少しくらい、拗ねたって
「せ、セナ、ほんとに大丈夫だから、下ろして……」
私は顔を見られないようにしながら、私をお姫様抱っこしながら、街中を歩いていくセナにそう言った。
「足が治るまでは、だめです」
すると、セナはそう言ってきた。
私を心配してくれてるってのはわかるけど、ただの筋肉痛なんだよ。
「き、気持ちは嬉しいけど、ただの筋肉痛だから。我慢したら、少しくらいは大丈夫だから」
だから、私はそう言った。
「マスターが我慢するなんて、絶対だめです」
そんなこと言ったら、今、私は我慢してるよ。……セナのせいで襲われてる羞恥心を、めちゃくちゃ我慢してるよ。
「……もう、分かったから。宿に行こう。宿だったら、ベッドに座れるから」
「分かりました」
私は思ったことを言わずに、そう言った。
だって、セナが私を心配して、私のことを思って抱えてくれてるのは伝わってくるから。
すると、セナは素直に頷いてくれた。
……羞恥心を誤魔化すために、今は、セナの体温でも感じてようかな。
「マスター、ありましたよ」
「あ、うん。……セナ、ちょっとでいいから、下ろしてくれない?」
宿の前に着いたみたいだから、私はそう言った。
だって、もう今更かもしれないけど、宿の人にも、このまま、部屋を借りるなんて、恥ずかしいから。
「だめですよ?」
「……もう、早くして」
私は諦めて、そう言った。
すると、私をお姫様抱っこしたまま、セナは宿の中に入って行った。
「……一部屋、借してください」
「えっ、あぁ、はい」
宿の人にそう言って、私はお金をセナの腕の中から、渡した。
すると、宿の人はびっくりしたような様子で、頷いて、部屋の鍵を貸してくれた。
「……セナ、下ろして」
「はい」
部屋までセナに抱えられて、移動した私は、そう言って、今度こそ、下ろしてもらった。顔を赤くしたまま。
「……もう、今日は寝る」
そして、赤い顔を布団で隠すようにして、私はそう言った。
「はい、分かりました。……私も、入っていいですか?」
「……好きにしたら」
私は布団を片手で少し持ち上げて、拗ねたようにそう言った。
セナのせいでこんな恥ずかしい思いをしたんだし、別に、少しくらい拗ねたって、いいでしょ。




