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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

聖女の遅刻と死が救った世界

掲載日:2023/03/08

 俺は勇者らしい。右手の甲にある痣によって生まれてすぐ勇者認定された。

 自分では自覚がないし、勇者だと言われてもピンとこなかった。


「ねえ、ユウキは勇者様なの?」

「リア。それ俺に聞くの何回目だよ? そうだよ。勇者なんだってさ」

 

 リアは隣に住んでいる、俺より一つ歳下の幼馴染みの女の子だ。


「そっかー。えへへ。でもいくらユウキが勇者だとしても、だらしがないし、私がいないとダメなんだからね」

「へいへい」


 いずれは、魔王討伐の旅に出る。その時はお別れなんだよな、と心の中だけで思い、俺はリアの髪を撫でた。

 いつか別れの時がきて別々に……。


 俺はそう思っていたのに——。



「えへへ。ユウキはやっぱり私がいないとダメダメなんだよね!」

「マジか」


 その報告を聞いて、俺は口にくわえていたパンのカケラを落としてしまった。

 なんと、リアは十六歳になった昨日、聖女だとお告げを受けたのだ。

 俺の影響なのかどうか分からない。

 こうして、勇者・聖女の幼馴染みコンビが結成されたのだった。



 幼馴染みのリアが聖女に認定されてから一年後。


「勇者として、復活した魔王の討伐をして欲しい」


 ついにその時がきた。俺が住む街の代表からそう言われたのだ。もともと、そのつもりだった俺は快諾する。

 この街は、予言により勇者が生まれることを知っていたらしく、その準備を着々と進めてきた。

 俺は戦闘技術を幼少期から習ってきた。


 聖女のリアも、当然というように俺に同行してくれるようだ。

 リアは聖女認定されてから神殿に通い、その力を高めてきた。


「ユウキは、私がいないと全然ダメダメだから」


 これがリアの口癖だ。

 実際、リアの癒やしの能力はもちろんのこと、特に復活呪文が凄まじい。

 死んでから時間が経っていなければ、魂を呼び戻し命を蘇らせることができるのだ。


「ダメダメってさ、勇者の俺に何言ってんの?」


 そう軽口をたたく俺。だけど、最悪俺が死んでもリアさえ生きていればなんとかなると思っている。

 なので、魔王討伐の旅を進めるにあたり、俺はリアを守ることを最優先にすると心に決めた。

 俺はリアの顔を見つめる。


「なあに? 私の顔に何か付いている?」


 俺の視線に気付いたリアがはにかみ、からかうように言った。


「いや、それ聖女着っていうのか? 似合っているし、かわいいなと思って」

「なっ……ユ、ユウキったら何言っているの!?」


 急に顔を赤らめ、うつむくリアが可愛い。その姿は、俺が決意を改めて固めるのに十分な美しさを備えている。


 しかし、俺には心配なことがあった。

 幼馴染みのリアは、ものすごい遅刻魔なのだ。

 子供の頃から、服を選ぶのに悩んだとか、化粧がどうこうとか、俺には理解できない理由をつけて約束に遅れることがよくあった。


 ☆☆☆☆☆☆


 リアと共に旅を始め、最初のダンジョン攻略の日。

 やっぱりリアは遅刻しやがった。今日は旅の仲間である、賢者と聖騎士とパーティを組む初めての日だというのに。

 昨日の夜、俺とリアはこんなやり取りをした。


「リア、明日は遅刻すんなよ」

「ふふーん。私はもう立派な聖女なのよ? むしろユウキこそ遅刻しないでね」


 そう言って、宿屋の前で別れたのだが、この体たらくである。


「俺はリアをここで待っている。追いつくから、先に行ってくれ」


 集合場所になかなか来ないリアに焦れた俺は、そう言って賢者と聖騎士を送り出した。


「わかった。早く来ないと、オレと聖騎士だけで全部倒してしまうぞ」

「そうだな。後から来ても仕事が残ってないかもしれんゾ」


 幸い、賢者と聖騎士がそう笑って言ってくれたので、俺も気が楽になった。


 そしてしばらくすると、リアがやってくる。


「ごめんなさい! 遅れたわ!」


 息を切らせながら言うリア。


「あのさぁ。遅刻だぞ」

「だってぇ。あれこれ悩んでたら時間がなくって……でも大丈夫! ちゃんとお洒落してきたから。それで、他の二人は?」

「先に行ってもらった」

「せっかくバッチリ決めてきたのにぃ。でも、ユウキは待っててくれたんだよね。嬉しい!」

「俺は、お前がいないとダメダメなんだろ?」

「うん!」


 俺たちは急いで先行した二人に追いつく。


 ちょうど、ダンジョンのボスと対峙しているところだった。

 しかし、先行した賢者と聖騎士はかなり消耗していた。


「ありがとう。ここからは俺が頑張る番だな」


 仲間とボスとの間に割り込み俺は剣を抜いた——。



 思っていたより敵の攻撃力が高く、かなりの回数、リアに癒やしの術を使わせてしまうものの、俺だけでダンジョンボスを倒すことに成功した。

 わあっと、賢者と聖騎士から歓声が上がる。


「やっぱすごいな」


 賢者と聖騎士は俺の勇者の力、そしてリアの治癒能力にも驚き声を上げる。


「「今後は勇者と聖女(二人)だけでよくね?」」


 そんなことはない。俺だけではリアを守り抜けないかもしれない。

 どんな窮地に陥っても、最悪、俺が盾となり時間を稼ぎ、その間にリアと仲間たちだけで逃げることも可能だろう。

 もちろん、戦力としても頼りにしている。


「いやいや、そんなこと言わずに今後もよろしく」

「よろしくね!」


 リアが二人の治癒を追え、とびきりの笑顔で挨拶をする。

 すると、賢者と聖騎士は顔を赤らめつつも、わかった、と頷いてくれた。


 ☆☆☆☆☆☆


 そうやって揃った勇者パーティ。これから快進撃だぜ! と行きたいところだ。

 しかし、次の四天王最初の一人の討伐時にもリアは遅刻しやがった。


「あー、ごめん。リアのやつ遅刻みたいだ。二人は、先行していて。無理しなくて良いから」

「分かった」

「まあ女の子は準備が必要ですしな」


 前回と同じく、俺は賢者と聖騎士を先行させリアを待つ。

 しばらく待ち合わせ場所で待つと、ぱたぱたと足音が聞こえてくる。


「ユウキ、ごっめーん!」

「あのさぁ……」


 パンをくわえて登場した幼馴染み聖女リアだったが、反省の色はまるでなかった。

 世界を荒廃させた四天王に怖じ気づいたか? と思ったけど、杞憂だったようだ。

 なので、一旦ヨシとしよう。

 だんだん敵が強くなってくる。これからは気を引き締めていきたいところだ。


 しかし——。



「……なっ……何があった?」

「すまん、賢者が——」


 俺とリアは先行した二人に追いついた。そのダンジョンの最深部で……なんと賢者が死んでいた。

 早速リアの復活魔法で生き返らせ、今度は四人で四天王最初の一人を倒すことが出来たのだった。


「はあ、まさか死ぬとは思わなかった……助かった、聖女リア殿。ありがとう」

「私が遅刻したせいで……ご、ごめんなさい」

「いやいや、蘇生体験など珍しい体験をさせて貰ったよ。また一つ賢くなることができた」

「ううぅぅぅ」


 遅刻したことを責めない賢者を前にして、しおらしく振る舞う幼馴染みのリア。

 俺は泣き出しそうなリアの頭を撫でてやった。さすがにこれで遅刻には懲りたことだろう。


 ☆☆☆☆☆☆


 しかし。俺の考えは甘かったようだ。

 もうここまで来れば言うまでも無いが、四天王のボス討伐時にでさえ聖女リアは遅刻した。

 さすがに今回は用心をして、賢者と聖騎士と共に待つ。


「ごごごごごごごめんなさぃぃぃい」


 謝るリアを見て、聖騎士と賢者は笑って許したようだ。そうなると俺も怒るわけにはいかない。


「さあ、気を取り直して、頑張ろう」

「「「おう!」」」


 全員、気合いは十分であった。

 気合いはあったのだが——。


 さすがに四天王のボスだけあって、手強い。

 なんと俺は死んでしまったようだ——勇者のくせに情けない。



「ユウキ……! 勇者ユウキぃ!」


 幼馴染みの悲痛な声が聞こえる。

 目を覚ますと、幼馴染みの胸に抱かれていた。

 柔らかい——じゃなくて、いったいこれはどういうことだ?


「ぐすっ……よかったぁ。あのね……ユウキはね……」


 落ち着いたリアから聞いたのだけど、四天王のボスは俺を巻き込み自爆したらしい。

 リアの聖女能力【防衛聖域(ドゥーム)】により一応賢者と聖騎士は一命を取り留めたのだが、俺だけ四散爆発して右腕だけ残して全て消えてしまったのだ。

 そんな状態の俺を聖女は一ヶ月かけて復活してくれたようだ。


「やっぱり私がいないとダメダメじゃない?」

「ああ、そうだな。助かった」

「うううぅぅ」


 俺がそう言うと、リアはまた泣き出してしまった。

 リアは、いつのまにか長い髪をばっさり切ってショートカットにしている。それがとてもよく似合っているように見えた。

 やけに大人っぽく見えた。


 その涙をぬぐいながら、俺は思ったのだ。


 ——リアは、何をしてでも守ろうと。守り抜こうと。

 俺は心に刻む。


 そして、リアによる一ヶ月の看病のおかげか俺は完全復活したのだった。



 いよいよ魔王討伐の日。

 やはり聖女は遅刻した。


 というか……待ち合わせの場所に来なかった。

 おかしいと思いリアが泊まっている宿に行くと、店主が驚いた顔をして言ったのだ。


「聖女様は、既に発たれましたが?」


 しかも、朝早くに。待ち合わせの何時間も前に。

 おかしい。今まで散々遅刻したのに、今度は一人だけ俺たちを置いて先行するなんて。


 こんなことは初めてだ。

 一体何があった?


 慌てて魔王の居城の前で、聖女リアは魔王と戦っていた。

 しかし元々戦闘職では無かったため、賢者と聖騎士、そして俺が駆けつけた頃には既にボロボロになっていた。


「へへ……ユウキ来てくれた」

「リア! リア! 自分に治癒をかける魔力も残ってないのか!?」


 その瞳は、虚空を見つめていて、何も映していない。


「大丈夫。ユウキは勝てるよ——これからは私を待たなくていいから……ね——今日だけは——」

「何を言っている? ……おい! リア!」



 俺は怒りのまま魔王を倒した。俺は勝つことができた。リアが言ったとおりに。

 しかし、リアは既に事切れていた——。



 ☆☆☆☆☆☆



 ユウキは、物心着く前から一緒に過ごした幼馴染みで勇者だ。いずれ、魔王を討伐しにいく。

 だから、私が聖女だとお告げがあったときはとても嬉しかった。

 いずれ旅立つ勇者ユウキと同行できるからだ。


「俺には使命があるんだ」

「そうなの?」


 ユウキは、勇者としていずれ魔王を倒すのが自分の役割であり運命だと言っていた。

 私はその意味がよく分からず、ずいぶん難しいことを言うなあとぼんやり考えていた。


 けど、それは同時に死の危険があることでもあって。

 いざというとき、私が助けてあげたいとずっと願っていた。

 だから、能力鑑定のあの日。神殿の司祭様が下さった言葉を忘れない。


「ふむ。リアちゃんには、聖女の能力があるようだ。強力な——勇者の進む道を照らす能力が」

「じゃあ、私は……!」

「ああ。これは精霊神の思し召し(おぼしめし)だ。是非、勇者ユウキ君の力になってその道しるべとなってくれ」

「思し召し《おぼしめし》……? ……はいっ!!」


 最初は、その言葉の意味が分からなかった。

 しかし勇者ユウキと魔王討伐の旅に出て程なくして知ることになる。


 ☆☆☆☆☆☆


 最初のダンジョン攻略前日の夜。

 私は不吉な夢を見た。

 ユウキが、ダンジョンのボスに殺され、復活すらできないように封印までされてしまう夢を。


「はあっ……はあっ……はあっ……ユウキが、死ぬ?」


 あまりの悪夢に、うなされて目を覚まし私は考える。

 もし、ユウキの怪我を十分に治すことが出来たなら、死ぬこともなく封印もされないのでは……?


 単なる夢だ、で片づけるにはあまりにもリアルだったし、それにもし本当に単なる夢ならそれでいい。

 私は対策を行わずにいられなかった。


 急いで治癒魔法の触媒を準備する。必要と思われる量の倍準備を終える頃には、とうに集合時間を過ぎていた。

 遅刻だ。

 私は身支度もそこそこに集合場所に向かう。


 そこには、予想通り、勇者ユウキは待っていてくれていた。


「おい、遅刻だぞ」

「待っててくれたんだ。嬉しい」

「俺は、お前がいないとダメダメなんだろ?」

「うん!」


 夢で見た悲劇が起きなければ良いなと私は願った。

 しかし、ユウキはボス戦の時に大きな怪我を負ってしまう。


大治癒(ヒーリング)!」


 私は、準備してきた触媒を存分に使ってユウキを癒やす。癒やしまくる。

 呪文を発動させる触媒を大量に消費するけど、大丈夫だ。量には余裕があった。

 そのおかげか、ユウキはボスを倒すことに成功した。その上、ボスの死骸からは、勇者封印の術式を込めた羊皮紙が見つかった。

 あの夢は、本当に起き得る未来を示していたのだ。


 四天王の最初の一人の討伐時も似たようなことが起きた。

 私は夢から覚め目が覚めるとすぐ勇者の死に様に対して準備を行った。

 そのたびに遅刻をするのだけど、夢のおかげで彼を救うことができた。


「夢さえ見て先手を打てば、魔王だって倒せる」


 私は、勝利を確信し、その期待に胸を膨らませた。


 しかし、現実は甘くなかった。

 四天王の最後の一人の討伐時、想像以上の打撃を勇者が負ってしまい、死んでしまった上に右腕だけになってしまった。


 これでは、いくら魂を取り戻しても復活ができない。

 夢の対策をされてしまった?

 わからない。


 私は文字通り、身を削って彼の復活に全力を尽くす。魂を唯一残った右腕に留めておき、使える触媒は何でも使った。

 ただの蘇生とはワケが違う。肉体の復活もしなければならない。しかも勇者の身体だ。生半可な手を使っては実現不可能だ。


 だから、私はなりふり構っていられない。触媒に用いるのは聖女の身体。つまり、私自身だ。

 聖女の髪の毛、皮膚、爪、骨、歯、そして肉、血液。これは全て、勇者ユウキの肉体の一部になる。


 ナイフを用いて自らの身体から肉を削り取る。


「クッ……ウゥゥゥゥゥ」


 空いている自分の手で口を押さえ、必死に悲鳴を押さえ込む。

 痛いなどと言ってられない。


 私は部屋に籠もり、血で赤く染まった床に復活の魔方陣を描く。

 魔方陣の中央にユウキの亡骸……唯一残った腕を置き、復活の呪文を唱えた。


完全死者蘇生(Raise Dead)!!」


 その甲斐があって、彼の復活に成功したのだった。


 ショートカットになってしまったけど、イメージチェンジだと言い張った。爪はいずれ伸びるだろうし、歯のことはなんか恥ずかしいので黙っておくことにした。

 欠けた肉体は、復活の儀式後に修復。完全には戻らないところもあったけど、生活には支障が無いので無問題だ。


 私はやり遂げた。そして、聖女という能力を与えてくれた存在に、心から感謝したのだった。

 


 そして魔王討伐時の朝。絶望的な夢を見る。

 ——勇者ユウキが手の届かない、遠い時空の彼方に転送されてしまう夢を。


 何も残っていなければ、ユウキの復活は出来ない。

 それだけではなく、パーティのみんなも、私も殺され世界が滅ぶ夢。


「これは……」


 私は起きると、急いで支度を調え宿を飛び出した。

 自分の周りに防衛聖域(ドゥーム)を張り続ける。治癒や復活などは考えなかった。

 私が倒れたとき、救ってくれる人はいない。片道の旅だ。


「おや、聖女一人でなどと。勇ましいことで」

「あなたの思い通りにはさせない……!」


 魔王の居城の前で、私は足止めされた。

 何かを感じたのだろう。魔王が自ら姿を現してくれた。


 一人だけの私を見て、倒せそうだと踏んでくれたのだ。


 そうだ。勇者ユウキと魔王を会わせてはいけない。

 初手で転送魔法を使われたら詰みなのだから。

 恐らく魔王は、私の考えに気付いておらず、対策も取っていない。

 ひ弱な聖女が迷い込んだと思ってくれれば勝機はある。


「ふむ。さすがに聖女様となりますと、そう簡単に死んでくれ無さそうですね」

「…………だったら?」

「ですが、一人で来るとは愚かなことです。残りが……特に勇者が来る前に、まず厄介なあなたを片付けるだけです」


 私は殺されるだろう。

 だけど、せめて転送魔法さえ封じれば……あとは勇者が……ユウキがなんとかしてくれる。

 彼さえ生きてくれるのなら、何でもできるのだ。


 私は、ただそれだけを思い、特攻する形で魔王の持つ転送魔法が封じられた羊皮紙を破壊することに成功した。

 薄れゆく意識の中で、ユウキたちが駆けつけてくるのが分かる。


「——今日だけは、勇者が……遅刻だね」


 その言葉を最後に、私は命を落とした。


 ☆☆☆☆☆☆


 命を落とした。

 落としたはずだった。


 ——命を落としたはずなのに。


 ぼーっとした頭で目を開ける。


「ああ……リア……気がついたね。よかった!」

「ゆ、ユウキ?」


 涙ぐんだユウキの顔が私の目の前にあった。

 私はベッドに寝かされているようだ。

 ユウキは、感極まった様子で私の頭を撫でてくる。


「ちょっと待って……一体何が……?」

「まあ色々——」


 ん?

 なんだか視界に強烈な違和感がある。ユウキの姿がおかしい。

 目を擦るものの、すっかり変わってしまったユウキの姿に変化はない。


「って、ユウキ! その頭、どうしたの?」


 ユウキのふさふさした髪の毛が消えていた。

 短い髪の毛が生えているものの……随分印象が違う。


「まあね。イメージチェンジしたんだ」


 にかっと歯を見せて笑うユウキ。ん? 歯も欠けているところがある。

 そんなユウキを見ていると、どうにも笑えてきて、私は堪えきれなくなった。


「ふふっ……に、似合うね。うふふふ」

「あのさぁ……本当にそう思っているのか? ふふっ」


 ユウキは、涙目になりながら、それでも笑顔を見せてくれた。

 外からは鳥のさえずりが聞こえ、人々の楽しそうな話し声も聞こえる。



 私は生きていた。

 いや、復活したようだ。


 ふと、ユウキの背後を見ると、見覚えのある魔方陣が目に入った。

 復活の魔方陣。

 どうやら、彼のおかげで私は助かったのだ。


「そっか……ユウキが……ありがとう。でも、どうして……? これは聖女の私にしかできないはずなのに?」

「以前、俺が腕一本から復活したときリアから授かった力があった。復活の呪文だ」


 元をたどれば、それは私の聖女の能力。私の肉体を触媒にして彼の身体を蘇生したため、能力の一部が彼に宿ったらしい。

 とはいえ、そんなに都合がいい話でもないらしく——。


「ただ、復活の呪文発動の代償として、俺の勇者の能力は失われてしまったし、復活の能力も消えてしまったようだ」

「そっかあ。じゃあ、もう勇者じゃ無いんだね」


 そういうと、ユウキは腕の甲を私に見せてくれた。

 かすかに痕があるものの、勇者の印はもう残っていない。


「ただの人だ。だから、もうリアは俺のそばにいる必要は無い。いつか生まれる勇者と——」

「はあ……わかってないなぁ」

「あん?」


 私は、理由を説明する代わりにユウキに抱きつき、唇を重ねた。

 ユウキがどうあろうと、私が必要なのは変わりがないのだから。


 ☆☆☆☆☆☆


 そして。


 リアが復活してから数ヶ月後、俺たちは賢者と聖騎士に別れを告げ、生まれ故郷に帰った。


 街の人々は、魔王を倒した英雄として俺たち二人は迎えてくれた。

 懐かしい街は人が増え、活気に満ちていた。

 魔王に虐げられていた国や街が、勇者を産み育てたというこの街に、様々な恩返しをしてくれるらしい。


 両親に帰還の報告をして……街の熱狂が落ち着くのを待った——。



 帰還から数日後……。

 とある日の朝、俺はリアと待ち合わせをしている。

 アイツのことだ。どうせ遅刻してくるのだろう。


 でも元勇者として寛大な俺は、リアの悪癖を許すのだ。

 しかし、待ちぼうけを食らいぼーっと待っている俺の姿は、街の人たちにどう映るのだろう?


 さっそく俺に気付いた街の人が、声をかけてくる。


「あっ、勇者ユウキ様。おはようございます。あ、これウチの畑で取れた一番の野菜です。どうか受け取ってください!」

「勇者さんだー。おはようごじゃいあす」


 リアの家の前で待っていると、通り過ぎる街の人が挨拶をしてくれる。なんだかやたらと物をくれる。

 勇者だと言ってくれる。俺はとっくの昔に、勇者じゃなくなったんだけどなあ。


 そしてしばらく待っていると……ぱたぱたと元気な足音が近づいてきた。


「あっ、ユウキ、おまちどーさま!」

「遅いぞー!」

「ごめん。でも、いろいろ準備があるから」


 既視感。リアの遅刻は、勇者として旅をしていた頃とも変わらない。

 俺は遅刻の本当の理由をリアから聞いた。


 リアは不思議な夢を何回も見たと言っていた。そのために、危機の回避のために、何度も遅刻をしたのだと。

 しかしその夢も、復活と共に見なくなったらしい。

 聖女の力もまた、わずかな力を残し消え去ったようだ。


「準備?」

「どう? 今日の服」


 リアのひらひらとした服が動きに合わせて揺れている。

 はにかむ笑顔も見せていて、どうやらこの服はなかなかのお気に入りらしい。

 そら、遅刻するのも分かる。


「かわいいよ」

「なっ……ユ、ユウキったら何言っているの!?」


 もはや完全なパターンだけど、これが楽しい。


「ところで、ユウキ、その荷物なあに?」

「いや、色々もらっちゃってさ。家に持って帰るから、手伝ってくれない?」


 そういうと、リアはぱあっとはにかむ。


「しょうがないなあ」

「なんでニヤニヤしているの?」


 俺の問いに、リアは緩む口元を隠さずに言った。


「えへへ。ユウキはやっぱり私がいないとダメダメだから!」




《了》





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