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名前

「今更なんだけどさ」

「どうしましたか?」

「いや、名前聞いてないなって」


 ほんとに今更だけど、私はこの子の名前を知らない。

 だから、名前を聞こうと、お姫様抱っこを未だにされながら、私はそう言った。


「私に名前はありません」

「え、ないの?」

「私はマスターに作って貰いましたので」


 そっか、そういえばそうだよね。……あの時名前を考える余裕なんてなかったし。


「じゃあ、私が名前をつけていいの?」

「も、もちろんです!」

「分かった。……ちょっと考えるから、このまままっすぐ進んでて」

「はい!」


 名前なんて考えたことないからなぁ。……真剣に考えないとね。

 まずは特徴から考えてみようかな。銀髪で赤い目……あれ? よく考えたら吸血鬼の特徴じゃない? ……いや、そんなわけないか。だって、今、日光の下を歩いてるんだから。


 変な事考えてないで、早く名前を考えよう。

 

「よし、思いついた。……あなたの名前はセナ」

「ありがとうございます! マスターからの二つ目のプレゼントです! 大事にしますね」

「うん。……これからもよろしくね、セナ」

「はい!」


 良かった。気に入って貰えて。……正直に言ったら、セナの見た目が吸血鬼っぽいから、吸血鬼の始祖から名前を取ったんだよね。……ま、まぁ、気に入って貰えてるし、いいか。


 あれ、そういえばさっき血を吸われたような……い、いや流石にありえないよね。……さっきも思ったけど、日光の下を歩いてるんだし。そんなのそれこそ始祖の吸血鬼だもんね。


「ど、どうかしましたか?」


 私が無言でセナの事を見つめていると、頬を赤くしながら、そう聞いてきた。

 うん。こんな可愛い子がそんな怖い存在なわけないね。


「ううん。なんでもないよ」

「そうですか?」

「うん。……それより私の事運びながらで疲れない? 疲れたなら全然休んでもいいし、私も歩くよ」


 時期に追っ手が来るかもしれないけど、そんなにすぐには来ないと思うし、私はそう言った。

 追っ手がもう来てるなら、正直私は体力がないし、運動神経もないから、このままの方が早いから、このままがいいけど。


「大丈夫ですよ。マスターは軽いですし、私がもっとこのままでいたいんです」

「そう? ならいいけど、疲れたら正直に言ってね。怒ったりしないから」

「はい! 分かりました。」


 無理をさせたい訳でもないしね。

 

「あ、そういえばなんですけど、マスターの名前を聞いてもいいですか? マスターはマスターですけど、知っておきたかったので」


 私の、名前……私の名前は……


 ……もう、あの人たちを自分の親だとは思えないし、あの人たちに貰った名前なんて要らない。だから、新しい名前を自分で考えようと思ったけど、今はいいや。


「私の名前は無いよ。私は、セナのマスター。それだけで充分でしょ?」

「確かに、そうですね。マスターはマスターです!」


 セナがそう言ってくれるのは嬉しいけど……自分で自分のことをマスターって言うの恥ずかしいな。

 もちろんセナに言われるのはいいんだけどね。

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