マスター以外の声なんて聞きたくない
※セナ視点
「セナ、セナ、セナ、セナ……」
あの騎士、殺したい。だって、私のマスターをこんなに怯えさせてるんだから。
でも、マスターにだめって言われちゃったし、それに、こんなに可愛くて、私を求めてくれるマスターを見るのに私は忙しいから、今だけは許すことにした。……いや、許しはしない、優先順位がマスターを見ることなだけだ。
「セナ、セナ、セナ、セナ、セナ、セナ」
私がそんなことを考えている間にも、マスターは私が言った通り、私の事だけを考えてくれている。
「おい! 待てと言っている!」
あぁ、うるさいな。……マスターには聞こえないようにしてるから、まだいいけど、私だって、マスター以外の声なんて聞きたくない。
私もマスター以外の声が聞こえないようにしようかな。……いや、だめ。そんなことしたら、私があいつの存在を忘れて、マスターをもっと感じるために逃げることも忘れちゃう。
私がそんなことを考えて、少し苛立っていると、マスターがそれを感じてくれたのか、ギュッと力を強めて、私に抱きついてくれた。
いつもみたいにマスターの胸が当たって、顔が緩みそうになるのを我慢しようと思ったけど、マスターが目を閉じていることを思い出した。
マスターが目を閉じてるんだから、どれだけだらしない顔をしても、マスターに見られない。
えへへ、マスター、マスター……マスターの胸、柔らかくて、気持ちいいです。もっと、もっと――
「おい! 聞こえているだろう! これ以上逃げるというのなら、貴様らの家族がどうなっても――」
うるさい。
私がマスターの事を感じてる時に、雑音を出してくるな。
私はそろそろ、ほんとに我慢できなくなりそうだったから、逃げる速さを上げた。
「なっ」
すると、後ろからゴミの音が聞こえたけど、そんなものは無視した。
後で、マスターにいっぱい褒めてもらおう。こんなに、我慢したんだから、褒めてくれるはず。頭を撫でてもらったり、血を飲ませてもらったり、色々してもらいたい。
「マスター、もう大丈夫ですよ」
もう少し私のことを求めてくれるマスターを見ていたい気持ちはあったけど、私はそう言った。
すると、マスターは私に抱きついたまま、目を開けてくれた。
「セナ、ありがとね」
そして、私の顔を見ると、そう言ってくれて、頭も撫でてくれた。
「えへへ……ますたぁ……」
私はそれが嬉しくて、だらしない声が漏れてしまった。
さっきまでは、声は我慢できてたけど、こんなに嬉しいことをされたら、我慢出来るわけが無かった。




