第166話 ジャン達と模擬戦をやった。疲れた……。
「んあー。やりたくねー。この後孤児院に行かなきゃいけないのに……」
「まあ実力を見るだけで、命が懸かってる訳じゃないんだから、気楽に行こうよ、気楽に」
「いや、俺、戦う事自体が好きじゃないから、気楽も何もないんだよ……」
「あー、まあ、レンちゃんがそうなのは私も分かってるけど……ほら、一応私達冒険者だし」
「もうずっと冒険者としての活動なんてしてないけどね! なんなら依頼する側になりつつあるけどね!」
「あははは。確かに」
マリアさんの余計な一言により、ジャン達が俺とメリアさんの現在の実力を測る事になった。
模擬戦の開催が決まった後、当事者であるはずの俺とメリアさんをほっぽいて、マリアさんとジャン達の間で話が進み、その場での開催は、夕食後で時間も遅かったのでさすがになし。翌日早朝の開催と相成った。なってしまった。
そして今がその翌日早朝。
割と久々に着た気がする冒険者装備を身に纏い、昨日時点で開催地と決まっていた、屋敷とイースの街の間にある空き地に俺達は立っていた。
「ご主人ー! レンー! ドカンと一発いくのじゃー!」
「主、レン様、頑張ってください!」
「おかあさん! がんばって! もちろんレンちゃんもね!」
そして、狐燐とルナ、そして諸悪の根源たるマリアさんが、観戦者として離れた場所で声援を送ってきている。
三人とも、金属製の一面が開いた豆腐ハウスのような物の中に入っており、狐燐はその中で、クッションに囲まれた状態で寝そべっている。手元にはお盆に乗ったお菓子とお茶まで完備されている徹底ぶりだ。
もちろん、その豆腐ハウスは俺が狐燐に求められ【金属操作】で作った物だ。クッションも俺が〈拡張保管庫〉に入れて持ってきた。
…………なんで俺はあんなダダ甘な対応をしてしまったのか。自分の事ながらよくわからん。
多分寝起きとかで頭が働いていない状態で駄々を捏ねられて、相手をするのが面倒でイエスマン化してしまったんだろうな。
そんな狐燐の隣には、ルナが背中に一本棒が入っているような綺麗な姿勢で立っており、甲斐甲斐しく狐燐の世話を焼きながら、俺達へここからでも分かるくらい熱い視線をこちらに送ってきている。
先ほど、本人から話を聞いたのだが、この場にメイド達の誰が来るかで熱いバトルがあり、ルナはそれに見事勝ち抜いた末にあの場に立っている、らしい。『その代わり、他の個体へ、お二人の勇姿を【念話】で逐一報告する事になりましたので、なかなか大変です』って、すっごい晴れやかな顔で言われた。全然大変そうに見えない。むしろ超誇らしそう。
というか分かってる? これ、ただの模擬戦だよ? 名誉とか大金が懸った、一世一代の大勝負とかじゃないからね?
マリアさんは…………いやなんでそんなにキラキラした目でこっち見てくんの。こっち見んな。ほら、あっちは憧れのレベル六冒険者だよ? その勇姿をしかと見届けなさいな。
つーかあなたも仮にもメイド服着てるんだから、ルナと一緒に狐燐の世話を……って違う。狐燐はそんな歓待を受けるような立場じゃない。ただの無職の居候だよ。あまりに堂に入っていて間違えた。
離れた場所から見ると、どこぞの王族とそのお付き、みたいな雰囲気を醸し出している三人に気を取られていると、別方向から声が掛かった。
「よーし。準備はいいか? こっちはいいぜ?」
少し離れた場所で、身体を動かして装備の調子を見ていたらしいジャンが、こちらに声を掛けてきていた。
あちらの準備は終わったらしい。
「こっちもいいよ。で? どんな感じでやる気なの? 一対一? 二対二? 出来れば二対五は勘弁してほしいんだけど……」
本心としては零対零、つまり無効試合にしていただきたい所なのだが、さすがにそこは空気を読んだ。
「さすがに二対五はねえよ。まあ、それぞれの力量を確認したいから一対一がいいだろうな。そうだな、まずは…………レン、お前からにすっか」
「俺? 分かった」
首を横に振って二対五、つまりパーティ単位での模擬戦を否定したジャンは、少し考えた後、最初の相手に俺を指名してきた。
「じゃあ私は次だね。レンちゃん、頑張って!」
「あー、うん、まあなんとか怪我しない様に頑張るよ」
先鋒となった俺がその場に残り、大将となったメリアさんが、俺にエールを送ってから側から離れていく。
メリアさんが狐燐達の小屋まで移動した事を見届けてから視線を前に戻すと、ジャンが大剣を構えた状態でこちらを見据えており、俺とジャンの丁度中間付近の位置に、審判役なのかキースが立っていた。
ちなみに、ジャンの大剣と、レミイさんとレーメスの短剣は、俺が準備した模造剣だ。
基本の素材は鉄で通常の武器と一緒だが刃はなく、さらに人に当てる部分には厚めに木を貼り付けており、多少安全に配慮している。本当に多少。
最初は全てが木製の武器を準備しようとしたのだが、重量が軽すぎて勝手が違いすぎる、という事で却下された。
一応、当てるのは防具の上からのみ、というルールにはしているし、危なくなったら他のメンバーが止めに入る事になってはいるのだが、そんなもん間に合うか正直怪しい所だし、あんなデカくて重い金属の塊でぶん殴られたら、防具の上からでも十分致命傷だと思うのだが……。まあ結界を信じるしかないかな。
俺の打撃がジャンに通用するとは到底思えないし、そっちを気にする必要はないだろう。最近忙しさにかまけて訓練もしてないしね。ぶっちゃけまともに動けるのかも怪しい。
…………さて。グダグダ考えるのはとりあえずここまで、ここからはジャンとの戦闘に集中しよう。死にたくないし。
〈拡張保管庫〉から〈ゴード鉱〉と鉄の合金を取り出し、【金属操作】を発動。俺の武器である棒と【翼】を生成する。
【翼】は防御時に使用する予定なんだけど……広げてると邪魔だな、畳んでおこう。
俺が棒を持ち、【翼】を畳んだ所で準備完了と判断したらしく、キースが合図の為に片手を高く掲げた。
「それでは…………始め!」
……
…………
「ぜえ……ぜえ……」
「はあ……はあ……」
「えー…………。これは、引き分け、という事にしましょうか」
審判役のキースが困った顔でそう宣言した瞬間、俺とジャンは同時にその場にぶっ倒れた。
あ、誤解のないように言っておくと、二人共無傷です。ぶっ倒れたのは疲労のせいです。
模擬戦は長時間に渡った。だが熾烈は極めなかったのだ。
まず、これはある程度分かっていた事なのだが、俺の攻撃はジャンに通用しなかった。
訓練不足と実戦経験の圧倒的な差により、まず攻撃が当たらない。
偶然やら何やらが味方して攻撃が当たったとしても、幼女の身体故、元々の膂力が低い為、全くと言っていいくらいダメージを与えられない。
もちろん【身体強化】を使って強化をかけたりもしていたのだが、【身体強化】を使うと身体に思考がついていかず、動きが雑になってしまうようで、むしろ使わない時より簡単に回避されていた。
という訳で、この時点で俺の勝ちの目はない。
じゃあなんでジャンの勝ちではなく引き分けなのか、と言うと、ジャンの攻撃も俺に通用しなかったからだ。
ジャンの攻撃は、俺の結界の第一層は割と頻繁に抜いてくるのだが、第一層を抜くのと第二層の爆発反応結界で勢いを削がれる為か、第三層を抜く事が出来なかった。
そんな感じで、お互いに有効打を入れる事が出来ず、なんとかならないかと色々試行錯誤を繰り返している内に、共に体力が尽きてしまった、という事だ。
本来であれば、大の大人で、しかも歴戦の冒険者であるジャンと、幼女の身体の俺だと、体力の絶対量に天と地程の差があるはずなのだが、毎日忙しなく動いている俺と違い、ジャンは最近訓練もサボり気味、依頼も受けずに屋敷でグウタラしていた為に差が縮まってしまったらしい。
あと俺、前の世界で適度にバレないようにサボるテクニックを身に着けているので、それも影響したようだ。世の中、何が役に立つのか分からないものである。世界自体違うけど。
そんな事をぼんやりと考えながら、地面に大の字で寝っ転がりながら息を整えていると、同じく荒い息を吐いているジャンの元に、他のパーティメンバーが近づいてくのが見えた。
「どうしたんだよジャン。お前、動きが大分鈍かったぞ。いくら相手がレンだっつったって、相手は子供だぞ? そんなんで大丈夫なのかよ?」
「ぜえ……ぜえ……。いや、あいつ、硬すぎんだよ……。お前もやってみたら分かる……ぜえ。つーか、お前らだって、ぜってえ、人の事いえねえぞ……。ぜえ……俺と一緒にダラダラしてたんだから、な……」
「まじか……。確かに、最近体が重いような気が……。やべえ。訓練しないと」
ジャンの体たらくに苦言を呈しようとした所、思い当たる節のある反撃を受けて絶望の表情を浮かべるレーメス。キースもだな。
だがそんな二人と比べ、レミイとセーヌは微妙に嫌そうな表情を浮かべている。
昨日の『なんで冒険者をやってるんだろう?』という疑問がまだ尾を引いているのだろうか。『冒険者としての訓練なんて、やる必要あるの?』みたいな感じだろうか。
じゃあ俺から二人へ、是が非でも訓練したくなる魔法の言葉をお送りしてしんぜようではないか。
「はあ……はあ……そうだぞ……うっぷ。というか、このままの生活を続けるとお前ら……太るぞ」
「「!!!!?????」」
俺の発した魔法の言葉は、呼吸を整えている最中故、ボリュームが小さかったにも関わらずジャン達の耳にしっかり届いたようだ。
二人の麗しき女性には効果覿面だったらしく、驚愕の表情で雷に打たれたかのように身を震わせた。
そして次の瞬間には、やる気と焦燥と恐怖が入り混じった表情を浮かべつつ、大声を上げた。
「さあ! 訓練だ! 訓練しよう! ほらほら早く! 一刻も早く調子を戻さないと!」
「そうですわ! 私達はレベル六冒険者! 我々がこんな体たらくでは後続の者達に示しがつきませんわ!」
「お、おう……。なんかいきなりすげえやる気になったな」
「それほど、レンさんの一言が突き刺さったという事ですよ。特に最後の部分」
突然の女性陣の豹変っぷりに若干引いているレーメスに、その意味と理由故に、ちょっと声に呆れが滲むキース。
「ぜえ……ぜえ……。いや、待て。俺はまだ動け――」
そして未だ疲労から回復しきれず、なんとか休憩の時間を得ようと声を上げたジャンだったが、今や『このままだと太る』という強迫観念に突き動かされている女性陣には通じない。
「そんなんじゃ駄目だよ! 動けないって思ってからが本番! 魔物は疲れたからって待ってくれないんだよ!?」
「その通りですわ! さあ! さあさあ! 皆で訓練して体を動かしますわよ! ……ではお二方。我々は鈍った身体と勘を取り戻す為に訓練をする事にしましたので、本日の模擬戦はここまででお願いします。とはいえ、メリアさんの実力も確認しておきたいのも事実ですので……。そうですわね。明後日の同じ時間はいかがでしょう?」
「うん。私は大丈夫だよ。…………がんばってね!」
「はい!」
よほど早く訓練を始めたいのか、小走りで俺の元に走り寄り、機関銃の如く捲し立てるセーヌさん。そしていつの間にか俺の近くまで寄ってきていて、それを快く受け入れるメリアさん。
メリアさんの激励を受けて、とても良い笑顔で頷きつつ、俺達の元から離れていくセーヌさんの背中を眺めながら、メリアさんがポツリと呟いた。
「なかなか酷いねレンちゃん。まあ私も、最近のジャン達にはちょっと思う所があったから、丁度よかったかな?」
「聞こえてたんだ…………ふう。よい、しょっと。俺は事実を言っただけだよ。まあ、おねーちゃんの言葉じゃないけど、後は頑張ってねって事で」
そこそこ息も整ってきたので、背中の【翼】を操作して起き上がる。地味に便利だなこれ。色々応用が利きそう。
それはさておき。今回の模擬戦、とりあえず俺のターンは終わった。結果は引き分けだったが、対人戦で出せるレベルでは全て出し切ったので、個人的には割と満足だ。
次は明後日。メリアさんのターンだな。
はてさて、どうなることやら。
戦闘描写が始まると思った? 残念。省略しちゃいました。
…………まじで戦闘描写書く練習しないと。このままじゃ不味い気がする。
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