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第125話 狐燐とジャンのデートをちょっと見守った。なんか連れてきた。

 カッツェさん達と俺の話が終わるや否や、ジャンが狐燐に仕掛けたナンパがまさかの成功。翌日のデートを取り付けた。


 そして今日がその翌日。開店準備の為に出勤した所、まだ開店までかなり時間があるにも関わらず、店の前にジャンが立っていたのだが、その変わり様に三度見してしまった。


 下ろし立てのような綺麗な服を着、手で雑に撫でつけただけだった髪にはしっかり櫛が通され、無精ひげは綺麗に剃られている。

 体もしっかり洗ったらしく、普段なら近づいただけで匂ってくる汗臭さもない。


 もうね。超イケメン。ハリウッド俳優もかくやというレベル。


 元々イケメンな事は知ってたけど、ちょっと身綺麗にしただけでここまで変わるのかと驚いたよ。普段からこれくらいちゃんとしてれば、ナンパなんてしなくても引く手数多なんじゃないの?


 でもね、いくら待ちきれないといっても、日の出直後くらいから待ってるのは早すぎだよ。せめて開店直後とかにしてくれ。薄暗い中店の前に立ってるの見て、オバケかと思ってチビりそうになったから。

 まだまだ開店まで時間があるし、いつまでも店の前に立たれると俺と同じ思いをする人が続出しそうだったので、強制的に入店させて店内で待ってもらう事にし、俺達はいつも通りに開店準備を開始。いつも通りの時間に開店した。


 開店後も、いつも通りに給仕や配膳をしていったが、ふと思い出してたまにジャンが座っているテーブルに視線を向けると、テーブルを占有してるんだからと無理やり注文させたジュースをチビチビ飲みながら、チラチラと入口を気にしているのが見えた。超挙動不審で、見ててちょっと面白かった。


 狐燐が店に来たのは、開店してから二時間ほど経ってからだった。といっても狐燐は身分証を持っておらず、通常の手段ではイースに入れないので、【いつでも傍に】を用いての、入口からではなく厨房からの登場だ。


 ああ、そうそう。狐燐だが、何故か【いつでも傍に】と【念話】が使えた。


 本人が言うには、『ご主人と契約を結んだ事で繋がりが出来、それが元々あったメイド達との繋がりと統合したのではないか』との事だった。そんな事で使えるようになるの? と疑問に思ったが、実際使えているって事はそういう事なんだろう。


 とりあえず、どうせ使えるなら使わなきゃもったいない、という事で、【念話】は自由に使ってもらって構わないが、【いつでも傍に】は人前で使わないように、と言い含めた上で両【能力】(スキル)の使用を許可した。メリアさんが。狐燐の主人はメリアさんだからね。俺にはどうしようもないのだ。


 なので、今回の登場もメイド達に送ってもらった訳ではなく、自分で【いつでも傍に】を発動しての事だ。前もって【念話】で連絡を取り、厨房にいる為、客の目に触れにくい俺を目標に設定して転移してきた。めっちゃ使いこなしてる。


 狐燐はジャンのように気合を入れて身だしなみを整えたりした様子もなく、服装もいつもと同じ赤いドレスだった。


 屋敷の中でも、だらけてはいるけれど身だしなみは結構ちゃんとしてるし、心構えからしてジャンとは違うのだろう。

 まあ狐燐の場合は、少しドレスを着崩したりしていても、『だらしない』ではなく『退廃的でエロい』になるので、参考にはならないけど。ずるい。


 狐燐は客と店員が入り乱れる店内を、優雅な身のこなしで誰にぶつかる事もなくジャンの座っている席まで移動し、席についた。

 椅子に座る時、スリットから白い太ももが際どい所まで露出し、男性客の視線を釘付けにし、その美しくも艶めかしい所作に、女性客は羨望の眼差しを向ける。店内の客の視線は狐燐に釘付けだ。狐燐の存在感の前には、イケメン度が増したはずのジャンですら空気である。


 ジャンと狐燐は手始めに二言三言会話し、ジャンが近くを通りかかった給仕に声を掛ける。タイミング的に狐燐用の飲み物と、会話の妨げにならない程度に軽く摘まめる物だろう。


 ――――と思っていたのだが、【念話】で給仕を担当したメイドから受けた注文は、お茶一つと、トンカツとメンチカツをパンとスープ付きで各一人前。


 こいつら、ガッツリ食う気だ!? いやいいけどさ!? 初っ端からそれ!?

 うわ、そして当たり前のようにジャンが全額払っている! まあ狐燐は全く金持ってないからしょうがないけど!

 ああ、狐燐が輝かんばかりの笑顔を! これ絶対狐燐が食事する流れに持ってってる! 怖い! 狐燐怖い!


 狐燐のナチュラルな貢がせテクに戦慄しながらも粛々と注文された物を準備し、給仕に持って行ってもらう。……注文した料理が届いた時の二人の笑顔の意味合いが、それぞれ違って見えるのは偏見だろうか。


「それでですね―――――」


「ほう! それはそれは…………」


「そのあと―――――」


「くふふ。それは興味深いのぉ」


 料理が届いた二人は、食事をしながらも会話を楽しんでいるようだ。少なくとも、時折漏れ聞こえてくる会話はなかなかに弾んでいるし、二人とも笑顔だ。聞きなれないジャンの言葉遣いを気持ち悪く感じてしまうが、それは俺の偏見という事で。


 その後、食事を終えた二人は、暫しの歓談の後、連れだって店から出て行った。手を繋いだりこそしていないが、割と二人の距離は近い。


 ………………ふむ。


 最初こそ、狐燐が食事を強請る為にジャンのナンパを受け入れたのかと思ったのだが、よくよく考えてみれば、狐燐はうちの屋敷に住んでいるんだから、わざわざそんな事しなくても食いっぱぐれる事はない。


 じゃあ高級店での食事を強請るのかと思いきや、そんな事もせず、集合場所とした〈鉄の幼子亭〉で食事をしていった。軽く摘まむ、というレベルではなく、それはもうガッツリと。


 ジャンが全額出した事は確かだが、うちで出している料理は割とリーズナブルなので、金額的には大した事はない。遠目で見た感じ、おねだりをしているようには見えなかったので、狐燐もジャンの財布の中身を吸い上げようとしている訳ではなさそうだ。


 ………これはもしや、本当にナンパが成功したのか? ジャンに春が来たのか?


 ………………うーむ。分からん。俺、そういう経験値少ないからなあ。前の世界ではフツメンだったから、人並程度しかお付き合いとかした事ないし。

 とりあえず今の所は静観して、ジャンが貢ぎ始めたりして、雲行きが怪しくなってきたら狐燐に確認しよう。


 ……


 …………


「戻ったのじゃ!」


 数時間後、ドアが開く音と共に、狐燐の帰宅を告げる声が聞こえてきた。


「ん? ああ、おか……え…………」


 客じゃないなら裏口から入れよ……。等と思いつつ視線をドアに向けた俺は、狐燐の姿を視界に収めた所で固まった。

 ドアの前には、狐燐の他にジャンも立っていた。まあそれはいい。色々気になる事はあるが、それは置いておこう。


 だが。俺の視線の先には意味の分からない光景が広がっていた。


「…………なに、その子達」


「拾った!」


 狐燐達は五人の子供を連れ帰ってきていた。


 狐燐は両手でそれぞれ一人ずつ手を繋ぎ、腰の辺りの服を別の子に握りしめられた状態で満面の笑みを向けてきており。

 ジャンは一人を片腕に抱き、一人を肩車した状態で、苦笑いを浮かべている。


 俺は数秒のフリーズを経て我に返り、頭を抱えながら厨房から出て、狐燐の元まで移動した。


「そんな、野良犬じゃないんだから……しかも五人も」


「ちょっと縁があってのぉ。それより、こいつら腹が減ってるようでの。何か食わせてやりたいんじゃが」


 …………経営者としての立場で考えれば、にべもなく断って、子供たちは店から追い出すのが正しいだろう。何か食べさせたいと言っても、狐燐は金を小銅貨一枚たりとも持ってないし、ジャンが支払うのも違うだろう。


 この子たちはおそらく貧しい家の子供か、いわゆるストリートチルドレンの類だろう。どの子もガリガリに痩せて顔色も悪く、服もボロボロで髪もボサボサ、顔も埃やら何やらで薄汚れている。そんな子達が店で食事が出来るほどの金を持っているとは考えにくい。


 つまり、この子達に食事を提供するには、無料で振舞わなくてはいけないという事だ。


 そして、この子達と同じ境遇の人はおそらくだが、まだまだ沢山いる。この子達に食事を無料で振る舞った事が広まれば、そういう人達が際限なくやって来る事は想像に難くない。『こいつらに食わせたんだから、同じ境遇の我々にも』といった具合に。


 そんな事になってしまえば俺達の生活が危ぶまれるし、第一お金を払って食事をしに来ている客に申し訳が立たない。


 あーくそ。言いたくない。言いたくないけど、言わなきゃいけない。

 そのせいでこの子達から恨まれるような事になっても。俺には二十人近い家族を養っていかなくちゃいけないんだから。慈善事業に力を入れた結果、こっちまで破滅、なんて事態には絶対に出来ないのだ。

 心を鬼にして、この子らを、追い出す。


「…………申し訳ないけど、む――」

「ちょっと待って」


 意を決して口に出した断りの言葉を遮ったのは、少し離れた場所で静観していたメリアさんだった。

 結構気合を入れて言おうとした言葉をバッサリと断ち切られて、口をパクパクしている俺を放置し、メリアさんは狐燐達へ近づいていく。


「とりあえずさ、事情とか何もわからないままだと何も決められないし、奥で話さない? この場で話す内容でもないと思うし」


 狐燐達の前まで移動したメリアさんがそう言って指さしたのは、従業員の休憩室として使っている部屋だった。

 確かに、あそこなら他の客の迷惑にもならないし、この人数だとちょっと狭いかもしれないが、一応全員入れるくらいのサイズはあるはずだ。使ってる間、従業員が休憩に入れない、という弊害はあるが、休憩をズラしてもらうか、【いつでも傍に】で屋敷に戻って休憩してもらえば大丈夫だろう。


「妾は構わんぞ。お主らも良いかの?」


 狐燐はメリアさんの提案に即答で承諾し、それから子供達に顔を向けた。狐燐からの視線に子供達も揃って無言で頷き、承諾の意を示した。


「決まり。じゃ、行こうか」


 メリアさんは子供達が頷くのを確認してから歩き出し、それを追うように狐燐、ジャンの並びで店の奥へと歩を進めていくのを、俺は最後尾から付いていった。


 ジャンの腕に抱かれている子が振り返りながら向けてくる視線が、俺を糾弾しているように感じられ、俺はその視線から逃げるように目を伏せた。

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[一言] 飲食店だから衛生的じゃない人たちはちょっと……
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