あの騎士のせいだ
「えへへ……ますたぁ……」
私がお礼の意味を込めて、セナの頭を撫でると、セナはとろけるような声を出して、嬉しそうにしてくれた。
「セナ、そろそろ下ろして欲しいな」
そして、セナの頭を撫で続けて、しばらく経ったところで私はそう言った。
ずっとお姫様抱っこされたままだったしね。……セナにこうやって、お姫様抱っこされること自体はいいんだけど、今は、心臓の音がうるさくて、セナにも聞こえてないかが不安になるから、下ろして欲しい。
あの騎士が怖くて、こんなにドキドキいってるんだろうけど、さっきまでずっと、セナの事だけを考えようとしてたから、なんか、セナにドキドキしてるみたいに思えてきちゃう。
「もう少し、だめ、ですか?」
すると、セナは小さく首を傾げて、涙目になりながら、そう聞いてきた。
可愛い。
私は思わずそう思ってしまった。
いや、何を今更考えてるんだろう。セナが可愛いことなんて、最初から分かってたことでしょ。
そう考えるけど、何故か私は更にドキドキしてきてしまった。
お、おかしい。絶対、おかしい。だって、セナは女の子で、私も女の子なんだから。女の子同士なのに、こんなにドキドキするなんて、絶対おかしい。……やっぱり、あの騎士のせいだ。……自分で思ってるより、精神的にきてたんだと思う。きっとそうだ。
私は無理やりそう自分を納得させたけど、そう考えれば考えるほど、セナのことを意識してしまって、顔まで熱くなってきた。
「い、今は、だめ。お、下ろして」
私はセナにこんな顔を見られて、変な勘違いをされないように、セナにギュッとして、顔を見られないようにしながら、そう言った。
でも、ギュッとしてから気がついたけど、こんなことしたら、余計な私の心臓の音が聞こえるかもしれない。
「ま、ますたぁ、こ、これじゃ、下ろせない、ですよ」
私が心臓のドキドキが聞こえないか不安になっていると、セナはそう言ってきた。
確かに、下ろしてって言ってるのに、ギュッとしちゃったら、下ろせないよね。……でも、今セナから離れたら、私の真っ赤になってる顔を見られちゃう。
と言うか、私のドキドキ、聞こえてない、って事でいいのかな。……もしかして、胸の厚さで分からなかったりするのかな。……だったら、もう少し、このままでいいかな……少なくとも、私のドキドキが治まるまでは、このままで。
「や、やっぱり、下ろさないで」
「い、いいんですか?」
「……うん。後で、血も飲みたかったら、飲んでくれてもいいから」
「は、はい!」
私は、このドキドキが収まるように、深呼吸をしてから、そう言った。
大丈夫、もう、収まるはず。




