もしもの時のために
セナとあの人だかりを離れた後、セナが妙に機嫌が良さそうで、にこにこしている。
私も、セナが楽しそうな分には嬉しいから、自然とにこにこしてきちゃいそうなのを我慢しながら、一緒に街を適当に歩いた。
セナは美少女だから、にこにこしながら歩いててもいいけど、私が変ににこにこしながら歩いてたら、変に思われそうだから。
そんなことを考えながら、セナと歩いていると、冒険者ギルドが見えてきた。
……ギルドに来る予定はなかったんだけど、正直、結構お金が無くなってきてるから、寄っていこうかな。
って言っても、私は何も出来ないんだけどさ。……ただ、セナに着いていくだけ。……いや、セナは私に着いてきてくれるから、私が連れていくだけかな。
「セナ、依頼受けたいんだけど、いい?」
「はい! もちろんです!」
「ありがと。……あ、それと、私も、セナにばっかり任せないで、戦ってみたいんだけど」
セナが頷いてくれたところで、私はそう言った。
「マスターには私が居るので、マスターが強くなる必要は無いですよ?」
すると、直ぐにセナはそう言ってきた。
「え、でも、少しでも、セナの負担にならないように、私も戦えた方が良いと思うんだけど」
「マスターには私が居るので、大丈夫ですよ」
私は少しでもセナの負担を減らせたらいいなと思って、そう言ったんだけど、セナは嫌? なのか、同じようなことを言って、だめだと言ってくる。
「確かに、セナが居たら、大丈夫だろうけど、セナと離れ離れになってる時に、何かが――」
「私がマスターから離れることなんて、ありえません」
何かがあった時に、一人でもどうにかできるように。そう言おうとしたんだけど、セナが私に抱きつきながら、私の言葉を遮ってきた。絶対に離れないとアピールするように。
「私だって、セナと離れる気なんてないけど、イレギュラーが起きる可能性だって、あるでしょ?」
「そんな可能性は無いです。私は何があっても、マスターから離れません」
すると、セナはそう断言してきた。
気持ちはもちろん嬉しいんだけど、もしものことは考えておいた方が良いと思うんだけどな。
「マスター、依頼、受けに行きましょ?」
私がそう考えていると、セナは私に抱きつきながら、上目遣いでそう言ってきた。
……可愛い。……い、いや、可愛いのに誤魔化されちゃだめだ。
「マスター? 行かないんですか?」
「……行く」
……また今度、教えてもらえばいい、かな。
現実逃避な気がするけど、セナが可愛いから、いいや。
そう思って、私はセナと一緒に、冒険者ギルドに入った。




