早く手の届かないところに
「……ん、おはよう、セナ」
「おはようございます、マスター」
セナに抱えられて、目を覚ました私は、そう言った。
……昨日、夜は眠れないと思ってたのに、知らないうちに眠ってたみたい。
「ここ、何処?」
そして、続けざまにそう聞いた。
だって、私が起きてる間に少なくとも、街を三個くらい通り過ぎてるから。……追っ手から逃げるために、速さを上げたセナはそれくらい速かった。……セナが何かしてくれたからか、風圧とか、揺れとかは全くなかったんだけど、馬より速いあの光景は普通にちょっとだけだけど、怖かった。……馬の速度とか知らないけど。
思ってたより速かったんだもん。……まぁ、セナに抱きついてたから、大丈夫だったけどさ。
「適当に歩いてきたので何処かは分かりませんけど、マスターに作り出していただいた街とは離れていますよ」
……もうそろそろ、他国に足を踏み入れててもおかしくないと思うんだけど、まだ、追ってくるのかな。
……違う国なら、いくら貴族でも、追って来れないと思うし、早く違う国に着いて欲しい。
「ありがとね、セナ。……でも、そろそろ、街に入りたいな」
一刻も早くあの貴族の手が届かないところまで逃げたい気持ちはもちろんある。……だけど、お腹空いた。……このままじゃ、お腹の音が鳴って、セナに聞かれちゃうよ。
昨日、夕食が食べれるってところで、追っ手が来たから、早く、何か食べたいんだよ。
「分かりました」
すると、私の言葉に頷いてくれたセナは、少し歩いて、一番近くにあった街に入ってくれた。
……もちろん街の前では下ろしてもらったよ。……流石に、お姫様抱っこされたまま、身分証を渡して、街に入れてもらうのは恥ずかしすぎるから。
そして、セナと一緒に街に入った私は、真っ先に料理屋さんを探した。
「あれじゃないですか? マスター」
しばらく探し歩くと、セナがそう言って、いい匂いがするお店を指さしてくれた。
「ほんとだ。じゃあ、入ろっか。……セナも後で、飲みたかったら、私の血、飲んでいいからね」
「はい!」
すると、セナが嬉しそうに、頷いてくれた。
私はそんなセナが可愛くて、少しだけ頭を撫でて、料理屋さんに入った。




