絶対汗臭いから
「……セナ、この辺にある川の場所とか、分からない?」
辺りが暗くなってきて、足が痛い。……いつもだったら、セナにお姫様抱っこをされて、眠ってる頃なんだけど、こんな汗だくのまま、セナに抱えられるなんて、出来ない。
だから、私はそう聞いた。
「……無いです」
「え、な、無いの?」
「はい」
すると、セナはなんでもない事のように、そう言ってきた。
分からないとかじゃなくて、無い? ど、どうしよう。断言されちゃったんだけど。……嘘でしょ。もう足も痛いし、ほんとに限界なんだけど。
「マスター、もう夜になりましたし、いつもみたいに、私が運びますよ」
そう言って、セナが私を抱えてくれようとしたんだけど、私は咄嗟にそれを避けた。……と言うか、セナから離れた。
セナの気持ちはありがたいけど、今の私、絶対汗臭いから、今は無理! だめだよ。
「……マスター? 嫌、でしたか?」
セナは悲しそうに、目に涙を貯めながら、そう聞いてきた。
「そ、そんなわけないから。セナが嫌な訳じゃなくて、今、私が汗だくだから、嫌なんだよ」
「……そんなこと、私は気にしません」
私が慌ててセナにそう言うと、セナは拗ねたようにそう言って、私が避けられない速度で抱きついてきた。
「せ、セナ!? は、離れて、私、今汗臭いから!」
私はそんなセナを引き剥がそうとするけど、私なんかの力じゃ、全然セナを引き剥がせない。
セナに私の汗がついて、ベタベタする感覚が嫌だ。だから、早く離れて欲しい。
そう思っていると、セナは私に抱きついたまま、匂いを嗅ぐように、顔を私の体に埋めてきた。
「ま、待って、セナ。ほんとに、お願い。臭いから。やだ、やだ、セナに臭いって思われるのやだから」
「大丈夫です。マスターの匂い、好きですから」
意味、わかんないよ。……いつも、匂いを嗅いでくる時、臭いのか臭くないのか、分からない言い方しないでよ。……好きって言われても、不安になるから。
「せ、セナ……あ、後で、水浴びとか、した後ならいくらでも嗅いでいいから、ね?」
「……嫌です。それじゃあ、匂いが落ちちゃいます!」
……いや、その匂いを落としたいんだよ私は。その匂いを嗅がれたくないから、後にしてって言ってるのに。




