冒険者ギルドの会議
孤児院の運営が軌道に乗り始めた頃、最寄りの宿場町では深刻な対策会議が開かれていた。
場所は冒険者ギルドの会議室。ギルドマスターをはじめ、街の顔役たちが青い顔で集まっている。
「……報告は真実か?」
ギルドマスターが重々しく口を開いた。
「はい。間違いありません。『古き教会』を根城にした黒衣の男……通称『魔王』が、近隣の子供たちを次々と拉致し、 洗脳教育を施しているとのことです」
偵察に行った冒険者が、震える声で報告する。
もちろん、実際には「身寄りのない子供たちを保護し、読み書きを教えている」だけなのだが、フィルターがかかるとこうなる。
「さらに、先日街に現れた『勇者見習いカレン』様ですが……彼女もまた、魔王の毒牙にかかった模様です」
「な、なんだと!?」
「毎日のように教会へ通い、帰る頃には虚ろな目(満腹で眠いだけ)をして、口元を拭いながら(ソースがついてただけ)戻ってくるとか……」
ドンッ! とマスターが机を叩いた。
「おのれ魔王め……! 勇者の卵まで手篭めにするとは、なんと恐ろしい性欲……いや、支配欲だ!」
会議室が恐怖に包まれる。
「あ、あの……マスター。その魔王が、こちらに向かっているそうです」
「!!」
見張りの叫び声と共に、ギルドの扉がギギギ……と音を立てて開いた。
現れたのは、巨大な麻袋を担いだアデルだ。
「……たのもー」
アデルは野太い声で挨拶した(普通のトーンだが、ダンジョンのボスボイスに聞こえる)。
ギルド内の冒険者たちが一斉に武器を構えかけ、そして彼の顔を見てガシャンと取り落とした。
「ひぃッ! 出たあああ!」
「き、今日は何の用だ! 命だけは!」
マスターがカウンターの奥で腰を抜かす。
アデルは不思議そうに首を傾げ、カウンターに麻袋を置いた。
「いや、先日ここで熊を買い取ってもらった時に、子供たちの靴を買い忘れてな。……こいつを換金してくれ」
麻袋から転がり出たのは、大量の『魔石』だった。
それも、ただの魔石ではない。漆黒に輝く、高純度の闇属性魔石だ。
「こ、これは……!? Bランクモンスター『ナイトメア・スパイダー』の魔石……!? それもこんなに大量に!?」
「教会の裏山に巣を作っていたからな。子供たちが刺されると危ないから、駆除しておいた」
アデルにとっては「庭の害虫駆除」感覚だった。
しかし、マスターの脳内では「魔王が配下の魔物を大量殺戮し、その魂を売りに来た」というストーリーに変換される。
(な、なんて冷酷な……自分の手下ですら金に変えるのか……!)
「どうした? 買い取れないのか?」
アデルが眉をひそめる(威圧)。
「か、買い取ります! 言い値で買い取りますぅぅぅ!」
こうしてアデルは、またしても莫大な活動資金を手に入れた。
「助かる。これで子供たちに、頑丈な革靴を買ってやれる」
アデルがニヤリと笑うと、ギルド内の全員が「逃走防止用の足枷を買う気だ……」と震え上がった。
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