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いくら優しいマスターでも

 ※セナ視点


「……殺す」


 私のマスターを怯えさせたことに腹が立って、私は思わずそう言ってしまっていた。

 それに気がついた瞬間、私は直ぐに、私に可愛らしく抱きついてくれているマスターの方を見た。

 ……大丈夫。良かった。マスターには聞こえてなかったみたい。……聞こえてたら、何かしらの反応はあると思うから。

 私はそんなマスターを安心させるために、頭を撫でながら、マスターが周りを見れないように、私の胸にマスターの顔を優しく、押し付けた。

 マスターに嫌がってる様子が少しでもあったら、悲しいけど、直ぐに辞めるつもりだったけど、嬉しいことに、マスターは嬉しそうにしてくれてるから、私はそのままの状態で、マスターの顔を包み込むように、抱きしめた。マスターに嫌な光景を見せないように。

 そして、マスターに音が聞こえないようにして、扉に向かって、私は思いっきり炎を出した。

 もちろん、マスターには熱くないように。


【ぐぁぁぁぁぁ、あ、熱い、な、なんだこれはっ!?】


 すると、複数の、そんな感じの雑音が聞こえてきた。

 

「せ、セナ? ほんとに、どうしたの?」


 ……どうしよう。マスターに言うべき、かな。


「……この前みたいな、ゴミ……騎士がいました」


 一瞬、そう考えたけど、私はマスターに正直にそう言った。さっき聞こえてきたけど、マスターに夕食を持ってくるように言われていたあのゴミは、マスターに話しかけられ、マスターの可愛い声を聞けた幸運を噛み締めることもせず、同じゴミの雑音に惑わされ、マスターに持ってくる夕食に毒を盛って、部屋に持ってこようとしていた。

 だから、鎧を着たゴミと一緒に、燃やした。


「だ、大丈夫、なの?」


 私がそんなことを考えていると、マスターはさっきより力強く、私に多分だけど、無意識で抱きつきながら、そう聞いてきた。

 

「大丈夫ですよ」


 私はマスターにそう言いながら、マスターの可愛い声を聞けたことや、私に抱きついて、私を頼ってくれていることに喜びを感じるのと同時に、せっかく、マスターが私のことを好きって言ってくれて、マスターに色々えっちなこともして、受け入れてもらって、気分が良かったのに、その気分を台無しにされた不快感が私を襲ってきた。


「お、おい! こ、こんなことして、た、ただで――」


 すると、運良く、私のさっきの炎に巻き込まれてないゴミがあったみたいで、私は適当に炎を出して、掃除した。

 私はマスターの頭を撫でながら、ゴミがいた場所を見た。

 ……よし。跡形もなく、掃除できてる。……黒く焦げてて、宿が燃えた後……と言うか、現在進行形で燃えてるけど、ゴミはちゃんと掃除できてたから、私はそのまま、マスターの頭に顔を近づけて、マスターにバレないように、ゆっくりと、匂いを嗅いだ。

 だって、こんな機会じゃなかったら、マスターが恥ずかしがって、嗅がせてくれないと思うから。……まぁ、その恥ずかしがってる姿も可愛いんだけど、いつも、マスターと一緒にベッドで眠る時に嗅ぐのは、マスターの体の匂いだから、頭の匂いも嗅いでみたかった。


「えへ、んっ」


 マスターの匂いを嗅いで、息が荒くなりそうなのを我慢していると、そんな声が思わず漏れ出てしまった。


「せ、セナ? 大丈夫?」


 すると、マスターが心配そうに、そう聞いてくれた。

 ……大丈夫じゃないです。……マスターの匂いが凄すぎて、このまま、我慢できなくなっちゃいそうです。

 

「は、い。もう、大丈夫、です、よ」


 でも、マスターが怯えてる状況で、私が興奮してるなんて知られたら、いくら優しいマスターでも、私のことを嫌いになっちゃうかもしれないから、私はそんな気持ちを我慢して、そう言いながら、マスターから離れた。

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