 その時。


 バーンッ!!!


 教会の扉が、何者かに蹴破られた。


 風と共に現れたのは、銀色の鎧を身にまとった一人の少女剣士だった。


「見つけたぞ、邪悪なる魔術師め!」


 彼女は剣を抜き、俺に切っ先を突きつけた。


「罪なき子供たちを誘拐し、洗脳して私兵にしようとする外道! この勇者見習い、カレン・ヴォルマナフが成敗してくれる!」


 ……どうやら、最悪のタイミングで「正義の味方」が来てしまったようだ。

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