勇者見習いの意地
アデルが街へ買い出しに行っている間、教会ではカレンが留守番をしていた。
「ふふん。あの魔術師がいない間に、私が子供たちを正しき道へ導いてやらねばな!」
カレンは意気揚々と子供たちの前で剣の稽古を披露していた。
「いいかみんな! 剣というのはこうやって構えて……」
「カレンお姉ちゃん、すごい!」
「かっこいいー!」
子供たちに褒められ、カレンは鼻高々だ。アデルの料理に餌付けされてはいるが、彼女の正義感はまだ死んでいない(はずだ)。
その時。
ゴオオオオオオ……!
遠くから、地鳴りのような音が響いてきた。
「なんだ!?」
カレンが教会を飛び出し、裏山の方を見る。
そこには、土煙を上げて迫りくる巨大な影の群れがあった。
「あ、あれは……『オーク・ジェネラル』率いる、オークの軍勢!?」
豚の顔をした魔物、オーク。それが武装し、統率された軍隊として進軍してきている。その数、およそ五十。
本来なら騎士団が出動するレベルの災害だ。
「まずい……! 街に向かっているのか!? このままでは教会が踏み潰される!」
カレンは顔面蒼白になった。
彼女の実力は「勇者見習い」。オーク一匹なら勝てるが、軍勢相手には勝ち目がない。
だが、背後には震える子供たちがいる。
「……逃げろ、みんな!」
カレンは剣を抜き、子供たちに背中で語りかけた。
「街へ走るんだ! 私がここで食い止める!」
「で、でもカレンお姉ちゃん!」
「早く行け! ……ふふ、カッコつけさせてよ。これでも勇者を目指してるんだからさ」
カレンは覚悟を決めた笑顔を見せる。
震える足を踏ん張り、迫りくるオークの群れに向かって駆け出した。
「うおおおおおっ! ここは通さんぞおおお!」
カレンの剣閃が先頭のオークを切り裂く。
だが、多勢に無勢。すぐに四方八方から棍棒が振り下ろされる。
「ぐっ……!?」
カレンは吹き飛ばされ、泥まみれになって転がった。
「(だめか……ごめん、みんな……)」
オークが巨大な斧を振り上げ、カレンにトドメを刺そうとした、その瞬間。
「――大事な野菜畑に、土足で入るとはどういう了見だ?」
地獄の底から響くような、ドスの効いた声が戦場を凍りつかせた。
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