第138話 孤児院に行った。③
「あ! おねえちゃんたちもどってきた!」
孤児院に提供する為の布製品を買い漁り、仮宿に戻ってきた俺達を目ざとく見つけた子供が声を上げた。
その声に他の子供達も俺達の存在に気付き、次々に駆け寄って来て、子供特有の甲高い声で我先にと話しかけてくる。
「ほんとだ!」
「りょーりおいしかった!」
「おなかいっぱい!」
「おねえちゃんありがとー!」
『ありがとー!』
――――まあ、実際に取り囲まれてるのはメリアさんで、俺は軽く蚊帳の外なんだが。メリアさんの隣にいるのに誰一人来やしないぜ。
当のメリアさんは、両手一杯に荷物を抱えているのと、相手が子供な事もあって迂闊な事も出来ない為に完全に身動きを封じられてしまい、ちょっと困った感じの笑顔で子供達の相手をしている。
……いや、そんな助けを求めるような目で見られても、俺にもどうしようもないよ。頑張ってメリアさん。独身だった俺と違って、子供の扱いは上手いでしょ?
メリアさんが子供達の壁によって身動きが取れなくなってしまったので、代わりに俺が院長さんの元に報告に向かう。俺が傍を離れた途端、メリアさんから『裏切り者!?』みたいな視線を投げかけられるが、サクッとスルーだ。
「院長さん。服と毛布を買ってきました。運び込むのを手伝ってもらえませんか? 結構量があるんですけど、おねーちゃんはあんな状態なので……」
チラっと視線を向けると、メリアさんは相変わらず子供達に全周包囲されていた。
うん。あれはしばらく使い物にならんわ。
「食事に留まらず、服と毛布まで…………この建物といい、本当になんとお礼を言えばいいか……」
院長さんは感極まったようで、おいおいと泣き出してしまった。周りを見ると、他の職員さん達も軒並み涙ぐんでいる。
今までの生活を考えればしょうがないのかもしれない。あんな廃棄物一歩手前な物を使わなきゃならず、ほんの僅かに食事が減る可能性を考えて、子供達に食事の準備をさせないという選択を採らなくてはならないような状況だったんだから。
だが、この状況は宜しくない。非常に宜しくない。どう宜しくないかと言うと――――
「あー! おねえちゃんといっしょにきたこがせんせーたちなかせてるー!」
「あ、ほんとだ! こらー! せんせーたちをいじめるなー!」
『いじめるなー!』
予想通りというかなんというか。案の定、勘違いした子供達が職員さん達を守ろうと、泣かせた原因である俺の元へ押し寄せてきた。
職員さん達を助けようと我が身を顧みず突貫してくる子供達に、いい子達だなあ、なんて現実逃避してみる。
だがいくら目を逸らしたところで、世界が都合よく変わる事なんてない。むしろ行動が遅くなる為に悪化する事の方が多いだろう。今回もそうだ。
子供達から逃げる機会を逸した俺は、為す術なく子供達の津波の飲み込まれる事となった。
「ち、違う! いじめてない! 勘違いだ! 話を聞いてってぎゃー!?」
ちょ、皆さん、見てないで助けて! 俺今、割とピンチなんで…………!
助けを求め必死に手を伸ばすが、その手を掴む者はおらず、大勢の子供達による攻勢に、俺は無様に沈んでいく事しかできなかった。
……
…………
『ごめんなさーい…………』
「……分かってくれればいいよ。うん」
服グチャグチャの髪ボサボサな、割とボロボロな状態で、俺は子供達の謝罪を受け入れる。
うん。見た目はこんなんでも中身は立派な大人だからね。この程度で怒ったりはしないのだ。
「いやー、さすがのレンちゃんも、子供達には勝てなかったかあ」
むしろニヤニヤ顔でそんな事を宣うメリアさんに怒りが沸くね。俺が子供達にわちゃわちゃにされているのを止めようともしないで、楽しそうに眺めてたからね。酷い話だよ。
「私が似たような状態だったのに、助けてくれなかったお返しだよ」
「ぬぐ……」
まさかの因果応報だった。次からはちゃんと助け舟を出そう。色んな意味で俺の方がメリアさんより弱いから、返ってくるダメージへの耐性に差がありすぎる。
「申し訳ありません。いきなりの事で気が動転してしまって…………」
「あー、いや、ほんとに気にしないでいいですよ。怪我をした訳でもないですし」
「ありがとうございます。本当に良く出来た子ですね。この子達も、あなたのように育って欲しいものです」
「む……」
院長さんが、子供達の襲撃から俺を守る事が出来なかった事を謝罪してきたので、乱れに乱れた服と髪を軽く直しながら答えると、慈愛に満ちた表情で俺の頭を撫でてきた。精神年齢三十歳としては恥ずかしい事この上ないのだが、見た目は六歳だし、院長さんも俺の事を子供だと思って接しているので、拒否するのも憚られる。
なので恥ずかしさを抑えてナデナデを受け入れたのだが…………。
「ふわぁあああ…………」
何これ。めっちゃ気持ちいい。撫でられてる頭から全身に快感と多幸感が広がっていく。撫でられているのは頭だけなのに、全身がポカポカしてきて力が抜けていく。
やばい。これ、癖になりそう……。
「おやおや。あまり撫でられ慣れていないようですね。いけませんよ。子供とはちゃんと触れ合っていかないと。いくら賢いとは言っても子供は子供です。こういったちょっとした触れ合いはとても大事なのですよ?」
俺がフニャフニャ蕩けているのを見て院長さんが微笑み、次いでメリアさんへ顔を向け、苦言を呈した。俺がメリアさんから軽く育児放棄されていると思ったらしい。
いや待って。元々メリアさんはスキンシップが過剰気味だったなの。なんとか減らしていって今のレベルまで持って行ったの。それを元に戻すような事言わないで。
「ですよね! 本人から言われて抑え気味にしてたんですけど、やっぱり触れ合いは大切ですよね! これからはドンドン触れ合っていこうと思います!」
「はい。そうするのがよろしいでしょう。このくらいの年頃の子は、こういった触れ合いを恥ずかしがる事も多々ありますが、それは構って欲しいという気持ちの裏返しです。特にこの子は普通の子より早熟のようですので、そういった面が顕著かもしれませんが、そういう時こそ、目いっぱい甘やかしてあげましょう」
「はいっ!」
ああああああ……。メリアさんがソノ気になってしまった……。俺の今までの努力が水の泡に……。
これからまた、頭頂部から火が出るんじゃないかってくらい撫でられたり、頬が擦り減るんじゃないかってくらい頬ずりされたり、全身の骨が悲鳴を上げるくらい抱き締められたり
する日々が始まるのか……。いや、メリアさんから愛情を向けられるのは嬉しいんだけどね? ちょっと手加減してほしいというか……。
はあ。怪我しないように気を付けよう……。【身体強化】をかければなんとかなる、かなあ?
…………ん? 何か忘れてるような気がするな? なんかあったっけ……………………あっ!
「親方さん放置してる!?」
「「……あっ!?」」
すぐさま三人で親方さんを探し回り、自分の店に戻っていたのを発見。全力で謝罪した。
親方さんは最初こそ不機嫌だったが、繋ぎの住居を見つけたので、孤児院の建て直しを決めた事を伝えると途端に笑顔になり、その場で見積もりを作成、手渡してくれた。
仕事早すぎじゃね!? と思ったが、話を聞くと、俺達が院長さんを拉致、もとい連れ出したのを見た時点で、建て直しの話が問題なく進むと判断。自分の店に戻って見積もりの作成、建築資材の準備を先行して始めていたらしい。超有能。
渡された見積もりを見た所、なかなかの金額が記載されていたが、俺達は全員建築に関しては素人なので相場が分からず、記載された金額が適正なのか分からなかった。
ただまあ、親方さんは〈鉄の幼子亭〉の常連で、人となりはある程度知っているので問題なかろう、という事で金額の交渉はしないで、さっさと契約を締結した所、何故か親方さんから呆れたられた。
しゃーないじゃん。値札に書いてある金額をそのまま払うのが普通の場所で生まれ育ったんだから。値引き交渉なんてした事ないから限度が分からないし、親方さんは不当に値を吊り上げるような人じゃないのは知ってるし。
早速、明日から孤児院の解体を始め、解体が終わり次第建築に入るとの事だったので、連絡先として孤児院の人達の繋ぎの住居となった建物の住所を伝えた。
(レン様っ! 少々よろしいでしょうかっ!?)
親方さんの店から出て、一度仮宿に戻ろうかという所で、睦月から【念話】が飛んできた。
今日睦月は〈鉄の幼子亭〉でリーダー業務だったはずだな。店で何かあったんだろうか。
(大丈夫だよ。何か問題でもあった?)
(いえ、問題があった訳ではではないですっ! 今しがたクリス様がお店にいらっしゃいまして、なんでもレン様と主に指名依頼が入ったらしいので、冒険者組合に来て欲しいとの事でしたっ!)
指名依頼って……。俺、レベル的に指名依頼は受けられないはずなんだけど……。
まあいいや。そこに関してもクリスさんから聞けばいいか。
(りょーかい。それじゃすぐに向かうね)
(あ、いえっ! クリス様は今休憩中らしく、店で食事中なので、少し時間を空けた方が宜しいと思いますっ!)
(あ、はい)
休憩中ならしょうがない。睦月の言う通り、時間を空けてから組合に向かおうか。
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