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私もこっちの方が幸せ

「セナ、ほんとに大丈夫?」

「はい! 大丈夫ですよ」


 辺りが暗くなり始めて、私はもう何度目かになるか分からない問答を繰り返す。

 

 セナは大丈夫って言うけど、私をお姫様抱っこしたまま、辺りが明るかった時からずっと歩きっぱなしなんだよ? そりゃ心配にもなる。


「無理はしないでね」

「はい!」

 

 うん。……元気そうだね。

 と言うか、まだ街に着かないの? 確かに私は、あの街から出る気なんてなかったから、他の街の場所なんて知らないけど、これだけ一直線に進んでたら街が見えてきてもおかしくないと思うんだけど。

 ……実際は街が見えるどころか、街道すら見えない。……それに、魔物や動物も一匹も見ない。


「マスター、大丈夫ですか?」


 私がそう思って、少し不安になってきた所をセナがそう声をかけてくれた。


「大丈夫、なんだけど……全然街が見えてこないし、魔物とか動物とかを一匹も見ないから、ちょっと不安になってきちゃって」

「街なら、もう少し進んだ場所にありますよ。……それと、魔物や動物が居ないのは、私の事を恐れて、近づいて来ないんだと思いますよ」


 セナは私を安心させるように、そう言う。

 ……取り敢えず、一つずつ聞いていこうかな。


「えっと、取り敢えず……街の場所、分かるの?」

「はい! 人間や他の亜人がいっぱいいる所が街だと思いますので」

「それは、私もそうだと思うけど、ここから分かるの?」

「分かりますよ」


 凄すぎない? ……ここからどれくらい進んだところに街があるのかは分からないけど、少なくとも目視は出来ない距離って言うのは分かる。……その距離から、他の人の気配? を感じとるなんて凄いね。


「じゃあ、私の事を恐れてっていうのは?」

「それはそのままの意味ですよ」


 ……野生の本能的な感じなのかな? セナが強いのはもう分かってるし。

 まぁ、魔物に会いたい訳じゃないし、別にいいか。むしろ会わない方がいい。襲われるし。





 そうしてしばらく歩くと、私にも街が見えてきた。


「見えてきましたよ。マスター」

「うん。私にも見えてきたよ。……でも、今日は街に入れないね」

「そうなんですか?」


 セナが不思議そうに聞いてくる。


「うん。夜は街に入れないんだよ」


 夜は本来なら魔物が活性化して、危なくなるはずなんだよ。……今はセナがいるからそんな実感全くないけど。……正直私も夜に外に出たことなんてないから、魔物の活性化っていうのがどんなものか知らないけど。

 でも、夜は街の門が絶対に開かないことを私は知ってる。私が貴族とかならともかく、平民の私の為に門は開いてくれない。


 だからこそ、野宿になるわけだけど……野宿の道具なんて何も持ってない。……セナがいるから、魔物の危険が無いのだけが救いだ。


「マスター、私ならあんな壁くらい乗り越えられますよ」

「……いや、乗り越えたところで、私達は身分証を持ってないから、何も出来ないよ」


 身分証が無いと、宿に泊まることすら出来ないしね。……私も一応身分証くらい持ってたんだけど、あの街に置いてきたから。

 ……あ、でも、身分証を作るには、名前が無いとだめだ。……いや、冒険者になって、冒険者用の身分証なら、名前が無くても作れたはず。……よし、冒険者になろう。どうせお金も稼がなくちゃいけないし。

 ……私に力なんて無いけど、セナが居れば大丈夫かな。……セナに頼りっきりになっちゃうけど、それは許して欲しい。


「セナ、今日は野宿だよ。だから、取り敢えず下ろして」

「マスターはこのまま眠ったら大丈夫ですよ」


 いや、それじゃあ、セナが眠れないじゃん。

 そう思った私は、それをそのままセナに伝えた。


「大丈夫です」


 そう言ってセナは私をお姫様抱っこしたまま、ぴょんっと飛び上がり、木の上に座った。


「これなら私も休めるので大丈夫ですよ」

「……ほんとに大丈夫? 無理してない?」

「大丈夫ですよ。それに、私はマスターと離れるより、肌をくっつけてる方が幸せです」


 セナが頬を染めながらそう言った。


「そ、そう……わ、私もこっちの方が幸せ、だよ?」


 私も頬を熱くしながら、そう言った。……セナとくっついてる方が私も暖かいし。

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