懐かしい絶望
「そういえば、騎士、どこにいたの?」
セナに抱えられて街を出たところで、私はそう聞いた。
セナの言うことを信じて無いわけじゃないけど、一度も騎士の姿とか、見てないから。
「宿にいましたよ」
「そうなの?」
「はい」
そうだったんだ。……だから、壁を蹴り破って、外に出たんだ。
……私、初めて会った日のこととか、思い出してたよ。……あの時は蹴り破ってはなかったけど、鉄格子が綺麗に吹き飛んでたなぁ。……今思うと、懐かしいよ。……あの時はこんな可愛い子を生み出しちゃって、絶望してたっけ。
「ふふっ」
私がそう考えて、セナのことを見つめていると、小さく首を傾げてきた。
あんなに強いのに、こんなに可愛いセナを見て、思わず私は笑ってしまった。
「マスター?」
すると、いきなり笑った私を不思議に思ったのか、また首を傾げながら、私のことを呼んできた。
「なんでもないよ」
一瞬、なんて言おうか迷ったけど、私はそう言って、セナに胸を押し当てるように、ギュッとした。
「そうですか?」
すると、そう言って、セナは嬉しそうにはにかんでくれた。
「うん。そうだよ」
「えへへ、マスター、好きです」
そして、私がそう言って頷くと、セナはそう言ってくれた。
「私も、好きだよ」
だから、そう返して、落ちないように、私はセナの頭を撫でた。
「セナ、もう自分で歩けるよ」
そして、私がセナの頭を撫でてから、しばらく経って、あの街から離れたところで、私はそう言った。
さっき少しでも体力つけなきゃって思ったばっかりだし、安全になったのなら、少しでも歩いて、体力をつけたかった。
「だ、だめです。……う、馬とかで、追いかけて来てるかも、し、しれませんから」
あぁ、そっか。……一応、貴族の騎士だもんね。……当然、馬で移動するのか。
……あれ、でも、馬で移動するんだとしたら、何回か、追いつかれてそうな場面が思い浮かぶんだけど。……まぁ、いいや。逃げられてるなら、問題ないし。……私にはセナが居てくれるし。
そう考えて、このままセナに運んで貰おうと思ったんだけど、どちみち、この速さじゃ追いつかれそうなんだけど。
「セナ? 私が歩いても、今とあんまり変わらないと思うけど」
そう思って、そう言った。
「い、今から、速くしますから、マスターは、掴まっててください」
すると、セナはそう言ってきた。
まぁ、確かに、私とセナで走るより、セナが私を抱えて走る方が、速いよね。……だって私、運動、得意じゃないし。……今日は追っ手が近いから、仕方ないとして、今度からは、頑張ろう。
そう決心して、私は振り落とされないように、セナにギュッ、と掴まった。




